カワイCA-40Aのタッチウエイトマネジメント(FW基準)
年2回から3回の頻度で調律にお伺いしているO様宅。
これまではアップライトピアノ(ヤマハU3H)のみでしたが
新たにカワイのグランドピアノ CA-40A が仲間入り。
ですがコレがかなりタッチが重いので
アクションをお預かりして
タッチウエイトマネジメント作業を行いました。
オリジナルのサンプルキー平衡等式。
BWは42gから46gとかなり重め。
FWは全てシーリング値を超えています。
Fは17gから20.5gでかなり大きめ。
HSWは低音は指標7と軽め。中音が指標9.5と重くなり、高音が指標8.5。
SRは6.3から7.0と高めです。
2g重りでのSRは、低音7、中音6.75、高音6.75。
6mm治具によるARは低音が6.5、中音が5.83、高音が5.5でした。
C4(40key)を三要素関連表で確認してみます。
HSWが指標9でSRが6.6ならばBWは51gになるとあります。
しかし実際のC4のBWは43.5gなので
鍵盤鉛を多く入れているか、手前に寄せて入れる事で
BWを43.5gにしているという事になります。
結果としてFWはシーリング値を5.7g超えてしまってます...
作業の方向性としては
HSWは中音を下げつつ全体を均す。
SRを2段階下げる
BWをもう少し下げる。
FWをシーリング値マイナスにする。
慣性モーメントを出来る限り小さくする。
以上を目安として進めていきます。
オリジナルのHSWスマートチャート。
低音が極端に軽く、中音でグッと重くなり
次高音から最高音にかけて少し下がるというのが
カワイのピアノによく見られる傾向のようです。
カワイCA-40Aオリジナルの鍵盤鉛の配置。
上から2本ずつ低音、中音、高音です。
鉛一個分の余裕も確保せずに
外側に寄せて鍵盤鉛を入れて
BWを下げようとしている事が垣間見れます。
結果として鍵盤そのものが動きにくい状態となって
タッチが重く反応の悪い鍵盤になっています。
C4の平衡等式を利用してのシミュレーション。
HSWを0.2g下げ、BWが1g軽くなり43.5gから42.5gに。
パンチングの半カットでBWは38.5gに。
ヒールへのシム挿入でBWはさらに下がって34.5gに。
最後に下がり過ぎたBWを40.3gに戻すと
FWはシーリング値マイナス0.1gとなり
普通に弾けるピアノに出来そうです。
一番外側に入っている鍵盤鉛を抜いて
新たに102mmの位置に14mmの鉛を入れる
効率的作業を選択します。
最終的にBWは7パーセント減、
慣性モーメントは7.9パーセント減という結果になりました。
HSW調整後。
赤が調整後。黒がオリジナルです。
隣り合うハンマー、そして全体が
なめらかに揃うことでタッチのばらつきが解消されます。
FW調整。
青がオリジナルで、ほぼ全域でシーリング値を超えていて
且つ隣り同士の鍵盤でバラツキが大きい事が分かります。
黒はシーリング値。
赤が調整後です。
事前のシミュレーションから
低音がシーリング値マイナス0.7g。
中音がマイナス0.1g、高音がマイナス3gとなるよう調整してあります。
HSWを一定に調整し、FWも一定に調整したら
BWのバラツキを揃えるのに
ヒールのシムの位置で最終調整します。
BWも出来るだけ揃えて、SRにしわ寄せが出るようにする方向性です。
シム入れによる効果の大きいピアノでしたので
15本くらいはシムが必要なくなり抜きました。
一目瞭然で説明不要かもしれませんが
左側が磨いたあとのバランスキーピンで
右側がオリジナルの状態(磨く前)です。
磨く前のキーピンは触るとベトベトしていました。
磨いたあとは表面がツルツルになり、触った感じもスッキリします。
キーピン磨きとセットで行いたいのが
バランスホールの清掃とブッシングクロスの清掃です。
バランスホールをブラシで掃除したあと
細綿棒にベンジンをつけてホール内を清掃します。
磨かれたキーピンに清掃後の鍵盤をセットする時
その効果がはっきりと体感できます。
Fが20g近くあるピアノなので
フレンジのスティックも確認しましたが
シャンクフレンジとウイペンフレンジのトルクが
大きいのでセンターを交換してトルク調整しておきました。
ローラーのファイリングをしてPTFEパウダーを施工。
ヒールクロスの汚れを落としてからPTFEパウダーを施工。
Fは最終的に20gから11g程度まで下がりました。
音の立ち上がりの遅いピアノだなぁと思ってましたが
お客様も同じ事を感じていたようなので
フロントパンチングクロスを
ホワイトパンチングフェルトに交換しました。
アクションのお預かり作業が仕上ったら
お客様宅に納品して整調作業を行います。
事前整調はしてありますが
ピアノにセットして再度整調を繰り返し行います。
椅子が2つあると助かります。
コーヒーありがとうございます。
やけにダンパーの掛かりが早い状態でしたので
ダンパーの掛かり調整を行います。
総上げ、総下げも不揃いなので調整しました。
BW40g、慣性モーメント7.9パーセント減で
無事に弾きやすいピアノに仕上りました。
今回はFW基準で作業を進めていきましたので
弾いた感じ、タッチのバラツキは皆無です。
2週間後に調律にお伺いさせて頂き
整音作業を行う予定です。
カワイのグランドピアノを迎えるにあたって
除湿器が導入なさってます。
「三菱電気の MJ-P180PX 」という機種で
湿度の設定が出来るので
ピアノの湿度管理に好都合でオススメです。
こちらのお宅にもう1台あるアップライトピアノには
ダンプチェイサー部分的システムが付けてあります。
除湿器の導入でさらに安定した状態をキープ出来ますね。
鍵盤の重たいグランドピアノ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail info@piano-tokyo.jp
url http://www.piano-tokyo.jp/
weblog https://www.piano-tokyo.jp/blog/
2020年5月15日
|
カテゴリー:ピアノ調律, ピアノ修理, タッチウエイト調整
ディアパソンDR-300のタッチウエイトマネジメント
DIAPASON DR-300の
『タッチウエイトマネジメント』作業を行いました。
Eメールでお問い合わせ頂きました。
6年ほど前に新品でお求めになったピアノの
タッチが重い(鍵盤が重い)ので
タッチウエイトを軽くして欲しいとのご依頼です。
これまで年配の調律師さんが来てくれていて
タッチが重い旨を伝え、調整してもらっていたそうですが
対処療法といった処置はしてもらえるのですが
物理的に軽くはしてもらえないので
タッチウエイトマネジメントを施工して欲しいとのことです。
アクションを引取にお伺いした際に
ざっと弾いた感じでは
カワイ系特有の重さを感じるのと
フリクションが大きい時に感じる重さと
弾き難さを指先に感じます。
しばらくの間アクションをお預かりして
中村式タッチウエイトマネジメントで
標準的なタッチウエイトに調整します。
アクションを外し、鍵盤を外すと
筬には6年分の埃が溜まっていました。
多くの場合こういった状態のピアノは
アクションを外した事が無い場合が多く
このピアノも鍵盤調整がされておらず
鍵盤のバランスホールはかなりキツイ状態となっていて
キャプスタンも磨かれていません。
整調は、ジャックが手前に寄せてあり
ジャック高さは低くしてあります。
レットオフはo.5mmから1.5mmとかなり狭くしてあって
ドロップはゼロになっています。
レペティションスプリングは
まったく効いてないところもあってバラバラ。
どうにか軽く感じるようにしようと
頑張った跡が見受けられます...
オリジナル状態の平衡等式を作成します。
BWは40gから最大48gと重め。
FWは全鍵でシーリング値を超えています。
HSWは低音は指標8から指標9でまずまずですが
中音と高音は指標9.5から指標10.5と重め。
SRは6.1から最大6.8で高めです。
オリジナルのHSWを作成します。
低音はそこそこですが
中音から高音では指標10、指標11と重めの傾向です。
全体を指標9に寄せていき、なめらかに揃える方向性で検討します。
c4(40key)での平衡等式を利用したシミュレーションです。
事前に調べたHSWスマートチャートから
HSWは指標9で揃えることを検討していますので
HSWを11.1gから10.5gに減量したとして、
BWは43.5gから39.5gになります。
バランスパンチングクロスの半カットで
SRが0.4下がると仮定し、
BWは39.5gから35.5gに下がります。
さらにもう一段階SRを下げる為に
ウイペンヒールにシムを挿入して
BWは35.5gから31.5まで下がりました。
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行いBWは38gに、
FWはシーリング値0.5gとなって
なんとか弾きやすいタッチのピアノに出来そうです。
平衡等式に慣性モーメントを連動させてシミュレーションするために
『鍵盤テンプレート』を作成します。
『鍵盤テンプレート』の数値を表計算ファイルに落とし込んで
FWが目標FWとなり、慣性モーメントが小さくなる
鍵盤鉛の配置をシミュレーションします。
メーカーが事務的に外側に入れた大鉛を抜いて
新たにバランスから96mmの位置に14mmの鉛を入れると
慣性モーメントをかなり下げる事が出来そうです。
CoGは0.452になりました。
ギアレシオの項目を入力して
最終的にBWが13パーセント減、
慣性モーメントは10.7パーセント下げることが出来ました。
HSW調整後のスマートチャートです。
黒がオリジナルで赤が調整後になります。
概ね指標9でなめらかに揃える事が出来ました。
中音から高音にかけては、0,5gから0.7gくらい
減量していますので、慣性モーメントが
小さくなることが出来ます。
同時にタッチが揃って感じるようになります。
ウイペンヒールにシムを挿入しSRを下げます。
最近のトレンドはロックタイのようで、
私も今回は2.5mm幅のロックタイを使いました。
カワイ系のウイペンフレンジはプラ製なので
この部分のスティックを必ずチェックして
トルクが大きいフレンジはセンターピン交換をしておきます。
今回はいくつかのレバーフレンジもスティックを起こしていたので
こちらもセンターピン交換をしておきます。
サポートのトップは良く磨き
スプリングとの接点は黒鉛が多すぎて
ドロドロになっていたので拭き取り
スプリングの頭を軽く磨いておきました。
ヒールクロスには汚れが付着していたので
ベンジンで清掃しておきます。
ローラーのスキンには黒鉛がたっぷり付いています。
スキンに付いた黒鉛はフリクションを大きくしてしまい
この黒鉛を落とすだけでフリクションが小さくなり
数グラムBWが軽くなる場合があるので
しっかり黒鉛を落としておきたい部分です。
ローラースキンの黒鉛を落としました。
この後PTFEパウダーをフデを使って塗布します。
納品から6年ほどのピアノなので
ローラーの変形はさほどありませんでした。
鍵盤周りにもタッチに影響する部分がたくさんあります。
バランスホールをブラシで掃除したあと
ベンジンを付けた細綿棒で清掃すると
黒い汚れが取れホール内が綺麗になり
バランスホールの動きがかなり良くなります。
前後キーピンも同様にベンジンで清掃すると
ウエスが真っ黒になるくらい汚れていました。
鍵盤の前後ブッシングクロスも汚れていますから同様に清掃し
私の場合はPTFEパウダーをクロスに擦り込んでいます。
清掃や潤滑は各人の考えや、やり方があると思いますので
各々が良いと思う方法でフリクション処理をすると宜しいかと思います。
特にこちらからお客様にご案内はしておりませんでしたが
勉強熱心なお客様で、フロントパンチングクロスを
ホワイトパンチングフェルトに交換して欲しいとの要望がありましたので
フロントパンチングクロスを
Wurzen ホワイトパンチングフェルト・コニカルに交換しました。
これに交換すると音の立ち上がりが早くなるようで
隠れた人気パーツです。
BW基準の鍵盤鉛調整の前に
事前にメーカーが一律に外側に入れた
鍵盤鉛を抜いておきます。
中音44keyのBW基準の鍵盤鉛調整後の配置です。
支点から遠くに配置されていた鍵盤鉛が無くなる事で
慣性モーメントが小さくなり、鍵盤が動きやすい状態となり
タッチは軽快に感じられるようになります。
新たに支点側に14mmと12mmの鉛を入れました。
総1本張りで澄んだ音色を奏でるピアノです。
タッチウエイトも標準的な重さになって
とても弾きやすいピアノになりました。
鍵盤の重たいグランドピアノ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail info@piano-tokyo.jp
url http://www.piano-tokyo.jp/
weblog https://www.piano-tokyo.jp/blog/
2020年1月5日
|
カテゴリー:ピアノ調律, ピアノ修理, タッチウエイト調整
カワイCA-40Mのタッチウエイトマネジメント
カワイ CA-40Mをお使いのお客様から
タッチが重い(鍵盤が重い)ので軽くして欲しいとの依頼があり
アクションをお預かりしてタッチウエイトマネジメント作業を行いました。
先日無事アクションを納品してお客様に試弾して頂いたところ
「全然違う!別のピアノみたい!」と、とても喜んで頂けました。
このピアノの場合、BW38gで
FWシーリング値マイナス3gを達成出来ましたので
とても弾きやすいピアノに仕上りました。
最初にEメールで問い合わせを頂いて
「いつも来ている調律師さんにタッチが重いので軽くしてくださいとお願いしたら
何やら5時間くらい作業をしてくれたので、作業後期待して弾いてみたところ
まったく軽くなってなかったんです...」
との事でした。
お伺いして、まずは弾かせてもらったところ確かにタッチは重いです。
アクションを観察してみると、「あがき」が8.5mmになっていて
その状態では「働き」が出なくなるので
打弦距離が44mmにしてありました。
あがきを少なくすることで鍵盤のストロークを短くして
軽く感じるようにしたのでしょうか?
真意は分かりませんが各整調寸度が基準寸法から大きく外れてしまうと
もはやピアノのタッチでは無くなってしまいますし
なにより実際に弾いてみて軽くなっていないので
小手先のギミックでは対処出来ないという事になります。
顧客が求めているのは物理的なタッチウエイトの軽減なのです。
アクションをお預かりして
「中村式タッチウエイトマネジメント」を利用して
標準的なタッチのピアノになるよう調整していきます。
オリジナルの鍵盤鉛の配置です。
上からC1、C2、C#2、C4、C#4、C6です。
鍵盤鉛は外寄せで入っていて
低音と中音は鍵盤鉛が多い印象を受けます。
FWはシーリング値を超えているのではと予想されます。
オリジナル状態の各部をデータ採集し平衡等式を作成します。
BWは37gから43.5gです。
数値としては平均40g程度で
BWは実際に弾いた感じよりは思ったほど重くありません。
Fは11gから15gでこちらも予想よりは大きくありませんでした。
FWは全鍵でシーリング値を超えています。
HSWは指標8から指標10で中音と高音が重め。
SRは6.0から6.5でやや高めです。
三要素関連票を確認してみると
鍵盤鉛を多く入れることでBWを下げていることが確認出来ます。
BWが40g前後なのに実際に弾いた感じは
それよりもずっと重く感じるという事は
「静的重さ」だけではタッチウエイトは調整しきれない事を意味しています。
もちろん「静的重さ」を標準値に寄せることは大切なのですが
同時に「慣性モーメント」を下げることが必要になります。
加えてSR、ギアレシオの変更やFをきちんと管理出来れば
弾きやすいタッチのピアノに仕上げる事が可能です。
以前遠方の方から
「鍵盤が重いので「タッチレール」を取付けてもらいました。
以前よりは少し楽に弾けるようになったのですが
やはりまだ重く感じるのですが...」
と相談のメールを頂きました。
タッチレールはBWだけを下げるタッチ補助ツールです。
伝統的に行われている鍵盤鉛調整もタッチレールと同じですが
これまではBWを調整すればタッチの調整は完成という
作業が行われる事が多かったですし
今日でもそのように調整する技術者が大半といった状況です。
ところがタッチレールや伝統的な鍵盤鉛調整で
BWを下げても実際に弾いてみると
あるピアノではそこそこ軽く感じるように仕上ったけど
別のピアノではBWは任意の重さに設定出来たのに
弾いてみると思ったほど軽くならなかったという矛盾が起きるケースもあります。
これらはタッチが「静的重さ」だけではなく
「動的重さ」を含め調整しなければならないという
分かりやすい例と言えるのではないでしょうか。
オリジナル状態のHSWスマートチャートを作成。
今回もカワイ特有の傾向で、低音は指標7から指標8で軽め、
中音と高音は指標9から指標11と重めになっていました。
指標9に寄せていくと全体がなめらかに揃いそうです。
C1(4key)の平衡等式を利用しての事前シミュレーションです。
事前に作成したHSWスマートチャートから
低音のHSWは増量の方向で調整していく事になるので
HSWは11.7gから0.1g増えて11.8gに変更、
ほぼ変わらずでBWは43.5gのまま。
バランスパンチングクロスの半カットで
SRを一段階下げてBWは38.5gに下がります。
さらにもう一段階SRを下げるために
ヒールクロスにシムを挿入して
BWは33.5gまで下がります。
最後に鍵盤鉛調整を行い
BWは38gになり、FWはシーリング値マイナス3.5gを達成出来ましたので
弾きやすいタッチのピアノに出来そうです。
平衡等式と連動して慣性モーメントを調整するために
鍵盤テンプレートを作成します。
低音の鍵盤は鍵盤鉛が入り過ぎていて
効率的作業を選択するにしても鉛が多くなりすぎてしまうので
「別の効率的作業」で外側の鍵盤鉛を削る作業を選択する事にします。
中音と高音は外側の鉛を抜いてからの「効率的作業」にします。
最終的にBWが13%減、アクション全体の慣性モーメントが5.1パーセント減になりました。
赤がHSW調整後、黒が調整前。
HSWを指標9に寄せながら隣の鍵盤と繋がるように調整しました。
HSWを揃えることでタッチが揃い、音色のバラツキが無くなります。
ウイペンはフレンジのトルクが10gオーバーと
スティックぎみでしたので(フレンジはプラ製)
88ヶ所のスティック修理をしつつ
ヒールにシムを挿入していきます。
ヒールクロスの汚れをクリーニングしてからPTFEパウダーを塗布します。
サポートレバー上下の黒鉛が塗布された部分をなめして
ツルツルに仕上げておきました。
かなり錆びて汚れたバランスキーピンを磨いていきます。
写真右半分が磨かれた状態、左半分が磨く前の状態です。
フロントキーピンも同様に磨きます。
バランスピンを磨き、鍵盤のバランスホールをベンジンで清掃したら
キツすぎて動きの悪かった鍵盤は
クリーニングだけでスムーズに動くようになりました。
清掃前にいきなりバランスホールを広げてしまうと
ホールを無駄に広げてしまう事になりかねませんので
まずは清掃してみると、それだけで済んでしまうケースが少なくないです。
前後キーブッシングクロスには黒鉛が塗られていたので
こちらも全てベンジンで綺麗に落としました。
黒鉛は時間の経過とともに粘りが出てきて
フリクションを大きくする原因となる場合があります。
鍵盤鉛調整の前に、一番外側に入れられている鍵盤鉛を抜いておきます。
今回は書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」で紹介されている
手順と同じBW基準の鍵盤鉛調整を行いました。
この鍵盤では一番外側に入っていた14mmの鉛が
一番奥、支点側に移動しました。
鍵盤鉛の配置が全体に奥側に移ることで
慣性モーメントが小さくなります。
アクションが仕上ったら納品して整調をします。
お預かりした際に事前整調はしてありますが、再度整調を確認していきます。
中音の鍵盤ならしがかなり低くなっていたので修正。
低音と中音のあがきが8.5mmになっていたのを10mmに修正。
ジャックの高さが若干低かったのでサポートから紙一重下に修正し
ジャック前後が奥ぎみになっていたのでローラー板と直線に揃うよう修正。
接近が1.5mmから1mmになっていたので、低音側から3mm、2.5mm、2mmに修正。
全鍵のアフタータッチが揃うよう修正。
レペティションスプリングが強すぎるので修正。
整調を全て基準寸法に戻して
タッチウエイトが標準値になったので
何時間でも弾いていられるピアノに生まれ変わりました。
アクションを納品した日には
お客様が既にコンプレッサー式の除湿器を用意されていました。
今までは湿度管理することがなかったので
ピアノが湿気を吸い放題でしたが
今後はお部屋の畳数に合った除湿器を稼働して頂けるので
今回調整したアクションも快調な状態を維持出来ると思います。
グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail info@piano-tokyo.jp
url http://www.piano-tokyo.jp/
weblog https://www.piano-tokyo.jp/blog/
2019年10月28日
|
カテゴリー:ピアノ調律, ピアノ修理, タッチウエイト調整
カワイKG-6Cの精密タッチウエイトマネジメント(FW基準)
カワイKG-6Cの精密タッチウエイトマネジメント(FW基準)を行いました。
お預かりしていたアクションを本日納品(及び調整)させて頂き
調整後のピアノを弾いたお客様の第一声は
「すごい軽いですね、嬉しい!」という反応で
とても喜んでもらえました。
KG-6Cは以前にも作業しましたが、それとは別のKG-6Cです。
お客様からEメールで問い合わせを頂いて
元々タッチの重かった昭和53年納品のグランドピアノを
40年程経ったところで修理工房にオーバーホールに出したそうです。
修理後戻ってきたピアノはやはりタッチが重いとのこと。
オーバーホールに出した工房の若い調律師さんに
その後3回調律に来てもらっていて
毎回タッチを軽く出来ないかとお願いしてみるのですが
調律師さんからは「これ以上は軽く出来ない」と言われるのみ。
でもやっぱりタッチが重くて弾くのが大変なので軽くして欲しい
といった内容です。
アクションを引取にお伺いした際に弾いてみたところ
ずっしりと重いタッチで確かに重すぎて弾くのが大変そうです。
全弦張り換えやフレームの再塗装などがされていて
アクションはハンマーアッセンブリーが交換され
ウィペンはオリジナルのままで手付かずの状態で
センターピン交換もされておらず
フレンジはスティックぎみでした。
鍵盤は前後キーブッシングクロスが交換されていますが
接着が上手く無く、いくつも剥がれかけていたり
少し力を加えるとポロリと剥がれてしまう状態です。
低音と中音のウイペンにはアシストスプリングが付いていて
次高音と高音にはアシストスプリングは付いていません。
整調はおそらく満足に作業していなくて壊滅的な状態で
多くの工程が基準から大きくずれています。
お伺いした日は梅雨真っ盛りで湿度が高く、除湿はしていません。
戸建ての1Fということもあって部屋の中も蒸し蒸しです。
伺うとこれまで湿度を気にした事はないそうで
40年以上ピアノに湿気を吸わせてしまっています。
多湿な状況でさらにオールカバーが掛けてあるので
ウイペンのフレンジがスティックぎみなのも納得です。
簡単にではありますが湿度管理についてご案内させて頂きました...
全弦交換してあるのでまだ安定せず、調律はすでにかなり狂っていたので
ピッチ上げ調律を済ませてからアクションをお預かりしてきました。
お預かりしたアクションを
中村式タッチウエイトマネジメントを利用して
標準的なタッチウエイトに近づくよう作業します。
今回はBW基準ではなく、FW基準で調整していきます。
オリジナルの状態では
C1 : DW76g UW35g BW55.5g F20.5g
C2 : DW66g UW29g BW47.5g F18.5g
C#2 : DW66g UW30g BW48g F18g
C4 : DW63g UW31g BW47g F16g
C#4: DW72g UW34g BW53g F19g
C6 : DW59g UW34g BW46.5g F12.5g
という結果で、全鍵でBWが45gを超えていますので
静的重さだけで言えば重すぎて弾くことが難しい状態となります。
ウイペンはアシストスプリングが付いたタイプです。
フレンジを手に持つと斜め上に跳ね上がるほど強力に効いています。
アシストスプリングがあると
タッチにダイレクト感が得られなくなるので全て取りはずします。
ウイペンフレンジは木製ではなくプラでスティックぎみになっていたので
センターピン交換をしてトルクを調整しておきます。
サポートレバートップの黒鉛が塗られた部分にザラツキがあるので磨き直しておきます。
ヒールクロスは黒鉛が塗られていたので
ベンジンで拭き取ってPTFEパウダーを塗布しておきました。
同時にヒールにシムを挿入しておきます。
ヒールの形状とクロスの厚みから、通常より少し厚めのシムを入れておきます。
アクション各部のデータ採集をして
ウイペンアシストスプリングを外した状態で平衡等式を作成します。
BWは低音と中音ではアシストスプリングが無くなったので数値は極端に大きくなります。
FWもアシストスプリングに頼っていた為、シーリング値よりもかなり小さな数値です。
Fは全体に大きめ。
HSWは最低音は指標9.5、そこから高音までは
指標8、指標7と思ったほど重くはありませんでした。
ハンマーアッセンブリーが交換されているので
念のためローラー距離を確認しましたが、オリジナルと同じで問題ありません。
SRは6.7から7.3とかなり高めです。
現状のHSWスマートチャートを作成しHSWの傾向を確認します。
見た目では綺麗に揃っているように見えるハンマーも
実際の重さはかなりのバラツキがあることが分かります。
この分布からは指標8から指標8.5揃えるのが現実的でしょうか。
C6を使っての事前シミュレーション。
HSWはオリジナルの指標7から指標8にして、BWは46.5gから49.2gになります。
SRを下げる為にバランスパンチングクロスの半カットを行い
BWが49.2gから46.5gに下がります。
もう一段階SRを下げるのにヒールにシムを挿入し
BWは46.5gから43.8gになります。
最後に鍵盤鉛調整を行いBWを43gにすると
FWはシーリング値マイナス1gになり
なんとか弾く事の出来るピアノになりそうです。
他のサンプルキーでもシミュレーションした結果
FWをシーリングマイナスにするには
BWを43g程度に設定するのが現実的となりました。
BWが43gですので静的重さだけで言えば少し重めという事になりますが
慣性モーメントを出来るだけ小さくする事で
実際に弾いた感じは軽くなるように調整していきます。
今回はBW基準ではなくFW基準で作業します。
「BWが全鍵綺麗に揃っていてFWにはバラツキがある」という状態よりも
「FWとHSWがきっちり揃っていてBWにしわ寄せを出す」ほうが
実際に弾いてみた感じは
後者の方がタッチが揃って感じるので、FW基準で作業を進めていきます。
C6(64Key)の鍵盤鉛位置をシミュレーションします。
オリジナルは慣性モーメント値が28063gcm2です。
外側に入っている12mmの鍵盤鉛を抜いて
内側に14mの鉛を2つ入れることで
慣性モーメント値が26084gcm2となり
鍵盤の慣性モーメントはオリジナルより7パーセント小さくなる結果になりました。
今回はBWが若干大きめなのでCoGは考慮せずに
慣性モーメントが出来る限り小さくなる位置に決めます。
HSWを調整しました。
黒がオリジナル、赤が調整後です。
バラツキの大きかったオリジナルの状態から
連続してなめらかに揃う状態に調整しました。
HSWが綺麗に揃っているとタッチが揃うとともに
音色も揃いやすくなります。
オリジナルのFW実測値です。
低音と中音はアシストスプリングに頼っていたので
鍵盤鉛の数が少なくFWは極端に小さめ。
次高音から高音まではシーリング値付近を推移しています。
FWを測定し実測値を見ると
オリジナルのFWは驚くほどバラツキがある事が分かります。
FW基準で鍵盤鉛の位置決めをします。
元々入っていた外側の鉛は事前に抜いておき
内側に寄せて鍵盤鉛を配置します。
鉛の数が増えても慣性モーメント値が小さくなる理由は
書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」の
71ページ、図4-6で解説されている通りです。
今回は平衡等式を使った事前シミュレーションの結果から
シーリング値マイナス1gとなるよう位置決めしていきます。
鍵盤鉛調整をした後のFW実測値です。
黒がオリジナルで、赤が調整後です。
シーリング値より低い位置でなめらかな曲線を描いています。
FWが綺麗に揃うことで
全鍵に渡りタッチウエイトが揃って感じらるようになります。
この作業での注意点は
例えば30KeyのFWを32.3gに設定し
隣の31KeyのFWを31.7gにする場合
両方の鍵盤で鍵盤鉛の配置が極端に違わないようにする事です。
30Keyは内側の鍵盤鉛がバランスピンから100mmの位置で
31Keyはバランスピンから50mmの位置にして目標FW値になったとしても
実際に弾いた時にはタッチが揃って感じられなくなりますので
隣り合う鍵盤の鍵盤鉛の配置が
出来るだけ同じ傾向になるように揃えると
弾いたときのタッチが滑らかに感じられます。
FW基準の鍵盤鉛調整後の状態です。
上が低音側、下が高音側になります。
外寄せで入っていた鉛は事前に抜いてあります。
慣性モーメントを小さくしタッチを軽くする方向で作業していますので
全体に鍵盤鉛が内側に配置されています。
BWが最大55.5gもあって重すぎて弾けなかったKG-6Cでしたが
BWを43gにし、慣性モーメントを可能なかぎり下げた事で
無事に弾きやすいタッチのピアノになりました。
静的重さよりも慣性モーメントの影響が大きい事が
仕上ったピアノを弾いてみて再確認出来ました。
納品にお伺いした日には、既に除湿器を導入して頂いてました。
適湿にキープすることで、ピアノを安定した状態に保てます。
グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail info@piano-tokyo.jp
url http://www.piano-tokyo.jp/
weblog https://www.piano-tokyo.jp/blog/
2019年7月12日
|
カテゴリー:ピアノ調律, ピアノ修理, タッチウエイト調整
カワイRX-1のタッチウエイトマネジメント
カワイRX-1をご使用中のお客様から
重たい鍵盤を軽くすることが出来ると知ったので作業して欲しい旨のメールを頂戴し
アクションをお預かりしました。
このところカワイのグランドピアノをお使いの方からの依頼が増えてます。
アクションをピックアップするより以前に
一度「調律」にお伺いして、状態を確認させて頂きました。
低音セクション、中音セクションではBW45g以上とかなり重く
次高音、最高音ではBW37.5g前後でさほど重くありません。
但し次高音と最高音のBW37.5gは
これが理にかなっているかはまだ分かりません。
全体にタッチが重い事に加え、後付けで消音ユニットを付けていて
レットオフが8mm前後とかなり広めになっている為に
ジャックの脱進量が異常に大きく、ジャックストップフェルトを押し付けて
おかしなタッチ感になっているので
重いタッチウエイトと相まって余計に弾きにくい印象です。
お預かりしたアクションを
「中村式タッチウエイトマネジメント」
(Yuji Nakamura “Touchweight Management”)を利用して
標準的な重さに調整していきます。
作業に入る前に...
以前誰かがスティック修理の為にシャンクフレンジのセンターピン交換をしたようなのですが
1ヶ所フレンジを上下逆に取付けていてドロップスクリューが上下反転していました。
上下正しい位置に直そうとセンターピンを抜いたところ
入っていたセンターピンは挿入側の細い部分を通過させずに
フレンジ内にとどめてセットされていました。
写真で確認出来るセンターピンはセットされていたピンです。
センターピンの右側に挿入部分が確認出来ます。
当然トルクは無くスカスカでしたので
フレンジの上下を正しい向きにしてセンターピンを交換し
適正トルクに調整しておきました。
現状のデータ採集を済ませ平衡等式を作成します。
データ採集は、「フリクション関連項目」「スタンウッドシステム関連」、
慣性モーメント値も変更したいので「慣性モーメント関連」の全てを行いました。
BWは低音では45g以上もあって弾けない重さ、
中音のBWは37.5gと41.5gで標準と重めが混在、
次高音は37.5gで標準です。
C4(40key)を3要素関連票で確認してみると
HSWが指標8で、SRが6.5であるならば
BWは47gになるとあります。
ところが実際のC4(40key)のBWは41.5gなので
鍵盤鉛を多く入れてBW41.5gにしているという事になります。
結果FWはシーリング値を超える33.8gになっています。
Fは鍵盤によってかなり大きいものもあり、全域で大きめです。
FWは低音はシーリング値マイナスですが、中音と高音はシーリング値を超えています。
KRは最低音が0.50、その他は0.51。
HSWは低音が指標6から指標7.5で軽め、
中音が指標8で、高音が指標10と重め。
SRは6.3から6.6で高めの傾向です。
6mm治具で測定したARは低音が5.5、中音5.3、高音、5.7でした。
オリジナルのHSWチャートを作成します。
K社に多い傾向で低音が指標6から指標7.5で軽く、
中音は指標8から指標9に多くが分布して
次高音は指標9から指標11の間で重め、
最高音は指標8から指標9付近でした。
この分布から現実的に調整可能なのは
低音を指標7から少しずつ重くしていき
中音で指標8、次高音にかけて指標9に上げていき
最高音も指標9でそのまま滑らかに続いていく感じに
仕上げるのが無難と判断しました。
オリジナルC4(40key)の事前シミュレーションです。
一段目はオリジナル状態の平衡等式です。
【2段目 HSW増減量】
先のオリジナルHSWチャートから中音は指標8に調整する事にしましたので
このキーのHSWは何もせずこのまま10.0g(#8)。
【3段目 SR削減】
次にバランスパンチングの半カットを利用してSRが0.4下がることを想定し
HSW10.0 × SR0.4 でBWは41.5gから4g下がるのでBW37.5gに。
【4段目 SR削減】
さらにもう一段階SRを下げるためにウイペンヒールへのシムの挿入を利用して
SRが0.4程度下がると見込んで、BWを37.5gから33.5gまで下げます。
6.5と高めだったSRはこの時点で5.7まで下がりました。
【5段目 BW基準の鍵盤鉛調整】
軽くなり過ぎたBWを標準的な重さに調整するために
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行います。
BWを38.5gにするとFWは28.5gになり
FWはシーリング値マイナス1.5gで
BWは38.5gと標準的な重さになり
実用的に弾けるタッチのピアノに出来そうです。
SRが5.7である事で操作に間違いがない事を確認します。
この作業を進めていくときにBWに馴染みが無いと
どうしてもDW、UWを気にしてしまう方も多いと思います。
上記シミュレーションでは最終的なDWは57gでUWは20gとなっているので
これまでDW、UWでのタッチウエイト調整に長く慣れ親しんだ方ほど
「軽くなってないじゃないか」と思うかもしれません。
この後の作業で、18.5gと大き過ぎるFを13.0gに下げると
DW51.5g、UW25.5gになります。
Fを11.5gまで下げた場合は、DW50g、UW27gになります。
この作業では「BWそれ自身」を「静的重さの基準(目安)」として扱いますので
BWが「目標とする基準」に到達するよう調整を進めていきます。
今回の作業では目標とするBWを「標準の中のさらに中心値」であるBW38g付近にして
且つFWもシーリング値マイナスにすることが
静的重さの調整のゴールになるので
DW、UWはとりあえず視界と頭の中からいったん横に置いておいて頂き
BWが目標値になるようシミュレーションすると上手くいきます。
左辺で特に重要なのは「BW」と「FW」です。
DW、UWはBW設定後にF処理で解決します。
※BWとFの関係は
書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」の21ページから22ページに掛けて説明がされています。
※各鍵盤とFの基準は書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」188ページ、
「スタンウッド氏によるフリクションウエイト表」に一覧が掲載されています。
※BWの重さの基準は
書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」中村祐司[著]の80ページ、
「5 バランスウエイトと慣性モーメントの目標設定」に説明が記載されています。
またタッチを軽くする方向の作業なので
静的重さと同時に、この後作業していく
「慣性モーメント値を下げる」ことが
弾きやすいタッチを実現することに大きく影響してくるのと
慣性モーメントを数値化して平衡等式と連動して調整出来るのが
この作業の醍醐味です。
スタンウッドの平衡等式に慣性モーメントも連動させてシミュレーションしたいので
鍵盤のテンプレートを作成します。
(鍵盤テンプレートの作成方法は中村さんの書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」の
51ページから説明されています)
鍵盤テンプレートのデータを表計算ファイルに入力します。
一段目(A)はオリジナルの状態で、鍵盤固有の慣性モーメント値は27,907gcm2。
二段目(B)は想定最小値で、22,605gcm2。
三段目(C)は最も外側に入れてある鍵盤鉛を抜いて鍵盤鉛調整を行ない24,332gcm2。
四段目(D)は既存の鍵盤鉛の配置のまま、外側の鍵盤鉛をドリルで削り26,031gcm2。
五段目(E)は鍵盤鉛の無い鍵盤のみで17627gcm2。
(C)と(D)のどちらかを選択する事になりますが
作業効率の良さと効果の大きさから(C)の効率的作業を選択します。
外側の鍵盤鉛を抜いて、内側に12mmと10mmの鉛を追加しました。
いくつかの組み合わせを試行した中で
この組み合わせが最もC0Gを理想値に近く出来て
且つFWを目標値に出来て、慣性モーメント値も下げられる位置決めでした。
C0Gを気にしないのであれば、
もう少し慣性モーメント値を小さくすることも可能です。
この辺りは個々のアクションの状態や顧客の要望如何で
何を優先するか臨機応変に対応すれば良いでしょう。
やたらとタッチの重いピアノや
顧客がとりわけ軽快なタッチを望んでいるようなケースでは
慣性モーメントが出来る限り小さくなる位置決めを選ぶと良いです。
鍵盤固有の慣性モーメント値は
オリジナルの27,907gcm2から24,332gcm2まで下げる事が出来ました。
ギアレシオの項目を入力すると
最終的にBWは41.5gから38.5gとなり7パーセント軽くなり、
アクション全体の慣性モーメント値は
144,946gcm2から135,680gcm2と6.4パーセント軽減出来る結果になりました。
【実際の作業】
HSWの調整を行いました。
黒がオリジナル、赤が調整後です。
低音から高音までオリジナルの重さのバラツキ幅が大きかったので
上手く繋げるのが難しい状態でした。
最低音は指標6と軽過ぎるので指標7まで持ち上げて
そこから中音にかけて指標8に繋げ
次高音から最高音までを指標9で揃えました。
オリジナル状態では隣のハンマーと0.7g違うところもあったので
隣り合うハンマーの重さが揃いタッチと音色が揃ってくると思います。
バランスパンチングクロスの半カットを行う為に
鍵盤バランスホールの奥側に接着剤を塗布します。
私は「コニシ 木工用ボンド プレミアム 速乾」を使ってます。
先端が極細になっているので狙った部分に塗布しやすいです。
このボンド、中身は通常の「コニシ ボンド 木工用 速乾」と同じなので
プレミアムの先端を外して中身は「コニシ ボンド 木工用 速乾」を補充することで
プレミアムの容器を再利用出来ます。
鍵盤底面に接着剤を塗布したら
後ろ加重で鍵盤をセットし
白鍵ならし用のバックチェックに引っ掛ける重りを付けて
接着剤が乾くまで放置します。
速乾なので割とすぐ作業に取り掛かれます。
後ろ加重で接着されたバランスパンチングクロスの状態です。
右側が鍵盤後ろ側、左が手前側(弾き手側)です。
バランスパンチングクロスが後ろ加重で僅かに斜めになっているのが分かります。
鍵盤底面に接着されたパンチングを中央でカットします。
今回は軽くする方向で作業していますので
後ろ側を残し手前側を取り去ります。
ウイペンヒールにシムを挿入します。
軽くする方向の作業なのでジャック側にいれます。
先に細工カッターでヒールクロスを軽くさらって
不要な接着部分を無くしておくと入れやすく任意の位置にセット出来ます。
近年のさほどアールのついていないヒールであれば
それほど厚みのあるシムを入れなくても十分に効果があります。
アールのきついヒールや厚手のヒールクロスが使われているピアノの場合は
少しシムを厚めのものにしないと上手く効果が出ない場合もあるので
その際はシムの厚さを変更して効果を確認しながら進めていくと上手くいくと思います。
カワイRX-1オリジナルの
ウイペンと鍵盤間のギアレシオは1.9
ハンマーと鍵盤間のギアレシオは8.2
でしたが
作業後は
ウイペンと鍵盤間のギアレシオは1.8
ハンマーと鍵盤間のギアレシオは7.7
に低くなりました。
因に同クラスのヤマハ C1Xではオリジナルの
ウイペンと鍵盤間のギアレシオは1.8
ハンマーと鍵盤間のギアレシオは7.6
でしたが
作業後は
ウイペンと鍵盤間のギアレシオは1.7
ハンマーと鍵盤間のギアレシオは7.2
でした。
ギアレシオの違いもヤマハとカワイのタッチウエイトの違いに
少なからず影響していると思われます。
オリジナルの鍵盤鉛の配置です。
上から2本ずつ低音、中音、次高音、高音です。
鍵盤鉛が外側に寄せて入れてあるのが分かります。
下から3本目(次高音の黒鍵)と下から2本目(高音の白鍵)では
外側から3個目の鍵盤鉛が2個目の鉛にかなり寄せて入れてあるのが分かります。
HSW調整、SR調整、フリクション処理等全て済ませたら
鍵盤の外側に入れられた鍵盤鉛を抜いていきます。
BW基準の鍵盤鉛調整を行う前に事前に済ませておきます。
削るのではなく押し出して抜きます。
ボール盤と治具を使うと便利です。
BW基準の鍵盤鉛調整を行います。
一番外側に入れられた鉛を抜いて
新たに内側に鍵盤鉛が入りました。
気になる人は抜いた穴を埋め木しても良いですが
その場合、鍵盤材の質量分、
慣性モーメントが増えてしまうことを考慮する必要があります。
少しでも軽くしたい場合は木の質量分も惜しいので
そのままのほうがタッチは軽くなります。
低音のBW基準の鍵盤鉛調整後の状態。
外側に入っていた14mmの鍵盤鉛を抜いて
内側に14mmの鉛を2個入れています。
低音や黒鍵など音域によってはどうしても鍵盤鉛の数が多くなります。
鉛の量(鉛の個数)が増えているので
タッチが重くなるのではないかと思う人がいるかもしれません。
確かに鍵盤鉛の数はオリジナルよりも多くなっていますが
同じFWにする場合、オリジナルの鉛の配置よりも
内側に多く配置したこの状態のほうが
慣性モーメント値は小さくなります。
この事については中村さんの書籍「タッチウエイトマネジメントの方法」の
71ページの図4-6「鍵盤鉛のフロントウエイトと慣性モーメントへの影響の比較」を
みて頂けると理解頂けます。
図4-6の上段と中段の鍵盤は鍵盤鉛は少ないですが
支点より外側に(支点から遠くに)鍵盤鉛が配置されているために
慣性モーメント値がかなり大きくなってしまい、
下段の鍵盤は鍵盤鉛の量は最も多いにもかかわらず
慣性モーメント値をとても小さくすることが出来ています。
いずれの鍵盤もFWは同じです。
今回の作業は時間に余裕があったので
BW基準の鍵盤鉛調整後に再度FWがシーリング値を超えてないか確認してみました。
BW基準で作業を進めていくと、しわ寄せがFWに誤差となって出ます。
測定結果は全てシーリング値を下回っていましたので一安心です。
作業後はBW38.5g、慣性モーメント値6.4パーセント減で
弾きやすいグランドピアノになりました。
いずれ消音ユニットを取り外せば
整調を基準寸法に戻せるので
もっと良いタッチのピアノになります。
グランドピアノの重たいタッチ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail info@piano-tokyo.jp
url http://www.piano-tokyo.jp/
weblog https://www.piano-tokyo.jp/blog/
2019年4月29日
|
カテゴリー:ピアノ調律, タッチウエイト調整
« 前へ
次へ »