ヤマハ G3(昭和41年)のタッチウエイトマネジメント
Eメールで「タッチウエイトマネジメント」作業のご依頼を頂きました。
「他所で弾くピアノと比べて自宅のピアノの鍵盤は異常に重い」との事です。
お伺いした日に調律を済ませ、鍵盤を軽くする作業を行うために
アクションをお預かりしました。
BWがとても重くて、ほとんどのキーで45gを超えています。
Fも異常に大きく大半が15gオーバー。これはスティックによるものですね。
HSWは予想に反して非常に軽く、指標4.5程度。
SRは高め。
鍵盤鉛が少なめなのでFWはシーリング値を下回っています。
オリジナルのHSWスマートチャート。
指標4から指標5程度と非常に軽いです。
オリジナルの4Key(C1)での平衡等式を利用してのシミュレーション。
HSWはオリジナルの指標4.5を維持。
パンチングの半カットでSRを下げ、BWは49.5gから45.5gに。
さらにヒールへのシム挿入でBWが45.5gから41.5gまで下がります。
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行いBWは38gとなり
FWは35.1gでシーリング値マイナス5.5となるので
弾きやすいタッチのピアノに仕上げる事が出来そうです。
DWとUWを気にする向きの方々の為に付け加えると
シミュレーションでは最終的なDWが72.5g、
UW3.5gとなっていますが
実際の作業ではFを12gに調整し
DW50g、UW26gという結果に仕上がりました。
事前シミュレーションで必要としている項目は
DW、UWではなく、BWを標準値にする事で
さらに言えばBWを標準値に設定するとともに
慣性モーメントを下げることを作業の目標としています。
タッチを重くする外側の鉛を抜いて(距離197mm)、
新たに内側に直径14mmの鉛を2つ追加する効率的作業を選択。
最終的な結果は、BWが23パーセント減、
慣性モーメントは4.8パーセント削減することが可能となりました。
HSW調整後のスマートチャート。
赤が調整後、黒がオリジナルです。
指標4.5で滑らかに仕上がりました。
前回の調律の際に
調律師さんにファイリングをしてもらったそうなのですが
画像の通りハンマーを横から見ると
ウッドのセンターに対して
ハンマーフェルトの頂点が左にズレて
ファイリングされています...
さらにハンマーを正面から見てみると
こちらも傾いてファイリングされてしまってます...
弦溝を見ても分かる通り
弦合わせでハンマーが左によっているので
右の弦はきちんと鳴っていませんでした。
ファイリングをやり直して、ハンマーの形を整えました。
弦合わせも修正しハンマーが3本の弦の
真ん中で叩くようにしてやると鳴りもよくなります。
タッチが重いということで
以前に作業なさった調律師さんが
ローラースキンにテフロンを塗布しているのですが
黒鉛を取り除かないままテフロンを施工しているため
定着せずに効果が得られていませんでした。
ローラーをファイリングして黒鉛を除去しました。
ローラースキンの黒鉛を取り除いてから
PTFEパウダーを施工することで効果が最大限に得られます。
センターピンには緑青が見られます。
ウイペンもガチガチにスティックしていて
トルクゲージの目盛りを振り切ります。
シャンクフレンジのスティックを直すために
センターピンを交換します。
テールには溝が入っていませんでしたので
スカッチを入れます。
バックストップがカチッと決まります。
ウイペンアッセンブリーの各フレンジも
スティックしていますのでセンターピンを交換し
トルクを正常な値に調整します。
ジャックの位置が右に寄っていて
抜けが悪くなりますので
専用の工具を使って位置を修正
ジャックが真ん中に来ました。
抜けが良くなりタッチ感も向上することが期待されます。
SRが下がる位置にシムを挿入します。
キャプスタンは長いこと磨かれていないようでした。
キャプスタンの頭を磨き動きをスムーズに。
バランスホールの掃除なんかも
長いことされていませんでしたのでブラシを使い掃除しておきます。
ゴミが大量に出てきます...
バランスホールを細綿棒にベンジンを付けて掃除します。
キーピン磨きとセットでこの作業を行うと
鍵盤の動きがとても良くなります。
オリジナルの鍵盤鉛位置の様子。
上から2本ずつ、最低音、低音、中音、次高音、最高音。
最低音では12mmの鉛が3個。低音で2個。
中音では2個から1個程度。
次高音では8mmの鉛が1個もしくは無しで
途中から後方に入れてあります。
最高音は12mmの鉛が後ろ側に1個。
全体に鉛の数が少なくBWを大きめに設定しているようです。
オリジナルの最低音の鍵盤鉛の配置。
外側に寄せて鉛が入れてあるために
タッチが重くなっています。
タッチを重くする外側の鍵盤鉛を抜きます。
外側の鉛を抜きました。
新たに追加する鉛は内側に寄せます。
内側に鉛を入れる事でタッチを軽くします。
たくさん弾かれたピアノは黒鍵サイドの塗装が削られてしまいます。
黒鍵サイドの塗装の剥がれを塗り直しておきます。
写真を撮り忘れましたが
白鍵のサイドは手垢で黒く汚れますので
こちらも綺麗に取り除いておきました。
これは中音の新たな鍵盤鉛の配置です。
タッチを重くする外側の鍵盤鉛を抜いて
内側に寄せて鍵盤鉛を入れ直しました。
慣性モーメントが小さくなり
鍵盤を素早く動かすような演奏時にも
タッチは軽くなりとても弾きやすくなります。
納品してからも行いますが
事前に整調しておくことで納品時の整調がスムーズに行えます。
膨大な調整を済ませて
ようやくアクションを納品し整調を行い完成です。
BWは標準の38gになり慣性モーメントが下がり
とても軽快なタッチのピアノになりました。
納品時はご依頼頂いたご主人様は不在で奥様に立ち会って頂き、
後日ピアノを弾いた依頼者さんからメールを頂きました。
「これまで弾きにくかったパッセージも楽に弾けるようになり
ピアノはとても弾きやすくなりました。また音も良くなりました」と
ご連絡があり、作業は問題なく仕上がったようで一安心。
グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。
渡辺ピアノ調律事務所
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