グランドピアノの2度打ちの修正
ヤマハのグランドピアノ、C3Eのオーナーさんからのご依頼で
ハンマーの2度打ちを直しにお伺いしました。
ご依頼内容は
「某店にて中古のC3Eを購入し、納品調律に来てもらい
タッチを少し重くしてもらうよう頼んだところ
それからハンマーが2度打ちするようになってしまった。
その後、何度か2度打ちの修正を購入店の技術者に頼んだが
一向に改善しないので一度診て欲しい」との事。
お伺いして、さっそく弾いてみると
一回の打鍵で「ポン、ポーン」と見事に2度打ちしています。
お客様から、気になる点の指示書を頂きました。
こんな風にご指示頂くと作業が捗ります。
2度打ちの原因はこれ。
タッチを重くして欲しいという要望に対し
レペティションスプリングを猛烈に強くして対応した為
ダブルエスケープメントする際、勢いが強すぎて
2度打ちするようになっていました。
88鍵全てのスプリングを潤滑してから
適正な圧に調整し直すことで
件の2度打ちは解消しました。
他にバックストップが広すぎたので基準寸法に修正。
ストップが広いと、テールをキャッチ出来ず
2度打ちする場合があります。
バックチェックスキンは硬化しておらず問題なさそうです。
また整調が全体に大味すぎるので
一日かけて整調のバラツキを揃えました。
ハンマーならしが低すぎたのと
ドロップが少ない点がとくに目立ってました。
このグランドピアノには
もともとサイレントが付いていましたが
全て取り外し、普通のアコースティックピアノに戻してあります。
シャンクにあいた穴はその名残です。
サイレントを外したのは正解で
整調の精度をギリギリまで高められるのと
作業効率が上がります。
作業途中、出して頂いたエスプレッソにはラテアートが!
夕方全ての作業を終え、
2度打ちが直っている事をご確認頂き作業完了。
もともと鳴りのいい個体でしたが
整調を見直した事で、さらに鳴りが良くなって
お客様も驚いておられました。
整調を正した後のこのピアノは
ダウンウェイト45gから50gと軽め傾向のようです。
もう少し重ためにしたい場合は
今回の件のようにスプリングを強めるのではなく
別の方法で修正すると
2度打ちすることなくタッチを重く出来ます。
話しは変わって
事務所に新しいスタッフが2人入りました。
ま、子猫なんですが。
いつも調律に伺っているお客様が
新たな猫が来たことを知って
たくさんのおもちゃを送ってくださいました。
子猫だからか食いつきがスゴイです。
K様、本当にありがとうございます。
グランドピアノの2度打ちの修正@東京都板橋区
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail info@piano-tokyo.jp
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2015年9月18日
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カテゴリー:ピアノ調律, ピアノ修理
バットフレンジコードの修理(ヤマハYUX)
バットフレンジコードの修理が何台か続けて入ってきてます。
こちらはヤマハYUXの330万台です。
ほとんどが茶色く変色するとともに劣化し切れています。
バットフレンジコードが切れたままお使いだった為、
このように中途でハンマーが戻らなくなっていました。
バットフレンジコードが切れてしまうと
バットスプリングが立ち上がり
前面のダンパーレバーに干渉し
ハンマーの動きを阻害することがあります。
またこの状態で無理矢理弾いていると
バットスプリングは折れ曲がり、最悪切れてしまいます。
お客様のご希望で、調律にお伺いした日に
そのままアクションをお預かりし
修理する段取りとなりました。
他所様の場合、殆どはバットフレンジを
センターレールに残したまま
ハンマーアッセンブリーをバットプレートからはずして
作業していますが(効率重視)、
私は、以前の記事にもあるように
バットフレンジをセンターレールから外し修理しています。(仕上がり重視)
センターレールからバットフレンジごとハンマーを取り外すのは
バットフレンジのトルク調整をしたいのがその理由ですが
最近はWessell Nickel & Grossのフレンジトルクゲージを導入しています。
これによりフレンジのトルクを数値化出来ますので
88鍵全てのフレンジトルクを正確に揃える事が可能になり
より理想的なタッチを造りやすくなりました。
またフレンジのトルクを数値で確認出来ると
例えばタッチウェイトをアクション全体で考える場合にも
タッチデザインがし易くなります。
同時に整音作業も行いますが
このピアノの場合、
6Key(D)から24Key(A♭)と
63Key(B)から73Key(A)までの鳴りが他に比べ弱いので
このエリアは少し元気な鳴りになるように。
また中音セクションは少し荒れているので抑えるように整音しておき
微調整はアクション納品時に再度行います。
潤滑し直した箇所は
ジャックフレンジ、ウィペンフレンジ、ダンパーフレンジ、
ダンパースプーン、ダンパーレバースプリング、ジャックの頭。
ダンパーロッドは外してツルツルに磨き直しておきました。
ダンパーロッドのペダルロッドピン・ブッシングは駄目になっていましたので
ヤマハ純正品で交換しておきました。
新しいフレンジコードに交換されたアクションを
お客様のもとに納品。
整調も甘々な状態のピアノでしたので
この機会に全て見直しました。
バットフレンジコードのみ交換修理するというよりは
ピアノ全体の整調や整音を見直す作業と言ったほうが近い作業です。
調整が終わり仕上がったピアノを
お客様にチェックして頂きました。
「あれ?弾きやすい」
「(鍵盤が)指に吸い付きますね」
との感想を頂きました。
効いていなかったバットスプリングが効いているだけなのですが
バットスプリングの存在は、弾き手にはっきりと感じられています。
普段はその存在を意識することはありませんが
今回のようにビフォーアフターだと分かりやすいようです。
バットスプリングが仕事するようになったので
リフトウェイトが増し、下ろした鍵盤が上がる際に
指に吸い付くような感覚が得られるようになりました。
バットフレンジのトルク調整も
弾きやすいタッチ感に陰ながら貢献しています。
音色のほうも、6Key(D)から24Key(A♭)と
63Key(B)から73Key(A)の整音が上手くいって
最低音から最高音までムラなく綺麗に繋がるように仕上がりました。
ある音域だけ鳴りが違っていたり、或はデコボコな音色ですと
どれだけ上手に演奏しても、心地良い音楽にはなりません。
バットフレンジコードを交換修理する際に
少しの手間を加えるだけで、タッチや音色がよくなります。
バットフレンジコードの修理(ヤマハYUX)@東京都世田谷区
渡辺ピアノ調律事務所
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2015年8月29日
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カテゴリー:ピアノ調律, ピアノ修理
トリルのしにくいピアノの調整
購入したアップライトピアノの
「トリルがやりにくいので調整してほしい」とのご依頼。
ピアノはAPOLLO(東洋ピアノ)のA.370です。
お客様自らアップウェイトが不足しているんじゃないかと考え
88鍵全てのダウンウェイト、アップウェイトを硬貨で測定し
pdfを送って頂きました。
硬貨を使ってるのでざっくりにはなりますが
リフトウェイト20g以下になっている鍵盤が多数あるようで
確かにこの値だとトリルはしにくそうです。
で、お伺いし拝見しました。
ダウンウェイトは軽いところだと45g以下、
リフトウェイトはかなりの割合で20g以下です。
東洋ピアノは、この傾向のピアノが多々見受けられます。
このピアノ以外でも、以前お伺いしたSSSアクションのアポロは
やはり後からどなたかが鍵盤奥側に鍵盤鉛を追加し対処済でした。
アポロのSSSアクションといえば、グランドに近い云々が売りの筈ですが
こんなにリフト値が少なくては普通のアップライトよりも弾きにくいかと...
キンボールのコンソールなんかも同傾向です。
午前中に調律を済ませてからタッチの調整に入ります。
全弦張替えがされているピアノですので
当面は調律が狂いやすいかと思われますが
繰り返し調律していくと
ある時期、以前程狂わなくなったと感じる時期がきます。
鍵盤からアクションまでを観察していくと
色々と問題がありました。
レギュレチングレールは全セクションきちんと固定されておらず
前後に動いてしまっていました。(増締め済)
キャプスタンは全体にかなり前側に来ていて
マジックライン上から大きく外れていました。
ただでさえ軽いダウンウェイトが余計軽くなってしまってましたので
キャプスタン前後位置を修正しました。
ハンマーストップは広すぎてストップ位置が悪く
ジャック(ウィペン)が上手く戻れなくなる症状が確認出来ましたので修正しました。
その他、ハンマーは針入れ不足でアタックの潰れた音になっていたので針入れ。
低音セクションの鍵盤には鍵盤鉛が入っていません。
中・高音は申し訳程度に8ファイの鉛が1個だけ入ってます。
全体に鍵盤奥側が軽過ぎるようです。
一般的なアップライトピアノはアクションを外した際、
グランドピアノのように鍵盤が前下がりにはならずキープされますが(例外もあり)
このピアノは奥側が軽い為、鍵盤の手前がお辞儀してしまいます。
ざっくり整調を修正してから
重さの違う2種類のタッチ調整鉛を使用し、リフトウェイトを確保しました。
作業前、20g以下だったリフトウェイトですが
調整後のリフトウェイトは
- 低音 25g
- 中音 26g
- 高音 27gから28g
になりました。
併せてダウンウェイトは
- 低音 55gから53g
- 中音 52gから51g
- 高音 50g
と上手く繋がりました。
試弾してみると
体感で分かるくらいに鍵盤の上がる勢いは増していて
これでようやく普通のアップライトとしてお使い頂けそうです。
ただアップライトピアノですから
鍵盤を戻しきらない位置での打鍵では音抜けしてしまう場面があります。
これはいずれグランフィールを取付けて
レペティションスプリングが追加されれば解決します。
トリルのしにくいピアノの調整@東京都日野市
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2015年8月13日
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カテゴリー:ピアノ調律, その他
グランフィールの取付け(ヤマハU3F)
ヤマハのアップライトピアノ U3F (製番111万台)に
グランフィールを取付け、
アップライトピアノをグランド化しました。
中学生の息子さんが
レッスン先のグランドでは上手く弾けるのに
自宅のアップライトでは上手く弾けないという、
ピアノが上達してくると誰もが打ち当たる問題に直面しているとの事で
グランフィール取付けのご依頼を頂きました。
アップライトピアノは
指をしっかり上げるような大きな動作の
演奏では特に支障はないのですが
キーを上げきらない部分での打鍵が必要な
繊細なトリルや弱音連打を構造上苦手とする楽器です。
底まで下ろした鍵盤を元の高さまで戻していく過程で
鍵盤やハンマーが限りなく元の位置に戻っているのに
ジャックの先端はバットスキンをズリズリと擦りながら
いつまでも戻らず、完全に鍵盤を元の高さに戻したところで
ようやくジャックは元の位置に戻ります。
ジャックが戻り、スタート地点に待機していてくれないと
ジャックはハンマーバットを蹴り出すことが出来ず
そうすると鍵盤を叩いているのに音が鳴らないという状態に。
このアップライト特有のジャックの動作が
連打やトリルを弾き難いものにしています。
これらアップライトのジャックの動作は、
グランドピアノには搭載されている3つの部品↓
- レペティションレバー
- レペティションスプリング
- ドロップスクリュー
↑これらがこれまでアップライトには備わっていなかった為に
トリルや連打がしにくかったのです。
これを解消するのが「グランフィール」で
アップライトピアノに先の3つの部品に相当する部品を取付け
アップライトをグランドピアノ化しようという技術になります。
初回訪問時に調律をした後、整調を今一度綺麗に揃え直しました。
そしてそのままアクションをお預かりさせて頂き
グランフィールパーツの取付け、特殊加工や各種再調整など済ませて
仕上がったら納品及び調整する流れになります。
レペティションスプリングが取り付いた状態。
アップライトピアノの長い歴史の中で
必要とされながらなかなか実現することのなかった部品が取り付きました。
ドロップスプリングが取り付いた状態です。
ドロップスクリューの役割と
ハンマーの弦離れを加速することで、
アップライトの劣化した響きを
高次倍音豊富なグランドピアノの”あの”響きにすることを実現します。
また事前の調律訪問時に88鍵の音色バランスをチェックした際
中音が荒れた音色になっているのに対し
低音、高音は全く元気がないアンバランスな状態でしたので
ハンマーの針入れ、ファイリング、コテ当てなどの下処理をしておきました。
硬化剤はおそらく不要な感じです。
納品時に再度音色を整える段取りとなります。
またグランフィールパーツの取付け作業では
単に部品を追加するだけではなく
「ハンマーバット加工」という作業が必須となっております。
これは先に述べました、
ジャックがいつまでも戻らないという
アップライトの困った動作を改善し
条件をグランドに近づけるのに必要な作業になります。
今回はお客様のご要望で
フロントパンチングクロスを、グランドピアノ用の
「ホワイトパンチングフェルト」に交換しました。
国産アップライトにもともと使われている腰の無いパンチングを
ホワイトパンチングフェルトに交換する事で
打鍵した際にタッチがしっかり決まり、
国産ピアノの芯の無い音にしっかりと力強さが加わり
音の立ち上がりが速くなりますので
グランフィールとの相乗効果で
ワンランク上の音色とタッチのピアノになります。
整調を再確認しつつ、
レペティションスプリングとドロップスプリングの調整を済ませ
グランフィールピアノの仕上がりです。
事前に処理した整音の下処理は
概ね想定通りで、ほとんど出先での修正は不要でした。
落ち着いているのに華があり深みのある中音セクション、
最低音、最高音に向かうにしたがいタイトな鳴りに。
この感じです。
鍵盤を戻しきらない位置での打鍵が可能になり
トリル、連打も容易に弾けるようになりました。
またレンジが広がりピアニッシモは出しやすく、
鍵盤の追従性も、さながらグランドといった動作を再現出来ています。
嬉しいのは、タッチだけではなく
音の「響き」までグランドに近づいている事。
グランフィールの隠れた特徴の一つです。
今回のお客様と同じ様に
アップライトの性能に限界を感じて居られる方、
グランフィールがその悩みを解消してくれます!
さらにこちらもお客様のご要望により取付けた
ピアノ専用除湿器「ダンプチェイサー」。
今年の梅雨は長雨だったことにくわえ
梅雨があけても連日湿度の高い日が続いております。
こちらのお宅でもエアコンのドライ運転をするも追いつかない為
ダンプチェイサーを取付けました。
湿度の高い状況にピアノを置いていると
タッチは重くなり、音色はもっさりしてしまいます。
長期的には反対側の季節(秋、冬)の「乾燥」との繰り返しにより
ピアノを痛めつける事になってしまいますので
くれぐれも湿気には気をつけたいところです。
取付けたダンプチェイサーは
エアコンと併用して頂くとより一層安心です。
グランフィールの取付け(ヤマハU3F)@東京都世田谷区
渡辺ピアノ調律事務所
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2015年7月29日
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カテゴリー:グランフィール
ヤマハC3Xの調律と調整
常連のお客様がピアノを買い替えたので調律に訪問。
真新しいヤマハC3Xです。
作業に入る前にざっと弾かせて頂きましたが
なんかタッチがスッキリしません。
お客様曰く
「たぶん販売店がきちんと出荷調整してない感じです。
どうせ渡辺さんに全て調整し直してもらうので
サービス調律だけしてもらってます(笑)」
との事でした。
お客さんに全て見通されてる販売店、なんだかなぁ...
調律カードによると納品時のサービス調律が約3ヶ月前で
A=442Hzで調律されたと記載されています。
3ヶ月後のこの日、ピッチを計ると
A=439Hzまで低下してました。
新品ピアノは張られている弦が若く柔軟性に富んでいるので
数年は猛烈にピッチが下がります。
これが完全に落ち着くのには、半年ペースで調律して
早くて3年、場合により5年くらいかかります。
しばらくはマメな調律が必要になります。
http://www.piano-tokyo.jp/faq030.html
「整調(せいちょう)」、あまりというか殆ど手付かずな感じでした。
「(要)鍵盤調整の見直し」な状態。
バランスピンとフロントピンは
新品ですのでさすがに錆はありませんが
念のため薬品でクリーニングしてから潤滑処理しておきました。
鍵盤のバランスホールとフロントのクリアランスを
適正なトルクとクリアランスになるよう調整。
他に気になったのは、レペティションスプリングが
非常に弱く、鍵盤によってはまったく効いてませんでしたので
全鍵スプリング圧を調整し直しました。
せっかくのグランドピアノなのに
レペティションスプリングが効いていないと
連打、トリルが上手く弾けません。
その他、多くの整調工程を見直して
午前から始めた作業も気付けば夕方でした。
出荷調整がきちんとされていない新品ピアノは
ある意味、10年以上調律していないピアノ並の作業が必要です。
朝、お伺いしたときには
ダウンウェイト60g前後でしたが
作業後はDW55g前後と、ヤマハの標準的なダウンウェイトになりました。
音色ですが、この「X」シリーズになってから
いっときのC3より幾分良くなってます。
雑味が無くなったいうか、素直に歌う、そんな印象です。
お客様との打ち合わせにより
今後鍵盤のウェイトのバラツキを揃える調整や
その他カスタムチューンを予定しております。
C3Xがどんな風に変化していくか、今後が楽しみです。
ヤマハC3Xの調律と調整@神奈川県川崎市
渡辺ピアノ調律事務所
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2015年7月23日
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カテゴリー:ピアノ調律
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