グランフィールの取付け(ヤマハ U2)

ヤマハ、アップライトピアノU2
ヤマハのアップライトピアノ、U2に
グランフィールを取付けました。

グランフィールは、お手持ちのアップライトピアノに
グランドピアノのキータッチと響きを実現する技術です。

今一度、グランフィールの特徴をおさらいしておきましょう。

  1. 鍵盤を底まで降ろしたあと、少しキーを戻したところで次の音が出せる
  2. 連打がグランド並の秒間12から13回可能になる。(通常のアップライトは7回/秒)
  3. ダイナミックレンジ(音量の幅)が広くなり、小さい音から大きな音まで出せるようになる
  4. 鍵盤の挙動がグランドと同様、キーを下げたあと上がる際に、底から押し上げるようになるので指に吸い付くようなキータッチになる
  5. 高次倍音が増し、グランドのように華やかな音色になる。(同じピアノなのに今より音が良くなる)

 

今回、グランフィールを取付けたお客様のお宅は
ご家族全員がピアノを弾く、ピアノ大好きご一家。
グランフィールを取付ける事になった経緯は、

11年前に後付けしたテクニクスの消音ピアノユニットが
電気系のトラブルで壊れてしまい使えなくなった事。
いわゆる「サイレント、消音ユニット」は
「家電」ですから、他の家電製品と同じように
一定の年数経過すると、あっさりと壊れます。
家電ではすっかりお約束のコンデンサー不良。
有名どころでは「ソニータイマー」でお馴染みです。

ここで、いくつかの選択肢があります。

1. 故障した消音ユニットを修理して使う。もしくは新たなユニットを取付ける。
2. 消音ユニットが担っていた役割を電子ピアノで代替えする。
3. これを機に消音ユニットを外し、グランフィールを取付ける。

1. ですが、メーカーにパーツのストックがある内は
一応修理可能です。
しかし修理しても、これもまた時間が経過すると故障します。
どこまで行っても家電で、故障と出費が付きまといます。
新しい消音ユニットを取付けても、やはりまたいつか故障する。

2. 「消音ピアノユニット」は平たく言うと
「電子ピアノ」ですから、なにもピアノに一体化しなくても
電子ピアノ単体機を別途使ったほうが
安く済むのと、電子ピアノとしての性能も良い。

3. コルグ、テクニクスの消音ユニットと
「グランフィール」の共存は
グランフィールの考案者である藤井先生は推奨していない。
(強引に取り付けられなくはないですが、
グランフィールの性能をフルに発揮出来ない懸念が)
消音ユニットを取付けていると、
アコースティック時の性能も
実は若干落ちてしまい、消音時の性能も
電子ピアノ単体機よりいまいち良く無い
どっちつかずの状態になってしまいます。
ならば、生楽器である「ピアノ」の性能を
最大限生かすように、消音ユニットを取り外して
グランフィールを取付けて、
アコースティックピアノの性能を
最大限に引き出そうというのが
「3.」の考え方です。

で、今回お客様は「3.」を選択されました。

聞けば、別のフロアに電子ピアノもお持ちとのこと。
それなら夜用には電子ピアノを使って
アップライトピアノのほうは、グランフィールで
グランド化して楽しんだほうがベターです。

テクニクス消音ピアノユニット
故障したテクニクスの消音ユニット。

今は亡きこのテクニクス消音ユニットには、
「突然大きい音が出る」という致命的なバグがあります。
このバグは今日まで脈々と受け継がれています。
某社の電子ピアノで、
「アップライトのアクションを搭載した電子ピアノ」
というのがありますが
その「アクション搭載電子ピアノ」でも
同様の現象が出ている模様。
アクションの載っていない
普通の電子ピアノではこの現象はありません。
色々とイマイチですな...

11年目にして故障した消音ユニットは、調律の時に取り外しました。

光センサー
光センサーと言いながら、物理的に鍵盤に触れているタイプ。

消音ユニットの取外し

消音ユニットを取り外した棚板

棚板もスッキリ。

いったんアクションをお預かりして
グランフィールのパーツを取付けます。

グランフィールパーツ

 

グランフィール取付中

 

グランフィール取付中2

 

ハンマーバット加工

レペティションスプリング
ジャックが素早く元の位置に戻れるように取付けられた
レペティションスプリング。

ショット&ドロップスプリング
新たに取付けられたショット&ドロップスプリング。

ハンマー整音
ハンマーアッセンブリーを外したついでに
針の下入れとファイリングも済ませました。
最低音部の元気がなかったので
最低音部のみ硬化剤を使いました。

ショット&ドロップスプリングの調整

レペティションスプリングの調整
アクションにグランフィールのパーツが取り付いたら
ピアノ本体にアクションを戻して
黙々と調整をして仕上げます。

グランフィール取付完了
グランフィール機能付きアップライトの完成。

お客様に試弾して頂いたところ
「タッチ感に特に違和感なし → OK!」
「鍵盤の浅い位置でのトリル、連打 → OK!」

それで、一番喜んでいらしたのが
「音が良くなった」ということ。
ショット&ドロップスプリングの「リムショット理論」と
入念に仕上げた「整音」との相乗効果で
音色がかなり良い方向に変わりました。
キータッチだけでなく、音色も良くなるのが
グランフィールの魅力のひとつです。
あと、グランフィールを取付けると
とにかく「弾きやすい」。
これに尽きます。

アップライトピアノの屋根支持棒
この U2 は、製造番号110万番台ですが
この時代には国産アップライトにも
まだ「屋根支持棒」が付いていました。
アップライトピアノの「屋根支持棒」、便利です。
グランドピアノの屋根のように、屋根を斜めに開けることが出来ます。
全開ではなく、この「斜めに開く」のがポイントで
これだけで、大分音が良くなります。
グランフィールを取付けましたので
屋根を開放して演奏すると
まさに縦型グランドピアノです。

「グランフィール」、オススメです!

 

(グランフィールの取付け(ヤマハ U2)@埼玉県狭山市)
↓グランフィールに関しては以下もご参考にどうぞ↓

グランフィール
http://www.piano-tokyo.jp/granfeel.html

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〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
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KimBall(キンボール)ピアノの調整

kimball(キンボール)

 

スティックの嵐で動作不良の
キンボールピアノの調整をしました。

重過ぎて弾けない鍵盤のタッチは
スティックを取り除くと
本来の姿を見せる筈。

果たしてどんな結果となりますか...

↓ 以下からどうぞ ↓

Kimball キンボールピアノの修理、調整

お手軽チューン

カワイKG-2N

 

ピアノの先生宅へ定期調律に伺った際に
ちょっと試してみました。

実験台は先生ご使用の
カワイのグランドピアノ KG-2N 。

あらかじめ綺麗に調律して
音色や鳴りにバラツキがないよう
整調、整音も済ませておきます。
じゃないと実験の効果が分かりにくくなるので。

それで...

ホワイトパンチングフェルト

 

試してみるのはコレ。

アンドレ・オーレベークさん考案の
Wurzen ホワイトパンチングフェルト・コニカル。

パンチングは通常クロスですが、これは品質の良いフェルト。
形状は上が22mmで、下が23mmのテーパー形状。

果たしてパンチングクロスを換えただけで
ピアニストさんに違いが分かるものでしょうか。

ホワイトパンチング

 

1オクターブだけホワイトパンチングに換えて
先生には、この時点では種明かしせずに
とりあえず音を出してもらいます。

先生 : 「音の立ち上がりが速いですね」

お、ばっちり体感出来る違いがあるようですね。
その後、先生には鍵盤下のパンチングを
交換した事を告げると、興味津々のご様子。

私の感想は
パンチング交換後は、
「質の良いパスタを完璧な茹で加減で調理した感じ」
音にしっかり「芯」がある印象。
交換前の音は
ママーのパスタを湯で時間オーバーで調理した感じ。

それでカワイ特有のぼんやりした鳴りが
ビシッと引き締まる感じで、音の輪郭がくっきりとして
音にエネルギーが注入されたと感じます。

タッチも
ホワイトパンチングと換えていないところとでは

・ホワイトパンチング : カチッときまる。
・カワイ純正 : 着地点の地盤が悪いようなタッチ。

部分的に換えてみることで
違いがハッキリ見えてきて面白いです。

パンチングクロスを交換するだけのお手軽作業で
音色にパワーが注入され、タッチが引き締まる
「ホワイトパンチングクロス」。
ぜひ試してみては如何でしょうか。

ヤマハA1AEの鍵盤を軽くする

yamaha A1AE-SN

 

小型のグランドピアノの重たい鍵盤キータッチを
軽くして欲しいというご依頼が
またまたありましたので作業しました。

 

A1

100周年モデル

ピアノはヤマハのA1AE-SN(サイレント付)
100周年記念モデルです。

お客様「10年くらい前に買って
毎年調律に来てもらってるんですが
良くならないんです...」

私「毎回の作業時間はどのくらいですか?」

お客様「1時間くらいです」
なるほど...
それではピアノはちっとも調子良くならない訳です。
1時間だと飛ばして「調律(チューニング))だけして
あとはいっさい手付かずなんだろうな...

現状の鍵盤ウェイトを計ってみると
60g から 65g といったところで
全体的に重ためのようです。
実はこちらのお宅にはもう1台
ご主人専用のC1があって
ご依頼主である奥様の体感では
ご主人のC1のほうが
「若干鍵盤が軽く感じる」との事。
そちら(C1)の鍵盤ウェイトを確認してみると
さほど今回のA1と重さは変わりませんでした。
鍵盤の物理的な重さは変わらないのに
C1は軽く感じ、A1は重く感じる。
実はこれ、音色のマジックで
C1のほうは比較的元気で明るい音色に調整されていて
A1はかなり落ち着いた音色に調整されているのです。
人間の感覚によるところですが
明るめの音色にすると反応が良く感じるので
鍵盤も軽く感じる、
逆に落ち着いた音色だと鍵盤は重たく感じるということなんです。
その事をご説明差しあげたうえで
鍵盤の物理的な重量を標準的な重さにしたうえで
且つ音色も少し明るめに変更することにしました。

整調関係は未調整と判断して
丸二日かけて作業する事にします。
1日目に手付かずだった調整を
出来る限り見直し再調整して
2日目は鍵盤に鉛を追加して重さのバランスをとります。
サイレント

サイレントを外す

 

アコースティックの状態

サイレントの部材が作業の邪魔になるので
いったん取外します。
キーピンの清掃

約10年分のキーピンの汚れを
薬品を使ってクリーニングし
余計な摩擦抵抗を減らします。
筬、棚板も10年分のゴミが溜まっていたので
掃除も済ませます。
キーピンの汚れ

汚れているもんですね。
キーピンの潤滑

キーピンの潤滑2

 

クリーニングしたあとのキーピンには
最適な潤滑剤を施工しておき
鍵盤の不要な抵抗を少なくしておきます。
このトルク感は絶妙で、少なすぎてもいけません。
鍵盤調整1

鍵盤調整2

 

鍵盤調整を見直します。
これまで調整されていないようで
かなりトルク過多になっていました。
鍵盤のささくれ

鍵盤のささくれ除去

 

量産品のピアノでは加工が大雑把で
ささくれがある事が多いので
同時に綺麗に処理しておきます。
その他、稼動部の潤滑を見直し
整調の見直しをして1日目は終了。
この時点で鍵盤ウェイトは
全体に 5g から 7g ほど軽くなりました。
作業前が 60g から 65g でしたので
現時点で 53g から 58g になってます。
このくらいが調整済の
ヤマハのウェイトと言えますが
もう少し軽くしたいのと
鍵盤ごとに重さのバラツキがあるので
鉛を追加してきっちり揃えます。
鉛の位置決め

鍵盤に鉛を配置

 

2日目は鍵盤に鉛を追加していく作業です。
1鍵ずつ分銅を使って鉛を追加する位置を決めていきます。
今回使用した鉛は
12ファイ、10ファイ、8ファイの3種類です。
鍵盤サイドにマーク

あらかじめ鉛を追加する位置にマークしておきます。
チョークでマークしてあるので
この印は消えます。
鍵盤に穴開け

穴開け

 

穴開け2

 

 

綺麗に穴が開きました。
柔らかい鍵盤を痛めないよう
慎重にあけていきます。
鉛をセット

ポンチ

 

鉛をセット完了

 

鉛をセットして専用のポンチで
かしめて完了です。
必要な残りの鍵盤も同様にして追加していきます。
低音

中音

 

高音

 

全ての鍵盤に鉛を追加し終えたら
全てをチェックしておきましょう。
最終的に
最低音部 52g からスタートして
中音を経過し、最高音部で 47g
となるようにしました。
隣同士の鍵盤での重さの誤差は 1g 以内です。
リフト値は25g以上は確保しておきました。

作業完了

お客様の試弾

さっそくお客様に試弾してもらいました。
「軽くなりました!」とまずは喜んで頂いたのと
「今まで鍵盤を押し込むように弾いていたので
まだ少し慣れないです」とも。
これは数日弾いていればすぐに慣れてくるかと思います。

ただ私個人の感想は
たしかに鍵盤の重さが標準的な重さになり
調整前より格段に弾きやすくなったのですが
まだ鍵盤タッチに微妙な違和感を感じます。
これはヤマハの平たいキャプスタンを
丸みを帯びたスタインウェイのキャプスタンに交換するか
アールビットを施工することで解決しそうな感じです。
極端に小さいグランドピアノの鍵盤は
絶妙なアールを帯びたキャプスタンに変えることで
テコの原理的にもコントロール性の向上が期待出来ます。
その事をお客様にお伝えして
ひとまず作業は完了です。

 

渡辺ピアノ調律事務所 渡辺雅美
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