ヤマハC1X(令和2年納品)のタッチウエイトマネジメント

HSWの測定

2020年11月納品のヤマハのグランドピアノ C1X のタッチウエイトマネジメントを行いました。製造番号は6511XXXです。


新品で購入したばかりですが「鍵盤が重く、疲れてしまう」との事でメールで作業のご依頼を頂きました。
ヤマハのグランドピアノは、製造番号500万番台の途中からタッチが重くなっています。これに該当するピアノは多くの方にとって、タッチが重いと感じるピアノかと思いますので、製造番号500万番台の中頃以降のピアノをお使いの方は何らかのタッチウエイト調整をすると弾きやすくなります。可能であれば静的重さ(BW)だけでなく、動的重さ(慣性モーメント)も下げると、より弾きやすいピアノになります。今回も「中村式タッチウエイトマネジメント」で標準的なタッチウエイトのピアノに調整していきます。


オリジナルのHSWスマートチャート
オリジナルのHSWスマートチャート

低音は指標8から10、中音と次高音は指標8から9、
最高音は指標9から指標12でした。


平衡等式

データ採集して平衡等式を作成します。
BWは42gから重い鍵盤では48g!これでは重くて弾けそうにありません...
Fは15.5gから20.5g。要フリクション処理ですね。面白いのはフレンジのスティックは全くありません。その他のところでフリクションが大きくなっているということになりますが、概ね検討はついています。
FWは低音でシーリング値超え、中音から上はシーリング値マイナスです。
HSWは低音が指標9.5から10、中音から上は指標9。
SRは6.0から6.7。


平衡等式を利用しての事前シミュレーション
平衡等式を利用して事前シミュレーション

オリジナルのHSWの傾向から中音のHSWは指標8程度で揃えることにします。
HSWを10.4gから10.0gまで下げることでBWは45.5gから43.5gに。
パンチングの半カットでSRが0.4程度下がることを想定しBWは43.5gから39.5gに。
さらにヒールシムをSRが0.2下がる位置にセットしてBWは39.5gから37gに。
最後にBW基準の鍵盤鉛調整でBWが38g、FWがシーリング値マイナス3gとなって、標準的なタッチウエイトの弾きやすいピアノになりそうです。


HSW調整後

HSW調整後。
隣り合うハンマーの重さが揃うことでタッチも揃って感じられるようになります。同時にハンマーの打弦音も揃ってくるので、音色が揃いやすくなります。
このピアノ、全体にかなり落ち着いた音色に整音されていて、次高音から最高音は落ち着きすぎていて音量が不足しています。(恐らく針の入れ過ぎ)
これを鑑みて、次高音から最高音は指標9と少し重さをもたせて、全体の音色のバランスを取る方向で調整しました。



FWと慣性モーメント

一番外側の鍵盤鉛を抜いて、144mmと61mmの位置に12mmの鉛を。
30mmの位置に8mmの鉛を入れる効率的作業を選択。
CoGは0.417。


BWと慣性モーメント

最終的にアクション全体での慣性モーメントが8.1パーセント減、BWが16パーセント減となりました。


ウイペンヒールクロス

ウイペンヒールクロスは低音と最高音で接着剤が多めに使われた為か、事実上の全面接着になっていました。ヒールクロスを全面接着する方針になったのかと思いきや、中音と次高音は両端だけの接着でしたので、仕様変更という事でも無いようです。ヤマハらしくないですね...


ヒールシムの挿入

全面接着を慎重に剥がしてヒールシムを挿入しました。


レペティションレバー

レペティションレバーの裏側のスプリングと当たる部分、通常「黒鉛」が塗布されている箇所。
アップライトのダンパーレバーと同じエムラロン?に変更されていました。
将来的に雑音が出そうな気がします。要経過観察です...


ダンパーレバー

なんとダンパーレバーは樹脂に変更されています!
こうしてどんどん昔のピアノが見直されいく事になりそうです...


新しい鍵盤鉛の配置

中音の新しい鍵盤鉛の配置。
外側の鍵盤鉛は慣性モーメントを大きくしタッチを重くするので抜き出して、新たに内側に鍵盤鉛を2個追加しました。
鉛の数が多くのなるのにタッチが軽くなるのは慣性モーメントが小さくなるからです。
これについては中村さんの本、「タッチウエイトマネジメントの方法」の71ページ、
図4-6「鍵盤鉛のフロントウエイトと慣性モーメントへの影響の比較」で説明されています。


ヤマハ C1X


納品。整調を見直して完成です。

お客様に弾いて頂いたところ
「全然違う!」と喜んで頂けました。



頂き物
いただき物

H様、お菓子ありがとうございます!


グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
メール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。


渡辺ピアノ調律事務所
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