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作業事例一覧

APOLLO A.6 消音ユニットの取外しと必要な修理と調整

アポロA6アクション
鍵盤が重く、鍵盤の戻りも悪いので
修理・調整して欲しいとEメールで作業をご依頼頂きました。

鍵盤が重いという場合、すごく大まかに言えば2つに分類されます。

  1. もともと鍵盤が重いピアノである(設計、構造上)
  2. 修理、調整が必要な状態である

1.の場合はタッチウエイト調整を行えば、弾きやすいピアノになります。
2.の場合は、元々は普通のタッチウエイトだったはずのピアノが、後から何らかの理由で修理や調整が必要となってしまい鍵盤が重くなったケースで、この場合は必要な修理や調整をすれば、納品時の状態に戻す事が出来ます。
ピアノによっては1.と2.、両方の問題を混在している場合もあります。

今回作業をご依頼頂いたアポロ(東洋ピアノ)のアップライトの場合は「2.修理、調整が必要な状態である」でした。
東洋のアップライトはBWが小さいものが多いので、鍵盤やアクションが正常に機能していれば普通鍵盤は軽い筈なので、タッチが重い場合は鍵盤からアクションまでで何かしらの不具合を抱えていると見立てる事が出来ます。

まずは2年空いてしまったという調律にお伺いしつつピアノ全体のチェックにお伺いしました。

古い消音ユニット
古いタイプの消音ユニットが付いています。
聞くとまったく使ってないとの事。
消音ユニットが付いているとタッチと音がひどく劣化するのでご相談の上取り外す事になりました。

取り外された消音ユニット
使っていない消音ユニットを取り外しました。

スッキリした棚板
消音ユニットが取り外されて棚板がスッキリしました。

引き続きここからはアクションをしばらくお預かりして修理作業となります。
このピアノは
「2.修理、調整が必要な状態である」の為に鍵盤が重いので、それらの作業をしなければタッチが軽くなりません。
具体的にはフレンジがスティックを起こしているので、
センターピンの交換が必要なのと
ダンパーレバークロスが削れてしまっているのでクロスの交換が必要になります。
同時進行で細かな部分にも手を入れます。

ハンマーアッセンブリー
これはハンマー関連のひとかたまり(アッセンブリー)なので
ハンマーアッセンブリーと呼ばれます。
皆が「ハンマー」と言ってるのは上部にある白いフェルトのハンマーヘッドの事ですね。
上部のハンマーヘッド(ハンマーフェルト)で弦を叩きます。
ハンマーヘッドから下に伸びている棒はハンマーシャンク。
ハンマーシャンクが下側で植わってるのがバットと呼ばれる部品です。

バット
バットにはバットフレンジという回転部品が繋がれていて、回転の中心はセンターピンと呼ばれる回転軸です。
センターピンの周りはよく見ると赤いクロスが取り巻いているのが確認出来ると思います。
湿度の高い環境に置かれたピアノは
ブッシングクロス(センターピンを取り巻く赤いクロス)が膨張しセンターピンのサイズより穴が小さくなってしまうので
センターピンは締め付けられて上手く動けなく(回転出来なく)なってしまいます。
この状態をフレンジのスティックと言います。

バットからフレンジを取り外す
スティックを解消するには一度センターピンを抜く必要がありますので、バットからバットフレンジを取り外します。緑のひもが上部に付いた部品がバットフレンジです。

古いセンターピンを抜く
古いセンターピンを抜きます。

狭くなったブッシングクロス
小さな赤い丸、ブッシングクロスの穴が湿気で膨張し狭くなっている為にセンターが上手く回転出来ない訳です。

新旧センターピン1
新旧センターピン2
下が古いセンターピンで
上がこれから入れる新しいセンターピンです。
新しいセンターピンは少し長いですね。

リーマー1
リーマー2
リーマーという工具で狭く閉じてしまったブッシングクロスの穴を適正なサイズに調整します。
少しリーマーを通してはセンターピンを挿入して確認というのを何度も繰り返して適正トルクになるよう調整します。

ブロアで吹く
リーマーを通すとブッシングクロスの削りかすが出るのでブロア等で吹き飛ばします。

センターピンをセット
適正トルクとなるよう調整が決まったら
新しいセンターピンをセットします。
新しいセンターピンはフレンジの幅より長いのではみ出します。

センターピンをカット
長い分はセンターピンカッターでカットしたら出来上がりです。
センターピンをフレンジの両脇にはみ出すようにセットして両脇をカットする方も多いと思います。
私も若い頃そのように教わりました。
最近は片側だけカットする方法で問題ないという考え方にシフトしてきているように思います。
実際、某大手メーカーの出荷時のセンターピンは片側しかカットされていないので、私も最近は片側だけカットする方法を採用しています。

センターピンのヤスリ掛け
センターピンのカット面をヤスリ掛けします。
実はこのヤスリ掛けも、切れ味の良い工具を使えば必要なかったりします。

センターピンの潤滑
センターピンに僅かに潤滑剤を塗布しておきます。
これもケースバイケースで、潤滑する場合としない場合とがあります。ピアノや状況次第ですね。

走り紙
センターピンを交換するとハンマーの走り取りが必要になります。ノリ紙をフレンジの裏に貼って走りを調整します。

ウイペン
ウイペンのセンターピン交換
ウイペンアッセンブリーです。
ここにはジャックフレンジと
ウイペンフレンジがあります。
両方のセンターピンを交換します。
ダンパーも同様にセンターピンを交換します。
このピアノのフレンジは全部で333ヶ所ありますので
333本のセンターピンを交換する事になります。
作業はバットと同じですので省略します。


ヒールクロスの清掃
ヒールクロスは定期的に清掃したい部分で
ベンジンで黒鉛を落としてやると
タッチがとてもスッキリします。

フェルトトリートメント
ヒールクロスを清掃したあと
クロスとキャプスタンとの接点が潰れているのを
フェルトトリートメントで復活させます。
一滴落として一晩経つと潰れたクロスが復活します。
(すり減ったのではなく潰れただけならば)

ジャックの角
このピアノのジャックは
奥側の角の面取りが少なく
バットスキン上を上手く行き来出来ていませんでした。

ジャックの面取り
ジャックの面取りを行って
ジャックの動きをスムーズにします。
バットスキンもあまり状態の良いものではないので
スキンの黒鉛を落とし、シェービングしてから
PTFEパウダーを塗布しておきました。
これでジャックとバットの接触面は
大分スムーズに動けるようになると思います。

ウイペン上の白い粉
しばらく弾かれない期間があって
再び弾くようになったピアノの
ウイペン上には白い粉が積もっている事が多々あります。

スラッジの溜まったダンパースプーン
ウイペンの上に白い粉を降らせていたのは
ダンパースプーンが原因です。
スプーンにスラッジが溜まりザラザラになっているので
ヤスリの役目をし、スプーンとの接点である
ダンパーレバークロスをガリガリと削っている訳です。

削れたダンパーレバークロス
ダンパーレバークロスはこのように削られてしまっています。
下側の楕円に削られた部分はスプーンが削った跡で
上部はダンパーロッドが削った跡です...

ダンパーレバークロスのカット
新しいダンパーレバークロスを用意します。

ダンパーレバークロスの交換
新しいダンパーレバークロスに交換しました。
クロスはこのように平らな状態でないと
スプーンの動きを妨げてしまい
結果としてタッチ感が悪くなってしまいます。
このアポロはオリジナルと同じ2mm厚のクロスを使用しました。
レバークロスにはPTFEパウダーを塗布しておきました。

磨いた後のダンパースプーン
ダンパースプーンを鏡のようにツルツルに磨き直しました。

スラッジの溜まったダンパーロッド
ダンパーロッドもスラッジが溜まってザラザラに。
ペダルを踏めば踏むほどレバークロスを削ってしまう悪循環に...

磨いた後のダンパーロッド
ダンパーロッドを磨き直しました。

復活したヒールクロス
汚れを落としてフェルトトリートメントしたクロスは段差が無くフラットになりました。

ヒールクロスにPTFEパウダーを塗布
復活したヒールクロスにPTFEパウダーを塗布しておきます。私は3μ以下のものを使う事が多いです。

整調
アクションの修理が済んだらお客様のピアノにセットして整調・整音を行います。

アポロピアノ
スムーズなタッチとウォームな音色の素敵なピアノに仕上がりました。

除湿器
現在は除湿器で湿度を管理して頂いてるので、今後はスティックを起こす事なく快適に弾ける事でしょう。

ピアノや調律に関するご質問は、
お気軽に渡辺宛 info@piano-tokyo.jp までお問い合せください。

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