グランフィールの取付け(ヤマハU3H)
グランドピアノの華やかな音の響きとタッチを
アップライトピアノで再現可能な
「グランフィール」を
ヤマハのU3Hに取付けました。
ご実家に置いてあったピアノを
現在のお住まいに移動して
今度は子供さんがご使用になります。
製造番号は1523XXXになりますが
低音部の巻線は生きています。
この辺りの製番のヤマハの場合
結構な割合で「ボン線」傾向になっているのですが
このピアノは「ボン線」も「ジン線」も無く状態がいいです。
ご実家に置いてあった期間に
鍵盤の下にある前後のパンチングクロスが
「虫害」にあってしまったようです。
前後とも交換することになりますが
フロントパンチングクロスはせっかくなので
グランドピアノ用の最高級フェルトが使われている
「Wurzen ホワイトパンチングフェルト・コニカル」に交換。
国産アップライトに使われている腰がなく柔らかいパンチングを
これに交換するだけでタッチにダイレクト感が得られ
音の立ち上がりが速くなり音の輪郭がハッキリします。
グランフィールと併せて使うことで
アップライトピアノがよりグランドピアノに近づきます。
グランフィールを取付けるお客様は
フロントパンチングもグランド用に交換する方が多いです。
そうすることでより一層グランドピアノに近づきます。
一度目の訪問で調律と
前後パンチングクロス交換を含む整調を一通り済ませたら
そのままアクションをお預かりさせて頂き
グランフィールパーツの取付けと
各種加工と調整をします。
ダンパーストップレールは
コストダウンされる前の仕様で無垢でしたので
そのままでもいいのですが
長期使用でも安定してお使い頂けるように
アルミのアングルで補強しておきます。
各レール加工。
自作の治具で綺麗に仕上げます。
ハンマーバット加工。
グランドピアノのタッチを再現するために必要不可欠な作業です。
ハンマーはヤマハピアノ特有の
「キンキン病」が発症していました。
幸いハンマーはまだ生きていますので
整音針をしっかり下入れした後
形の崩れたハンマーをファイリングし整えます。
もともとズングリした形だったので
倍音の発生に有利なように先端を意識した整形をしておきます。
最終的な音色は納品後に再度微調整します。
左が整形前、右が整形後。
追加されたレペティションスプリング。
ジャックも綺麗になっているのが分かるでしょうか。
この年式のピアノは
通常、黒鉛でジャックは真っ黒になっています。
とあるもので清掃すると新品のように綺麗になります。
新たに追加されたドロップスプリング。
実際のグランドピアノではドロップ「スクリュー」ですが
グランフィールではドロップ「スプリング」。
ドロップ「スプリング」とすることで
打弦後のハンマーの弦離れを加速することが出来、
グランドピアノ特有の高次倍音を出す事が可能となっています。
グランフィールが音の響きまでグランドピアノになるのは
このパーツが効いているからです。
グランフィールパーツ、バット加工
アクション各部再調整等、一通り終えたら
お客様の元へ納品となります。
午前から怒濤の調整を開始。
レペティションスプリング、ドロップスプリング共に
最大限に効果の上がるポイントに調整することで
アップライトピアノがグランドピアノになります。
U3H の頃には屋根支持棒が既に廃止されていて
そのままだと屋根を斜めに開放することが出来ませんので
木製の屋根支持棒を製作し取付けました。
屋根支持棒はグランフィールの標準パーツでは無く
私のところでグランフィールを取付けてくれた
お客様へのサービス品です。
調整完了後、試弾して仕上がりを確認します。
お客様のご感想は「暖かく落ちついているのにクリアーな音!」。
お客様のご要望だった
「大人し過ぎずうるさ過ぎず」という音色を
可能な限り実現出来たと思います。
ハンマーの整音と
グランフィールのドロップスプリングの合わせ技です。
ドロップスプリングが取り付いた事で
高次倍音が増し、音の表情が豊かになっています。
ホワイトパンチングクロスもいい具合に効果を上げていて
音のシャープさだけでなく、アフタータッチがかっちりと決まります。
そしてグランドピアノと同じように
レペティションスプリングが追加されたことで
アップライトが苦手とする
トリルや連打が難なく弾けるようになりました。
意地悪なくらいに高速連打を試してみましたが
ちゃんと追従してくれます。
グランドピアノと同じ様に
弱音連打出来るのもグランフィールの特徴です。
これまでアップライトピアノで
トリルや連打が上手く弾けなかった方々、
それは弾き手が下手なのではありません。
アップライトピアノとグランドピアノの構造の違いによるものです。
グランフィールは、今お使いのアップライトピアノに
グランドピアノ同様のパーツを追加することで
アップライトをグランド化する事が可能です。
ピアノ演奏が楽しくなるグランフィール、オススメです。
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail info@piano-tokyo.jp
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weblog https://www.piano-tokyo.jp/blog/
2015年4月23日
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カテゴリー:ピアノ調律, グランフィール
グランフィールの取付けでジャックが短い場合
グランフィールのレペティションスプリングは
一般的な「70mm前後のジャックに対応した長さの
レペティションスプリングが標準仕様」で
ジャックが60mm前後と短い場合には
スプリングのコイルを一巻き多くすることで
短いジャックに対応しています。
標準タイプのレペティションスプリングの太さ配分は
低音側から高音セクションにかけて
- 0.9mm × 20本
- 0.85mm × 20本
- 0.8mm × 24本
- 0.75mm × 24本
という構成です。
多くのピアノの場合、70mm前後のジャック長なので
この構成で、調整さえ正しく出来ていれば
違和感の無い快適なグランドタッチになります。
しかし、60mm前後の短いジャックの場合
上記70mmと同じ太さの構成で取付けた際
打鍵するとき指先に
レペティションスプリングの抵抗を過剰に感じるケースがあります。
太さは同じ構成のまま短くしたスプリングを配置した場合
短いスプリングは標準のスプリング長と比べ
たわみが少なくなることが考えられます。
そうすると同じ太さのスプリングでも
短くなった分、より強く効いてしまう筈です。
これを解消する為に今回試みたのは
太さ0.9mmのスプリングは使わずに
- 0.85mm × 20本
- 0.8mm × 34本
- 0.75mm × 34本
という構成です。
結果は良好。
70mmのジャックに
標準スプリング長のレペティションスプリングを
取付けたピアノで感じられる心地よいタッチ感が、
短いジャックのピアノでも再現され
とても弾きやすくなりました。
懸念されたのは
逆にスプリングの効きが
弱くなりすぎるのではないかという事ですが
そんな事はなく、寧ろちょうど良い塩梅です。
但し、ジャックの短いピアノの場合
必ずこの構成が当てはまるかというと
恐らくそうではありません。
レギュレチングレールとジャックとの位置関係や
レペティションスプリングの作用面の上下位置によって
ケースバイケースで工夫する必要がありそうです。
渡辺ピアノ調律事務所
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2015年4月20日
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カテゴリー:グランフィール
ホワイトパンチングフェルト
久々にブラインドテストを。
(前回のはこちら)
試すのは Wurzen ホワイトパンチングフェルト・コニカル。
グランドピアノ用のフロントパンチングです。
上質なフェルトで、上が22mm、下が23mmのテーパー状になっています。
通常のパンチングクロスと交換すると
タッチが良くなり、音の立ち上がりが早くなってパワーが入ります。
お客様のヤマハのグランドで試します。
1オクターブだけホワイトパンチングフェルトに交換しておき
お客様には種を明かさないでおき弾いて頂きます。
結果は
「音が膨らむ感じ」
とのご感想。
人によってその表現は様々ですが
皆様あきらかに交換してある部分だけ
他と違っていることを体感頂けてます。
既存のパンチングクロスと交換するだけで
ピアノをグレードアップすることが出来て
なにより「湿気に強い」という特徴もあります。
グランドピアノをお使いの方はもちろんのこと
グランフィールでアップライトをグランド化した方にも
さらなるグランド化を目指すアイテムとしてお勧めです。
渡辺ピアノ調律事務所
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2015年4月18日
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カテゴリー:ピアノ調律, その他
幼稚園のピアノの調律
春休みということで
30台以上ある幼稚園のピアノの調律を。
長年お伺いしている幼稚園は
今年も特に問題ありませんでしたが
今回初めてお伺いさせて頂いた
2つの幼稚園は、なかなかの状態でした。
音が出ないという教室のピアノは
複数のセンターピンがずれて飛び出し
セクションの端のハンマーは
あさっての方向を打ってしまい
うまく打弦出来ていませんでした。
ついでにフレンジコードも切れています。
こちらのピアノも何ヶ所か音が出ないということでしたが
膠切れでジャックフレンジが
ウィペンからはずれていました。
こちらは
「音が出たり出なかったりする」
ということでしたが
バットフレンジコードの大半が切れてしまっているため
立ち上がったバットスプリングが
前方にあるダンパーレバーに当たってしまい
上手く音が出せない状態となっていました。
2度打ちの症状もみられます。
フレンジコードの切れていたピアノは
全部で6台ありました。
毎年、調律をお願いしていたそうですが
棚板は埃とゴミが大量に。
ということはつまり...
パンチングクロスは虫害に。
キーブッシングクロスは消耗して
鍵盤にガタが出ています。
フロントブッシングも消耗しているので
鍵盤の感覚が不揃いに。
隣の鍵盤に当たってカチャカチャと。
弦錆...
巻線の断線
ダンパーフェルトが弦錆とくっついて
剥がれてしまってます。
ネジがどこかへ...
ハンマーは消耗して先端が一直線に。
その他多数、手を入れないとならない箇所があります。
これから毎回お伺いする度に順次直していきます。
取り急ぎ6台のフレンジコードの交換からです。
因に私が毎回お伺いしている幼稚園のピアノは
長年のシミはあっても
埃やゴミはありません。
そして
地震対策もしてあります。
これは東日本大震災の1年前に取付けたので
地震の際、ピアノはびくともしませんでした。
指詰め防止対策も。
ひとくちに「調律」といっても
その作業内容は色々です。
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2015年4月1日
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カテゴリー:ピアノ調律
グランフィールの取付け(CRISTOFORI)
クリストフォリピアノにグランフィールを取付けました。
ご依頼主である奥様とお嬢様がお使いのピアノです。
ピアノ購入時に木目と猫脚に惹かれ
急いでいてよく調べずに購入なさったとの事で
後になって中国製だと知ったようです。
表向き東洋ピアノとなっていれば無理もありません。
何年かご使用頂いている中で次第に
「なんかこのピアノの音、つまらない」
と感じておられるとのこと...
確かに私が弾かせて頂いても
中国製ピアノに共通した
のっぺりと平べったく奥行きの無い
なんとも味気ない音が出ています。
「グランフィールを取付けたら音が良くなりますか?」と
今回取付依頼を頂戴した次第です。
お嬢様も連打やトリルが頻発する曲を
弾くことが多くなってきたそうで。
これはなんとかしてあげたい、頑張ります。
グランフィールパーツを取付けるため
アクションをお預かりしてきました。
で、このピアノ
なんとダンパーストップレールの次高音部が
L型アングルで固定されていません。
固定されているのは
両端ブラケットと、中音ブラケットの3点のみ。
そのためレールの次高音部は前後に撓みます。
後付けの消音ユニットのやっつけ工事で
ストッパーをL型アングルで
固定していないケースは時々目にしますが
メーカーオリジナル状態で
こういう仕様ははじめて見ました...
無いなら追加しましょうということで
ホームセンターに丁度良さそうなアングルがあったので
これを取付ける事にします。
そのままだと下端が長過ぎるので
カットして新たに穴開けしたら丁度良い感じに。
次高音部にL型アングルを取付けました。
これでダンパーストップレールのぐらつきも解消されます。
何故ストップレールがしっかりしていないと困るかというと
このレールにドロップスプリングを取付けますので
レールにぐらつきがあると
ドロップスプリングが正しく機能しないからです。
ダンパーストップレールは
いつものようにアルミのアングルで補強しておきます。
レギュレチングレールやダンパーストップレールに
スプリングを取付ける為の下加工をします。
ハンマーバットの加工。
順番が前後しますが、またまた問題点が。
このピアノのバットスキン(キャッチャースキンも)
質が悪く表面がガビガビのザラザラ。
バットスキンの上をジャックの頭が
滑りながら抜けたり戻ったりしますので
ここが荒れているとジャックのスムーズな動作が出来ず
タッチも悪くなります。
グリーンではなくラフでゴルフボールを転がすみたいなものです。
このままでも一応動作しますが
お客様にこの事を連絡すると
「いい機会なので交換してください」との事なので
滑りの良いスキンに交換する事に。
厳密には、キャッチャースキンも交換したほうが
よりアクションの動作が良くなりますが
今回そちらは手を付けません。
ご予算とお時間がある方の場合は
キャッチャースキンのほうも交換をオススメします。
品質の悪いバットスキンを剥がします。
新しいバットスキンを規定のサイズにカット。
新しいスキンに交換していきます。
で、またまた問題のある箇所が。
このピアノ、フレンジの左右ガタが多過ぎます。
バットフレンジは特に酷く
ジャックとウィペンフレンジにも
いくつかガタがあるようです。
グランフィールではグランドピアノ同様に
レペティションスプリングが取付けられますが
この時、ジャックやウィペンフレンジにガタがあると
ダブルエスケープメントする際に
「カチャ」と雑音が発生する事になります。
年数の経過したグランドピアノでは
比較的見かける事の多い症状で
これがグランフィールでも再現されてしまいます。
グランドの不具合まで再現するグランフィール恐るべしです。
なので、以前某所から購入した
フレンジの左右ガタを補正するペーパーを使い
フレンジのガタを修正します。
バットフレンジは
修正ペーパーを半分にカットして
バット側のフレンジと当たる面(膨らんだ部分)に
貼っていきます。
それと、バットスプリングですが
普通のスプリングならば
この角度だとスプリングが効きすぎになります。
ただこのピアノに使われているバットスプリングは
腰のないスプリングが使われているので
通常より圧が強めとなる角度でも
まだ少し弱いくらいです。
時間と予算がある方の場合は
バットスプリングも交換すると
タッチが良くなります。
右が作業前、左が整形後のハンマーです。
ゴロンとした形でしたので
先端を出して弦と接する面を少なくし
倍音が出る効果を狙っての作業です。
今回は、この他に針入れ、それとハンマーコテを使っています。
お客様がペダルからの雑音を気にされていたので
ダンパーロッドを磨き直しておきました。
ダンパーレバーとの接点はもちろんですが
センターレールと固定される
稼動部から雑音が出る事も多いので
こちらも要注意です。
ダンパーレバースプリングの先端も
潤滑処理したところ
アクション側のダンパー雑音は解消されました。
ジャックの手前に新たにレペティションスプリングが追加されました。
ハンマーシャンクの先に
ショット&ドロップスプリングを追加。
グランフィールパーツの取付けや
各種加工、調整が済みました。
実際にはここに掲載していない細かな作業が
いくつもあります。
お客様のピアノにアクションをセットして
ドロップスプリングの調整。
黙々と、正確に。
長丁場の作業にお気遣い頂いて食事が。
O様ありがとうございます。お気遣いなく。
引き続きレペティションスプリングの調整を。
レペティションスプリングの存在を感じさせず
且つ効果の上がるようなセッティングにしています。
この辺りはお客様の好みにより
ある程度調整幅があります。
午前からはじめた調整作業も夕方には完了!
グランフィール以外の調整も行っているので
少々お時間を頂いておりますが
その分、仕上がりの精度は高いと思います。
お客様に試弾してもらいます。
「こんなに変わるんですね」
「鍵盤の反応も早くなったように感じます」
私が弾いて少し離れた場所で聴いていただくと
「目を閉じて聴いていたら本当にグランドピアノみたいです」
「低音もグランドみたい」
「これからはピアノを弾く時間が長くなりそうです」
と喜んで頂けました。
表情のなかった音色は
豊富な倍音によって厚みのある華やかな音色に変化しました。
高音セクションはキラッキラに
中音は分厚く、低音は力強く
予想以上にグランド化してしまいました。
後にメールを頂戴して
作業時、外出されていたお嬢様が
このピアノを弾いて、開口一番
「グランドだ!」と興奮していましたとのご報告が。
グランフィールはアップライトピアノの
潜在能力をフルに引き出してくれます。
音、響きは
まさしく「グランドピアノの”あの響き”」です。
言葉では上手く説明出来ませんが
取付けた方は口々に「グランドだ!」と驚かれます。
トリルや連打も格段にコントロールし易くなります。
アップライトをグランドピアノ化する
グランフィール、オススメです。
グランフィールの取付け(CRISTOFORI)@東京都大田区
「グランフィール」については
以下のページに詳細を掲載しております↓
http://www.piano-tokyo.jp/granfeel.html
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail info@piano-tokyo.jp
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2015年3月9日
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カテゴリー:グランフィール
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