バットフレンジコードの交換修理
ヤマハのアップライトピアノ、
U3Hのバットフレンジコード(バットスプリングコード)の修理です。
特定の期間に製造されたヤマハのアップライトは
必ずバットフレンジコードが劣化して切れてしまいます。
(かなりの台数が該当します)
これまでに
「何やら紐(ヒモ)のような部品が劣化して切れている」
というので、言われるまま修理に出した方も多いことでしょう。
また、これから修理に出す方も居られるかと思います。
既にフレンジコードを修理なさった方々、
修理してもらう前と後で、
とりわけ何かタッチや音色は良くなりましたでしょうか?
「別に修理前と変わらないなぁ」という方も居られるのでは。
それは文字通り
「フレンジコードのみ修理した」からかもしれません。
それでは
「バットフレンジコードの交換修理(私の場合編)」
を進めていきましょう。
88ヶ所、全てのフレンジコードが切れてしまっています。
白→薄茶→茶→濃い茶
と変色していき最終的にボロボロになって切れてしまいます。
このピアノはフレンジコードが切れているのを知りながら
そのまま使い続けてしまった為に
バットスプリングが前面のダンパーレバーに当たって
折れ曲がっている箇所があったり
1ヶ所は、バットスプリングが完全に折れてしまっていました。
バットフレンジコードが切れると
バットスプリングは写真のように前方に突き出します。
そして最高音部を除く音域には
前面にダンパーレバーがありますので
ここにダンパースプリングが当たって
バットスプリングが曲がったり
最悪折れてしまうのです。
ですから、フレンジコードが切れはじめたピアノは
すみやかに修理してしまうのがベターです。
切れたまま弾いていると余計な修理が増えてしまいます。
折れたバットスプリングを交換します。
スプリングを固定(保持)するヒモは、バットスプリングコードではなく「ピンコード」と呼ばれています。
バットスプリングを交換しました。
肝心のバットフレンジコードを交換しましょう。
現在、業界で一般的になっている
フレンジコードの修理方法と言えば
このようにバットフレンジを
センターレールに残したまま
ハンマーアッセンブリーのみを外して
修理するのが一般的のようです。
この修理方法のメリットは
「修理する側が比較的楽に短時間で修理出来ること」
あとは
「弦合わせが比較的ずれないので納品後の作業が楽」
(実際にはこの方法でも弦合わせは僅かにずれます)
などの理由から、
フレンジをセンターレールに残して修理するようです。
現在私は、フレンジをセンターレールから外して作業します。
理由は、
「フレンジのトルク調整をしてタッチを良くしたい」
からです。
少しの手間で修理後のタッチが良くなるのであれば
お客様にとってもそのほうが良いと思うのです。
全てのフレンジコードを交換していきます。
これでフレンジコードが切れる心配が無くなります。
そしてタッチも改善するために
バットフレンジのセンターピンも交換します。
このピアノの場合
全域に渡りトルク過多になっていました。(バラツキ有)
やはりフレンジをセンターレールから外して
チェックしておいて正解です。
重度のスティックはハンマーレールを前進させ
ハンマーの戻りで確認出来ますが
軽度のスティックは
きちんとフレンジをセンターレールから
外してチェックしないと見逃してしまいます。
いくつかのバットフレンジには
センターピン周りに油の染みのようなものがありました。
おそらく以前の調律師さんが
スティックぎみだったので
何かオイルを噴いたのだと思われます。
つまり以前からバットフレンジは
スティックぎみであったということになります。
この段取りで修理する場合でも料金は高くしたりはしていません。
あくまでもお客様から承ったのは「フレンジコードの修理」で
トルク調整(センターピン交換)ではありませんので。
納品した時に少しでも喜んで頂けたらという気持ちで作業しているだけ。
ハンマーを外しているついでに
針の下入れとファイリングも済ませます。
アクションをお預かりする前に
ピアノの音色の現状を全域に渡りチェックしておいて
「この辺りは上下に7回針入れしておけばいいかな」
「この音域は硬化剤を使うと良さそう」
といった具合に、
そのピアノの音色に足りない部分を修正する
下準備を済ませてしまいます。
過去の経験から、下整音を済ませて
お客様のピアノにセットすると
7割から8割の仕上がりになっています。
残りを出先で微調整していくと音色が作業前より良くなります。
その他には
稼動部の磨き直しや潤滑も済ませます。
雑音の防止、スムーズなタッチにする為です。
概ねこの辺りまでが
私の場合のフレンジコード修理です。
もっとも、ピアノは1台ごとに状態が違いますので
ピアノによって、作業は違ってきます。
バットフレンジコードの交換修理、完成です。
バットフレンジコードの修理ですが
以上のような少しの手間で
タッチも音色も良くなります。
そういえば時々
「フレンジコードが切れていても
ハンマーは戻るし、普通に弾けちゃうけど」
と仰る方が居られます。
確かに、その通りですが
実はバットフレンジコードが切れて
バットスプリングが効いていない状態になると
ハンマーの戻り云々とかではなく
もっと別の大事な部分に影響が出ます。
私のところで修理した方に
それをお伝えすると
「あぁ、なるほど」と納得されます。
今回修理したピアノをご使用のお客様もそうでした。
ですので、バットスプリングやフレンジコードは
いらない子ではありません。
必要な部品です。
フレンジをセンターレールから外して
バットフレンジコードの修理をする。
などと偉そうに言ってますが
実はある時期までは
私もフレンジをセンターレールに残したまま
フレンジコードの修理をしていました。
それである時
尊敬する大先輩の一人が
「フレンジをセンターレールから外して修理したほうが
センターピンのトルクチェックも同時に出来るのでいいですよ」
と仰っていたのを聞いて
ハッと我にかえったのです。
修理作業は、ルーティン化してしまうと
何も考えずに作業を進めてしまいがちです。
「そのやり方で本当にいいのか」
「その修理方法でお客様に満足頂けるのか」
時には立ち止まって考える必要があります。
- 安くて速いが、修理前と何も変わらない作業
- 適正価格で少し納期がかかるけど、音とタッチが良くなる作業
皆さんは、どちらの修理がお好みでしょうか。
私は勿論、2. です。
M様、コーヒー豆ありがとうございます。
バットフレンジコードの交換修理@東京都練馬区
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2014年6月13日 | カテゴリー:ピアノ修理