購入時より鍵盤が重くなった
ピアノ購入時(納品時)と比べて鍵盤のタッチが重くなったとの事で
主な原因は湿度が高過ぎる事によるスティックが原因です。
納品は昭和48年で、ピアノは東洋ピアノ(アポロ)の
フリッツクーラ特性50号です。
アクションパーツにカビがみられるくらいに
湿度の高い環境ですので
センターピンを全交換することになり
アクションをお預かりして修理、調整しました。
アクションをざっと見て気付くのは
アップライトにしては大きめのハンマーが付いている事。
聞けば、一度ハンマー交換をしているそうで
恐らくその時に大きめのハンマーに交換されたようです。
またハンマー交換と同時に鍵盤鉛が抜かれて埋め木されています。
もっともこのピアノは、もともと一部の白鍵にだけ
直径10mmの鍵盤鉛が入っていて
他の鍵盤には鉛が入っていなかったピアノなので
後で必要があれば再度、鉛を追加する事にします。
センターピンは全て交換しますが
特にバットフレンジは、正確にトルク調整しました。
音色とタッチのバラツキを揃えるのが狙いです。
交換前の状態は規定のトルクをはるかにオーバーしていました。
バットプレートスクリューの締め付け過ぎで
センターピンが曲がっているものがいくつもあったり
フレンジからセンターピンが飛び出したものも何ヶ所かありました。
以前どなたかが作業したものと思われますが
湿気でスティックしたフレンジを修理せず
そのままでどうにか動く様にしたかったのか
バットスプリングが異常に強くしてあったので
(BSFは15gを軽く超えているくらいに強かった)
通常の強さに戻しました。
再調整後BSFを計ってみたところ 11g でしたので
まずまず問題ない強さになりました。
一部のジャックスプリングも
無理矢理引っ張って強くしてありましたので
何ヶ所か交換しておきました。
ダンパースプリング力は、まずまず平均的な強さで
一部極端に強い箇所と弱い箇所のみ修正しました。
スティックを解消し、スプリング力を普通にするだけで
かなりタッチは軽く感じる予感です。
見た目にも大きく重そうなハンマーでしたので
念のためHSWを全鍵分計ってみました。
やはり相当重たいハンマーに交換されていて
低音はバラツキがかなりあるものの指標7から8でまずまず、
中音からかなり重くなって指標10から11、
次高音が指標11から12、最高音は指標13から13超えです。
このハンマーの重さは
タッチの重さの原因の一つと言えそうです。
低音はばらつきを揃え、
中音、高音は出来る限り軽くしつつ
全体が少しでもなだらかになるように調整する事で
タッチと音色のバラツキを揃えるようにします。
重過ぎるハンマーは下側から穴開けをして軽量化しました。
テール部もカットしたかったのですが
このピアノのハンマーはテールが短く
カットする余地がほとんどないので
テールのカットは行いませんでした。
黒が元のHSWで、赤が調整後です。
ハンマー重量の増減には限界があるので
理想的とは言えませんが
元の状態よりは軽く、バラツキは大分無くなりました。
修理調整前のサンプル鍵盤C4のBWは45.5g
作業後のBWは40.5gまで軽くなりました。
フリクションは13で許容範囲です。
サンプル鍵盤C4のもともとのMoI(H)が1811gcm2、
調整後のMoI(H)が1744gcm2になり
MoI(W at Key)は、
181806gcm2から175736gcm2に小さくなりました。
作業後、もし軽過ぎるようだったら
タッチ調整鉛を追加して調整しようかと考えていたのですが
実際の作業を終えて試弾してみた感じでは
鍵盤鉛の入っていないピアノですが
十分に弾きやすいタッチでしたので
あえて鍵盤鉛は追加しませんでした。
鍵盤鉛の入っていないこのピアノの
MoI(K)は10863gcm2と小さいのですが
比較的重めのハンマーが付いていて
SRが2.4とアップライトとしてはまずまず大きいので
鍵盤鉛が無くても十分に弾きごたえがあるようです。
お客様に試弾して頂いたところ
「軽くなってます!」とのことで
このタッチで問題なさそうです。
しばらく弾いてみて頂いて
もう少しタッチに弾き応えが欲しいような時は
あとで鉛調整する事となりました。
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