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KimBallスピネットピアノの修理、調整

スピネットピアノ
「音が出ないピアノの修理をして欲しいので診て欲しい」
と事で、お伺いして修理のためアクションをお預かりしてきました。
ピアノはKimball(キンボール)
外観からするとコンソールスピネット
どちらか微妙な感じに見えます。
コンソールであって欲しいと願いながら
屋根を開け確認すると、残念な事にスピネットでした。
何故残念かというとスピネットというピアノは
アクションが鍵盤よりも低い位置にあり
ピアノにもよるのですが修理も調整も非常にやり難いのです...
アクションの上半分
このピアノの場合
鍵盤より高い位置にはハンマーのバットから上だけが見えている造りです。
スピネットによっては
ハンマーヘッドが鍵盤と同じ高さか、低い位置にあり
アクションがすっぽり下に納まっているタイプのものもあります。

アクションの下半分
アクションの下半分は棚板よりも低い位置にあります。
ウィペンの手前にもう一つフレンジがあり
そこからワイヤーが伸びて鍵盤の奥側と繋がり
鍵盤の動きと連動させる仕様となっています。
鍵盤周りの調整をする場合は
毎回いちいち鍵盤奥側のワイヤーを外さなければならず
全鍵外す場合は88鍵分外さなければなりません。
外したからには鍵盤を戻す際には、また付けなければなりません。
アクションをピアノ本体から外す場合も同様で
普通のピアノであればアクションボルトを二ヶ所ないし
三ヶ所程度外せば一瞬でアクションがピアノから取り外せます。
このピアノでアクションを外そうとすると
鍵盤とウィペンを繋ぐワイヤーを88ヶ所取り外してからアクションを外し
アクションを戻す際はまた88ヶ所付け直さなければなりません。
例えばウイペンフレンジスクリューのネジ1ヶ所増締めしたいような場合でも
88ヶ所付け外し作業をしなければなりません。
ピアノの状態を拝見する為に
試しに一度アクションを外してみると
鍵盤から外されたウィペンと繋がるワイヤーがダラリと手前側に垂れ下がり
これがちょうど棚板奥側もしくはバックレールクロスに引っ掛かり
こうなっってしまうと、もはやアクションを上げる事も
下げることも出来ず身動きがとれなくなります。
ひとまず棚板奥側に
滑りの良い長く薄い板のようなものをあらかじめ充てがっておき
それからアクションを引き上げるなりセットするなりしておく事で
どうにかアクションの付け外しが出来る事を確認しました。
(その際、依頼者であるご主人様に手伝って頂いてます)
なんとも非常に作業性が悪く
今日ではスピネットが廃れてしまったのが納得出来ます。

ピアノの現状としては
何十年も弾かれる事なく、もちろん調律もされず
慢性的に湿度の高い部屋に設置されていながら除湿もされず
屋根はもちろんですが鍵盤蓋も閉めた状態で放置されていた為に
大半のフレンジが重度のスティックを起こし
音が出ない状態となっています。
酷いスティックを起こしているので
一度弦方向へ行ったハンマーの戻りは当然悪いのですが
戻りの悪い原因はもう一つあって
バットスプリングの大半が錆びて折れてしまっているのと弾力を失っている為
余計に戻りが悪くなっています。
バットスプリングは一般的なバットに取り付いているタイプではなく
スタインウェイのアップライトに見られるような仕様であるため
汎用品が使えませんので製作しなければなりません。
オーナーさんから
是非治して欲しいと言われ
修理を引き受ける事になりました...

アクション
ピックアップしてきたアクション。
汚れが酷く、持ち主さんの話しからすると40年分の汚れです。
ウィペンヒールから伸びている棒状のものが鍵盤の後端に繋がります。

折れたバットスプリング
大半が折れてしまい機能していないバットスプリング。
軽く手で触れただけで根元から折れてしまいます。
もはやスプリングとしての弾力はありません。
よく観察してみると、緑色のアンダークロス及び木部が湿気を吸い
そこから錆が進んでいるようです。

燐青銅線
汎用品のバットスプリングが使えないので
0.5mmの燐青銅線を巻いて造ることにしました。

巻いて造ったバットスプリング
巻いて造ったバットスプリング2
バットスプリングを巻いて造りました。
88本同じ形状に巻くのはなかなか大変でしたが
思っていた以上に綺麗に出来ました。

復元されたバットスプリング
元通りにバットスプリングが復元されました。
修理前はスプリングが効かないため
レットオフしませんでしたが
きちんとレットオフしてくれるようになりました。
スプリングはダンパーストップレールに手前側から挿入し
奥側で上方向に折り曲げて細い溝にはめる構造で
接着などはせずに固定されています。
この方法であれば後でまた修理可能という訳です。

ダンパーフェルトの貼り替え
ダンパーフェルトは経年劣化で硬くなり
止音の度にキュッ!と雑音を出していたので
全て貼り替えます。

バットフレンジのセンターピン交換
スティックが酷くまともに弾けない状態ですので
センターピンはバット、ジャック、ウィペン、ダンパー、全て交換します。
まずはバットフレンジのセンターピンを全て交換します。
フレンジ専用のトルクゲージを使って正確にトルクを調整します。

割れたフレンジ
いくつかのフレンジはパックリと割れていました。

接着垂れ
ハンマーシャンクの接着剤が
バットのクッションフェルト付近ま垂れているものも。
バットフレンジの稼動域に影響していました。
センターピン全交換作業をすると
他の様々な不具合が見つかりますので
都度直しながら進めていきます。
また、そうやって小さな問題を修正していくことで
普段「調律」しかされていないピアノ等では
修理後のカッチリ感が体感頂けるかと思います。

ウィペンアッセンブリーのセンターピン交換
ジャックとウィペン、ダンパーのセンターピンも全て交換します。
湿度の高い場所に置かれるピアノの場合は
同時にセンターピン用の潤滑剤を施工しておいたほうが良さそうです。
ウィペンヒールに相当する部分に繋がっている部品が鍵盤後端につながります。
普通のピアノは
鍵盤の奥側でアクション(ウィペン)を押し上げる格好になりますが
このスピネットの場合は
ウィペンよりも高い位置にある鍵盤が引き上げる格好になります。

【メモ オリジナルのセンターピン番手】

  • バット #21
  • ジャック #19 1/2
  • ウィペン #21
  • ダンパー #20 1/2


その他付帯作業として
ハンマーへの針の下入れとハンマーファイリング、
ダンパースプーンの磨き直しと潤滑、
ダンパーレバースプリングの磨き直しと潤滑、
ダンパーストップレールとベースダンパーレールの磨き直しと潤滑等々
気になった部分には手を入れてあります。
レギュレチングスクリューはレールに固着し
まったく回すことが出来ない状態でしたが
CLPを挿しながら電熱コテでスクリューの頭を熱してやり
様子を見ながら左右に廻してやる
というのを繰り返してやる事で動くようになりました。
このピアノ、とにかく可動する部分は
どれも湿気でスティックを起こしています。

錆びたフレンジスクリュー
機能上は問題ないのですが
フレンジスクリューの錆が酷いのが気になります。

ラストリムーバー

2倍に薄めたラストリムーバーに丸一日浸けて様子をみることに。

ラストリムーバー2
ぉ!

綺麗になったフレンジスクリュー
ほぼ完璧に錆が落ちました。

アクションの修理が仕上がったら
ピアノに戻して調整に入ります。

ダンプチェイサーの取付け
せっかく直したアクションが
湿気で再びスティックを起こさないよう
ダンプチェイサーを取付けました。
初めての導入のタイミングとしてはちょうど良い季節でした。
ダンプチェイサー初回導入のタイミングについては
少しだけ気をつけたいポイントがあります。

内部清掃
その前に内部清掃を済ませます。
放置されていた年数の割には埃が少かったのですが
これは鍵盤蓋も屋根も締め切りだったこと事が想像されます。
そして湿度の高い部屋で鍵盤蓋と屋根を締め切っていた事が
スティックをより酷くしていたのでしょう。

鍵盤ならし
バランスキーピン、フロントキーピンを清掃し潤滑したあと
鍵盤ならし、鍵盤あがきを。
鍵盤調整は5つのポイントに注意しながら調整していくと
鍵盤は理想的な動きをしてくれます。

ファイリング後のハンマー先端が
3本の弦に同時に接するよう三弦合わせを修正しました。

ロストモーション
ロストモーション、カラ修正は鍵盤後端で
行います。
レットオフは全体にかなり広めになっていたので2mmから4mmほどに修正。
レギュレチングスクリューを廻せるように治しておいてよかったです。
スプーン掛けは、工具が掛かり難く難儀しましたがどうにか調整出来ました。

調律は 50cent から半音落ちているのを
調律2周でどうにかピッチ上げしました。
何本かは断線を覚悟していましたが
運良く断線は無し。
これだけピッチが低下しているとまたすぐに狂いますので
次回の調律は早めに行う事になります。

修理調整完了
朝から夕方まで掛かった本日の作業は完了。
まだまだ精度の高い調整には至っていませんので
今後繰り返し行う定期調律の際に手を入れていくことになります。
スティックが完全に解消され
適正トルクで動くフレンジによって、ストレスの無いタッチになりました。
このピアノは最高音部の打弦点が非常に正確に出ているようで
最高音セクションまで綺麗に鳴ります。
外装を外して音を出していると
五月蝿いくらいに鳴るピアノに復活しました。

音が鳴らない、鳴り難い
鍵盤の戻りが悪い、戻らない、
一度目の打鍵の際は音が出るが
2度目以降が鳴らない等々の症状でお悩みの方のピアノは
フレンジその他がスティックを起こしている可能性があります。
センターピンの全交換をしフレンジを適正トルクに修正するなど
一度しっかり修理して、同時に湿度管理を行うようにすれば
スティックに悩まされる事は無くなります。

【KimBallスピネットピアノの調整@東京都荒川区】

ピアノ調律に関するご質問は、
お気軽に渡辺宛 info@piano-tokyo.jp までお問い合せください。

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