ヤマハ C3AEのタッチウエイトマネジメント
「低音の鍵盤が重くて左手が痛くなる」とメールで【精密タッチウエイトマネジメント】作業のご依頼がありました。ピアノはヤマハ C3AE 製番60005XX です。Y社のタッチは製番500万番台の途中から、現行のモデルに至るまでタッチ重め傾向が続いています。
前任の調律師さんにも「タッチを軽くしてほしい」とお願いしていたようで、ジャックがかなり手前に倒してありました...
いまだにタッチを軽くするためにジャックを手前に倒す技術者が居るようですが、残念ながらジャックを手前にしてもタッチは軽くなりません。
AR、SRもそうですが、とくにギアレシオがかなり変化してタッチは軽くなるどころか重くなってしまいます。
横から見るとジャックが手前にセットされているのが分かります。
ジャックの奥側(赤ライン)はローラー芯板の奥側(白ライン)と重なるのが正しい位置です。アクションの構造的からみても、ジャックを手前にすると加速が得られない(パワーロス)ことになりタッチは重く感じられるようになってしまいます。
作業終盤の仕上げの整調で正しい位置に直します。
88鍵のHSWを測定し、現状を確認します。
HSWスマートチャートを作成。
お客様が感じていたように「低音が重い」のが確認できます。
14keyは指標10.5もあります。
低音は概ね指標10。
中音は指標7から指標8。
次高音の終わりくらいから指標9になり、最高音で指標10。
平衡等式を作成して現状分析。
BWは45gを超える鍵盤も多く重めの鍵盤がある一方で、BW40g前後の鍵盤も混在。
Fは9.5gから13.5gと問題なさそう。
FWは低音ではシーリング値超え。中音はシーリング値マイナス。
HSWは低音で指標9から指標10と重め。中音・高音は指標7から指標8で軽め。
SRは6.1から6.5と高め。
平衡等式を利用して、重たい低音をどの程度軽くすることが可能かのシミュレーション。
画像は16key(C)です。
結果として、BW38gにするとFWは36.1gになりシーリング値マイナス1.4g。
この時SRは5.5gまで下がってますのでこの辺りが限界でしょうか。
またはBWをもう少し重たくしてFWを下げて鍵盤の動きを優先することも考えられます。
あるいはSRをさらに下げればBWとFWを下げられますが、いよいよタッチが出なくなってしまう可能性がありますね。
HSW調整後のスマートチャート。
低音を指標9に下げて、中音が低音と繋がるように指標8.5に上げ、
高音で指標9となるように調整しました。
平衡等式と慣性モーメントとを連動させて調整するために鍵盤テンプレートを作成。
16key(C)です。慣性モーメントを大きくする外側の鉛を抜いて、新たにバランスピンから96.5mmの位置に14mmの鉛を。56mmの位置にも14mmの鉛を追加します。
結果、BWは46.5gから38gに下がり18パーセント減。
換算慣性モーメントは173,518gcm2から159,774gcm2になり7.9パーセント減に。
一部のシャンクフレンジでトルクの大きい状態でしたので、センターピン交換をしておきました。
パンチングカット後の接着待ち。
ウイペンヒールにシムを挿入。
ジャックがサポートのセンターからずれているものがあります。
専用のプライヤーを使って
ジャックがセンターにきました。
ヒールの汚れもこの機会に
ヒールの汚れを一拭きしておきます。
ブラシを使ってバランスホールの掃除。
バランスホールのシンク内側は汚れでベットリ。
バランスキーピン磨き。
錆よりは汚れてベトベトしているのがいけない。
電動工具で一気に磨きます。
キーピンが綺麗になったらベディングがそのままなのが気になるので
ベディングスクリューも磨きました。
ローラーの黒鉛を落としておきます。
左がファイリング後、右がファイリング前。
外側の鍵盤鉛が動的重さに影響するので、あらかじめ抜いておきます。
BW基準で鍵盤鉛調整。
オリジナルよりも内側に鍵盤鉛を寄せて
動的重さを下げます。
新たに内側に鍵盤鉛を追加するために穴開けをします。
ピアノにアクションを戻して、整調をすませ完了です。
(整調作業の写真は省略で...)
「軽くなってるかも!」と喜んでもらえました。
グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
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渡辺ピアノ調律事務所
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