ヤマハC7のタッチウエイトマネジメント

ヤマハ C7
ヤマハのグランドピアノ C7 のお客様から
鍵盤が重いので軽くして欲しいとのご依頼があり
アクションをお預かりしてきて
タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
を実施しました。

 

製番3670XXX、昭和58年納品で年数なりに
そこそこの頻度で弾いていた様子が
弦溝やローラー、ブッシングの状態から見受けられます。
弾き過ぎてもいないし、弾かなすぎてもいない、そんな状態です。

 

お父様と息子さん(といっても大人)、お二人とも弾くピアノで
とくに息子さんのほうが、ある程度の時間弾いていると
手が疲れてくるという事です。
私が少し弾かせて頂いた感じでは、丁度良い重さに感じるのですが
長時間弾いた訳ではないのと
タッチの感覚は人それぞれ感じ方が違って当たり前なので
出来るだけ依頼者の希望に沿う形で仕上げたいと思います。

 

オリジナルのサンプル音

オリジナルのサンプルキーでの平衡等式。
2g重りによるSRは6.0。
6mm治具によるARは5.8。
BWは気持ち大きい鍵盤もありますが、ひどく重い訳ではないです。
Fはとくに低音で大きいです。
HSWは指標9から指標11の間でバラツキありで概ね指標10。
C7サイズであれば問題のない範囲。
FWは大きくシーリング値を超えています。
アクションスプレッドは112.5mmで問題なし。
シャンクフレンジ及びウィペンフレンジのトルクは
ともに概ね3g程度で許容範囲です。
気になる点としては、鍵盤調整がされておらず
鍵盤フリクションは中音では3gから5gとまずまずですが
低音と高音は6gから7.5gと大きいので
鍵盤調整はしっかり行う必要があります。
前後キーピンやキャプスタンといった
金属部品は触るとベタつきがあり
過去に磨かれた形跡もありません。
ローラーは特によく弾かれる中音域を中心に
黒鉛がかなり付いています。
これらの状態から、フリクションはそれなりに下げられると予想します。

 

 

3要素関連表で調べてみると
HSWが#10で、SRが6.0の場合
FWがシーリング値マイナス3gを達成するには
BWは48gになるとあります。
しかし実際のBWは36gから42gですので
鍵盤手前側の鉛が多過ぎたり配置の問題が考えられます。
ピアノのサイズからもデータからも
弾き手が重いと感じる要素に
慣性モーメントの影響が大きい感じなので
BWは37g程度にして、慣性モーメントも
出来るだけ下げる方向での調整を考えます。

 

サンプル音での試行
C1(4key)を平衡等式を使って試行。
HSWは最大で0.7g減とし、#10.5から#9.5に。
SRはヒールへのスペーサー挿入と
パンチングの半カットで2段階下げ、
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行い
BWは37g、FWはシーリング値マイナス1gになりそうです。

 

試行結果の最後でC1(4key)のDWが58g、UW16g、BW37g、F21gです。
Fが大きく、これを下げればDWは小さく(軽く)、
UWは大きくなる筈です。
(実際に作業後のC1(4key)実測値は
DW53g、UW21g、BW37g、F16g となり
最低音C1(4key)として問題のない数値を得ました)

 

HSW
HSWを全鍵測定。
黒がオリジナルで赤が調整後です。
基本的に減量して慣性モーメントを小さくする方向で
同時にバラツキがなくなるように揃えました。
最低音部は指標11だったのを指標10から指標9.5と下げ、
中音、高音は指標9で揃えました。

 

鍵盤テンプレート
鍵盤の慣性モーメントを算出するために
サンプルキーの鍵盤テンプレートを作成。

 

FW比較計算表
目標FWを満たす鍵盤鉛の配置と
同時に慣性モーメントの値が小さくなるよう試行します。
鍵盤の最も手前側(外側、弾き手側)の鉛は抜いて
奥側に新たな鉛を配置する効率的作業を選択しました。

 

BWとMoI比較
各アッセンブリー単体では
ウイペン以外は全てオリジナルより慣性モーメントが小さくなり
BWはオリジナルから5パーセント減、
アクション全体での慣性モーメントは
11.1パーセント減となりました。

フリクションを下げるための作業として
前後キーピンとキャプスタンのベタツキを取り除いてから磨き直し。
バランスホールの清掃、前後ブッシングクロスの潤滑。
ローラーの黒鉛を取り除き、少し整形した後テフロンを塗布。
ヒールクロスの汚れ落としと潤滑。
レペティションスプリングのべたつきの除去、
等々を丁寧に行ってあります。

 

アクションを納品後、再度調整を済ませました。
あらかた整調と下整音は済ませてあったので
僅かな修正で済みました。

 

仕上がり確認のため、お客様に弾いて頂いたところ
「おぉー!凄い楽。結構違いますね。」と
とても喜んで頂けました。

 

鍵盤の重さでお困りの方が居られましたら
この手法によるタッチの改良を試してみては如何でしょうか。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
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