ヤマハC5Aのタッチウエイトマネジメント
ヤマハC5A 430万番台 の「タッチウエイトマネジメント」を行いました。
ここ最近、タッチウエイトがBWではなく
慣性モーメントの影響のほうが大きい事を示す
分かりやすい2台を調律する機会がありました。
1台はボストンGP178。
顧客が鍵盤が重いという事を調律師さんに伝え
作業してもらったという結果がこれです。
「BWを小さくする = タッチを軽くする」という思考のもと
鍵盤底面の目一杯手前に貼付け式の鉛が追加されていました。
このピアノのBWを計ってみるとBW32g前後で
数字だけで言えばタッチはとても軽い筈ですが
弾いてみるととても軽いタッチとは言い難い状態。重い!
バランスピンから遠い位置に鍵盤鉛を追加した為に
慣性モーメントが大きくなりタッチが重くなってしまったのです。
これでは弾きにくいでしょうという事で顧客に説明の上
貼付け式のタッチ調整鉛を取り外したところ
BW39gに戻り、あきらかに弾きやすくなりました。
もう1台はアポロのグランドピアノで
対照的にBWは50g前後あって、数値だけなら重たいタッチの筈。
ですが実際に弾いてみると数値ほどの重さは感じません。
その理由としてこのピアノには
ウイペンにアシストスプリングが付いていて
鍵盤鉛が低音セクションでも1個から2個
中音から上は鍵盤鉛が入っていないので
鍵盤由来の慣性モーメントが小さく
弾いてみた感覚はBWの数値ほどには重く感じないという訳です。
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さて今回タッチウエイトマネジメント作業の依頼があった
ヤマハC5Aですが、お客様曰く
「現在お世話になっている調律師さんに鍵盤が重い旨を伝えたところ
「そこまで重いですか?古いピアノだしねぇ」と曖昧な返答が...
「少しタッチを軽くしてみましょう」と調整はしてくれたそうですが
「軽くなった気がする」程度の変化と「タッチが硬くなった」感じになり
根本的な解決には至らなかったそうです。
主な使用者は小学生の子供さんで、
大人ほどの手の大きさやパワーがまだ無く
レッスンで使っているピアノはもう少しタッチが軽いとの事で
もう少し弾きやすいタッチでストレスなく
練習出来るように調整して欲しいとのご依頼です。
オリジナル状態のサンプル音を使って平衡等式を作成します。
BWは高音で少し重い程度でとくに重くはないですが
白鍵よりも黒鍵が重いのが数値からも実際に弾いた感じからも感じとれます。
Fは若干高めのキーがあるものの一応許容範囲。
FWは低音でシーリング値を超えている鍵盤があり、中音、高音は問題なし。
SRは6.0から6.6で高めのキーもあります。
HSWは低音が指標8から指標9、
中音から高音は指標6.5から指標7で軽めです。
低音のHSWが若干重めなので、BWを下げるために鍵盤鉛が多くなり
結果としてFWがシーリング値を超えてしまっています。
C2(16key)を3要素関連表で確認してみると
SRが6.1でHSWが指標9ならば
BWは46gになるとあります。
しかし実際には、このピアノのC2のBWは35.5gなので
鍵盤鉛を多く入れてBWを下げているという事になります。
結果FWはシーリング値を超えてしまい
鍵盤を動かしにくくタッチの重い鍵盤になっています。
オリジナルのHSWスマートチャートを作成。
低音は指標8から指標9、中音から高音は指標6から指標7.5くらいで
低音と中音の境目では0.8gも差があって
これではタッチと音色が繋がりません。
低音を下げて全体を指標7に寄せていき
なめらかにつながるうように調整する事とします。
低音のHSWを下げ、FWをシーリング値マイナスにして
同時に鍵盤鉛を内側に寄せて入れ
慣性モーメントを下げ、軽く弾きやすくします。
BWは38gに設定。
白鍵と比べ黒鍵が重いので、黒鍵のSRを下げて
黒鍵を白鍵に重さまで軽くする方向で作業します。
Fが高い鍵盤はもう少し下げるよう調整します。
HSW調整後(赤)。
指標7に寄せて隣り合うハンマーの重さを揃えました。
隣りのハンマーとの重さが揃うとタッチはもちろんですが
音色も揃ってきて納品時の整音がとても楽になります。
ヒールにシムを挿入します。
ウイペンは取り外さなくても作業出来ますが
外して作業しました。
その理由は
フレンジのトルクを確認して調整したいので。
ついでにヒールクロスの汚れを落としてPTFEパウダーを塗布。
サポートトップの黒鉛の塗られた部分を磨き直し
スプリングの接点も磨き直しておきます。
バランスキーピン、フロントキーピンを磨いて潤滑を済ませます。
ついでにベッデイングスクリューも磨いておきました。
バランスホールと前後ブッシングクロスの清掃をします。
潰れてしまっていたフロントブッシングクロスは
フェルトトリートメントを施工し一晩おいて復活させ
その後PTFEパウダーを擦り込んでおきます。
中音セクションの鍵盤鉛調整。
一律に外側に入れてあった鉛がタッチを重くするので抜いて
新たにバランスピン側に14mm、12mmの鉛を追加しました。
使われる鍵盤鉛の数は多くなりますが
同じFWに設定する場合、鍵盤鉛を支点側に寄せたほうが
慣性モーメントはとても小さくなります。
※これについては書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」の
70ページから71ページに説明がされています。
あらかじめ事前整調をしてお客様のところにアクションを納品します。
事前整調は済ませてありますが
ピアノ本体にアクションをセットして再度
整調、整音して完成です。
お客様からは
「余計な力を入れずに弾けるようになった」
「速い音の繰り返しや装飾音符も弾きやすい」
「長時間弾いていても疲れない」
と仰って頂き、ひとまず安心。
お客様からギフトを頂きました。
K様、ありがとうございます。
グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
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