カワイKG-6Cの精密タッチウエイトマネジメント(FW基準)
カワイKG-6Cの精密タッチウエイトマネジメント(FW基準)を行いました。
お預かりしていたアクションを本日納品(及び調整)させて頂き
調整後のピアノを弾いたお客様の第一声は
「すごい軽いですね、嬉しい!」という反応で
とても喜んでもらえました。
KG-6Cは以前にも作業しましたが、それとは別のKG-6Cです。
お客様からEメールで問い合わせを頂いて
元々タッチの重かった昭和53年納品のグランドピアノを
40年程経ったところで修理工房にオーバーホールに出したそうです。
修理後戻ってきたピアノはやはりタッチが重いとのこと。
オーバーホールに出した工房の若い調律師さんに
その後3回調律に来てもらっていて
毎回タッチを軽く出来ないかとお願いしてみるのですが
調律師さんからは「これ以上は軽く出来ない」と言われるのみ。
でもやっぱりタッチが重くて弾くのが大変なので軽くして欲しい
といった内容です。
アクションを引取にお伺いした際に弾いてみたところ
ずっしりと重いタッチで確かに重すぎて弾くのが大変そうです。
全弦張り換えやフレームの再塗装などがされていて
アクションはハンマーアッセンブリーが交換され
ウィペンはオリジナルのままで手付かずの状態で
センターピン交換もされておらず
フレンジはスティックぎみでした。
鍵盤は前後キーブッシングクロスが交換されていますが
接着が上手く無く、いくつも剥がれかけていたり
少し力を加えるとポロリと剥がれてしまう状態です。
低音と中音のウイペンにはアシストスプリングが付いていて
次高音と高音にはアシストスプリングは付いていません。
整調はおそらく満足に作業していなくて壊滅的な状態で
多くの工程が基準から大きくずれています。
お伺いした日は梅雨真っ盛りで湿度が高く、除湿はしていません。
戸建ての1Fということもあって部屋の中も蒸し蒸しです。
伺うとこれまで湿度を気にした事はないそうで
40年以上ピアノに湿気を吸わせてしまっています。
多湿な状況でさらにオールカバーが掛けてあるので
ウイペンのフレンジがスティックぎみなのも納得です。
簡単にではありますが湿度管理についてご案内させて頂きました...
全弦交換してあるのでまだ安定せず、調律はすでにかなり狂っていたので
ピッチ上げ調律を済ませてからアクションをお預かりしてきました。
お預かりしたアクションを
中村式タッチウエイトマネジメントを利用して
標準的なタッチウエイトに近づくよう作業します。
今回はBW基準ではなく、FW基準で調整していきます。
オリジナルの状態では
C1 : DW76g UW35g BW55.5g F20.5g
C2 : DW66g UW29g BW47.5g F18.5g
C#2 : DW66g UW30g BW48g F18g
C4 : DW63g UW31g BW47g F16g
C#4: DW72g UW34g BW53g F19g
C6 : DW59g UW34g BW46.5g F12.5g
という結果で、全鍵でBWが45gを超えていますので
静的重さだけで言えば重すぎて弾くことが難しい状態となります。
ウイペンはアシストスプリングが付いたタイプです。
フレンジを手に持つと斜め上に跳ね上がるほど強力に効いています。
アシストスプリングがあると
タッチにダイレクト感が得られなくなるので全て取りはずします。
ウイペンフレンジは木製ではなくプラでスティックぎみになっていたので
センターピン交換をしてトルクを調整しておきます。
サポートレバートップの黒鉛が塗られた部分にザラツキがあるので磨き直しておきます。
ヒールクロスは黒鉛が塗られていたので
ベンジンで拭き取ってPTFEパウダーを塗布しておきました。
同時にヒールにシムを挿入しておきます。
ヒールの形状とクロスの厚みから、通常より少し厚めのシムを入れておきます。
アクション各部のデータ採集をして
ウイペンアシストスプリングを外した状態で平衡等式を作成します。
BWは低音と中音ではアシストスプリングが無くなったので数値は極端に大きくなります。
FWもアシストスプリングに頼っていた為、シーリング値よりもかなり小さな数値です。
Fは全体に大きめ。
HSWは最低音は指標9.5、そこから高音までは
指標8、指標7と思ったほど重くはありませんでした。
ハンマーアッセンブリーが交換されているので
念のためローラー距離を確認しましたが、オリジナルと同じで問題ありません。
SRは6.7から7.3とかなり高めです。
現状のHSWスマートチャートを作成しHSWの傾向を確認します。
見た目では綺麗に揃っているように見えるハンマーも
実際の重さはかなりのバラツキがあることが分かります。
この分布からは指標8から指標8.5揃えるのが現実的でしょうか。
C6を使っての事前シミュレーション。
HSWはオリジナルの指標7から指標8にして、BWは46.5gから49.2gになります。
SRを下げる為にバランスパンチングクロスの半カットを行い
BWが49.2gから46.5gに下がります。
もう一段階SRを下げるのにヒールにシムを挿入し
BWは46.5gから43.8gになります。
最後に鍵盤鉛調整を行いBWを43gにすると
FWはシーリング値マイナス1gになり
なんとか弾く事の出来るピアノになりそうです。
他のサンプルキーでもシミュレーションした結果
FWをシーリングマイナスにするには
BWを43g程度に設定するのが現実的となりました。
BWが43gですので静的重さだけで言えば少し重めという事になりますが
慣性モーメントを出来るだけ小さくする事で
実際に弾いた感じは軽くなるように調整していきます。
今回はBW基準ではなくFW基準で作業します。
「BWが全鍵綺麗に揃っていてFWにはバラツキがある」という状態よりも
「FWとHSWがきっちり揃っていてBWにしわ寄せを出す」ほうが
実際に弾いてみた感じは
後者の方がタッチが揃って感じるので、FW基準で作業を進めていきます。
C6(64Key)の鍵盤鉛位置をシミュレーションします。
オリジナルは慣性モーメント値が28063gcm2です。
外側に入っている12mmの鍵盤鉛を抜いて
内側に14mの鉛を2つ入れることで
慣性モーメント値が26084gcm2となり
鍵盤の慣性モーメントはオリジナルより7パーセント小さくなる結果になりました。
今回はBWが若干大きめなのでCoGは考慮せずに
慣性モーメントが出来る限り小さくなる位置に決めます。
HSWを調整しました。
黒がオリジナル、赤が調整後です。
バラツキの大きかったオリジナルの状態から
連続してなめらかに揃う状態に調整しました。
HSWが綺麗に揃っているとタッチが揃うとともに
音色も揃いやすくなります。
オリジナルのFW実測値です。
低音と中音はアシストスプリングに頼っていたので
鍵盤鉛の数が少なくFWは極端に小さめ。
次高音から高音まではシーリング値付近を推移しています。
FWを測定し実測値を見ると
オリジナルのFWは驚くほどバラツキがある事が分かります。
FW基準で鍵盤鉛の位置決めをします。
元々入っていた外側の鉛は事前に抜いておき
内側に寄せて鍵盤鉛を配置します。
鉛の数が増えても慣性モーメント値が小さくなる理由は
書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」の
71ページ、図4-6で解説されている通りです。
今回は平衡等式を使った事前シミュレーションの結果から
シーリング値マイナス1gとなるよう位置決めしていきます。
鍵盤鉛調整をした後のFW実測値です。
黒がオリジナルで、赤が調整後です。
シーリング値より低い位置でなめらかな曲線を描いています。
FWが綺麗に揃うことで
全鍵に渡りタッチウエイトが揃って感じらるようになります。
この作業での注意点は
例えば30KeyのFWを32.3gに設定し
隣の31KeyのFWを31.7gにする場合
両方の鍵盤で鍵盤鉛の配置が極端に違わないようにする事です。
30Keyは内側の鍵盤鉛がバランスピンから100mmの位置で
31Keyはバランスピンから50mmの位置にして目標FW値になったとしても
実際に弾いた時にはタッチが揃って感じられなくなりますので
隣り合う鍵盤の鍵盤鉛の配置が
出来るだけ同じ傾向になるように揃えると
弾いたときのタッチが滑らかに感じられます。
FW基準の鍵盤鉛調整後の状態です。
上が低音側、下が高音側になります。
外寄せで入っていた鉛は事前に抜いてあります。
慣性モーメントを小さくしタッチを軽くする方向で作業していますので
全体に鍵盤鉛が内側に配置されています。
BWが最大55.5gもあって重すぎて弾けなかったKG-6Cでしたが
BWを43gにし、慣性モーメントを可能なかぎり下げた事で
無事に弾きやすいタッチのピアノになりました。
静的重さよりも慣性モーメントの影響が大きい事が
仕上ったピアノを弾いてみて再確認出来ました。
納品にお伺いした日には、既に除湿器を導入して頂いてました。
適湿にキープすることで、ピアノを安定した状態に保てます。
グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。
渡辺ピアノ調律事務所
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