ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメント(作業編)

ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメントの続きです。

 

前回、データの採集、分析、試行をした結果をもとに
実際の作業に取り掛かります。

 

HSW測定
HSWを全鍵測定します。
その他にWWやFW , KRも測定しておきます。
念のためアクションスプレッドと
二つのマジックラインも確認しておきました。

 

HSWの減量
重過ぎるハンマーはテーパーをもう少し削るか
テールもしくはアーク部を削り0.1g単位で減量します。

 

HSWの増量
軽過ぎるハンマーは
専用の鉛を入れて増量します。
こちらも0.1g単位で調整します。

 

smart chart

黒がオリジナル、赤が調整後です。
全体を見ると、低音が極端に軽く、
中音と高音はそこそこ重いという状態です。
低音は平均指標7といったところですが

最も軽いところで指標5ですので
どう頑張っても理想的な並びにはなりませんので
隣合うハンマーでのバラツキを揃える方向で調整しました。
中音と高音は指標9から10で出来る限り揃うように調整しました。

 

 

ハンマーのファイリング
ハンマーは針の下入れとファイリングをしておきます。
(中央から左がファイリング後、右がファイリング前)
今回は攻めのファイリングではなく
ピアノに優しいファイリングを行っています。
一般家庭のピアノが長くお使い頂けるよう配慮してあります。

ハンマー周りでは
71Gと77C#で膠切れの雑音が出ていたので直してあります。
ほとんどのシャンクフレンジがスティック直前の状態でしたが
61Keyだけガタが出ていたので修正してあります。
その他のシャンクフレンジはトルクが大きいので
標準値にトルク調整しておきました。

 

ヒールへのスペーサー挿入
ヒールにスペーサーを入れSRを下げます。
同時にARとギアレシオも変わるので
確認しながら進めていきます。
この作業は本来ウィペンを外さずに出来るのですが
今回はフレンジのトルクが大きく
トルク調整も同時に行う必要があり、一つずつ外して作業を行いました。
平行してヒールクロスの汚れべたつきをベンジンで拭き取り
クロスのへこみをフェルトトリートメントで修復しています。
ヒールクロスは仕上げにPTFEを刷り込みなめしてあります。
サポートの上面と裏のスプリングの接点(黒鉛の塗ってある部分)と
ジャックの頭はスムーズな動作をするようなめしておきます。
新たな黒鉛は追加していません。

バランスパンチンングの半カットを以前行っていますので
SRはオリジナルより2段階下がることになります。

 

追加された鍵盤鉛

鍵盤鉛
鍵盤には後付けの板鉛が全鍵に追加されています。
この鍵盤(中音)では、元々メーカーが
DW基準で入れた鍵盤鉛が4つも入っているところに
さらに板鉛が外側に追加されている為
FWは大きく、慣性モーメントも大きくなってしまっています。

せっかく綺麗に貼ってくれた後付けの板鉛ですが
不要と判断されますので、全て取り外します。

 

鍵盤鉛を抜く
一番外側の鍵盤鉛を抜いていきます。

 

抜いた鍵盤鉛
外側の鉛を全て抜きました。

 

鍵盤に穴開け
新たに内側に鉛を追加するために
穴開け作業を行います。

 

新たな鉛を追加
新たな鍵盤鉛を追加していきます。
専用のポンチでかしめて固定します。

 

鍵盤鉛を内側に追加
外側の大鉛を抜き、内側に新たに鉛を追加しました。
目標FWを満たしつつ、慣性モーメントが小さくなります。

 

ローラーナックルの黒鉛落とし
ローラーナックルには黒鉛がべっとりと付いていました。
この黒鉛はFを大きくしますので出来る限り落とします。
中央から右が黒鉛を除去しローラーを整形した状態、
左は元の状態です。
黒鉛を落としたあと、ローラースキンを軽くシェービングし
仕上げにPTFEを塗布してあります。
サポートとジャックの黒鉛の塗られた部分、
そして下側のレペティションスプリングの当たる部分を
よくなめしておきます。

 

キーピン磨き
前後キーピンもFに影響しますので綺麗に磨きます。
今回のピアノは手磨きではイマイチな仕上がりだったので
バフ掛けしてあります。
結果濡れたような艶が出て、ツルツルに仕上りました。
仕上げにPTFEをモールクリーナーで刷り込んで
キッチンペーパーでProLubeを刷り込んであります。
このピンの相手となる前後ブッシングクロスは
フェルトトリートメントでガタを修復した後
PTFEを刷り込んでからなめしておきました。

 

キャプスタン磨き
キャプスタンもFに影響してきますので
バフ掛けしツルツルに仕上げます。
こちらもPTFEとProLubeを施工してあります。

 

磨かれたキャプスタンとキーピン
キャプスタンとキーピンが綺麗に磨かれました。

 

黒鍵の塗装剥がれ
ピアノのオーナーさんがたくさん弾いている事を証明するかのように
黒鍵のサイドの塗装剥がれが目立ちます。

 

黒鍵を塗装
黒鍵脇の塗装の剥がれを
黒鍵専用塗料で塗っておきました。
また抜いた外側の大鉛の穴も塗装しておきました。
鍵盤鉛を抜いたあとの穴は
これまで埋め木をするのが一般的でしたが
せっかく外側の鉛を抜いて、慣性モーメントを小さくしたのに
また埋め木をして慣性モーメントが大きくなる事はしたくないので
そのままにしてあるのです。
Nさんによると強度は問題ないそうです。
白鍵はそのままでいいですが
黒鍵は木肌がちらっと見えてしまうと演奏中に気が散る可能性があるので
黒鍵にあいた穴は黒鍵塗料で塗装し目立たなくしてあります。

 

BW基準での鍵盤鉛調整
最後にBW基準で鍵盤鉛調整を行い完成です。

 

今一度、オリジナルの測定値がどうだったか確認しましょう。

 

C1 : DW62g , UW14g , BW38g , F24g
C#1 : DW61g , UW21g , BW41g , F20g
C2 : DW61g , UW17g , BW39g , F22g
C#2 : DW63g , UW16g , BW39.5g , F23.5g
C4 : DW55g , UW21g , BW38g , F17g
C#4 : DW57g , UW22g , BW39.5g , F17.5g
C6 : DW52g , UW21g , BW36.5g , F15.5g
C#6 : DW50g , UW21g , BW35.5g , F14.5g
A7 : DW45g , UW17g , BW31g , F14g

 

という数値でした。

 

そして以下がタッチウエイトマネジメント作業後の実測値です。

 

C1 : DW53g , UW29g , BW41g , F12g
C#1 : DW52g , UW30g , BW41g , F11g
C2 : DW50g , UW30g , BW40g , F10g
C#2 : DW51g , UW27g , BW39g , F12g
C4 : DW48g , UW32g , BW40g , F8g
C#4 : DW49g , UW32g , BW40.5g , F8.5g
C6 : DW48g , UW32g , BW40g , F8g
C#6 : DW47g , UW32g , BW39.5g , F7.5g
A7 : DW48g , UW31g , BW39.5g , F8.5g

SR = 6

 

このような結果に仕上がりました。
作業はBW基準で進めてあるのですが
Fをコントロール出来れば
自然とDW , UWは理想的な数値になる事が分かります。

これにくわえ、慣性モーメントも
アクション全体で15.7パーセント小さくなっていますので
かなり軽快なタッチに感じられる筈です。
DWは小さくなり、UWが増してますので
指に吸い付くようなタッチ感が期待できます。

あとは納品して微調整を済ませたら完了です。

 

【追記】
本日お客様のもとへアクションを納品、調整してきました。
さっそく仕上がりを確認頂いたところ
「凄い!全然違いますね。変わるものなんですね」
「たくさん弾きます!」と
大変喜んで頂けました。

 

今回のピアノと同じようなケースが該当する方も居られると思います。
後付けの鉛を追加してもらって
計ると確かにDWは小さくなっているが、弾いた感じはあまり軽くない。

その場合、調整しなければならないのは
慣性モーメントであったり、ギアレシオ
あるいはFである可能性があります。

 

ピアノの鍵盤が重い、あるいは軽過ぎてお困りであれば
タッチウエイトマネジメントで解決出来るかもしれません。

まずはメールでご相談くださいませ。

 

タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
渡辺ピアノ調律事務所
〒154-0016 東京都世田谷区弦巻1-20-14
E-mail  info@piano-tokyo.jp
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ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメント(データ採集、試行編)

DIAPASON 183-G
ディアパソンのグランドピアノ、 183-Gのお客様から
鍵盤が重いので軽くして欲しいとのご依頼があり
タッチウエイトマネジメントを行いました。

 

現在の状態のチェック
現在の状態をチェックしデータ収集します。

 

タッチの現状は

C1 : DW62g , UW14g , BW38g , F24g
C#1 : DW61g , UW21g , BW41g , F20g
C2 : DW61g , UW17g , BW39g , F22g
C#2 : DW63g , UW16g , BW39.5g , F23.5g
C4 : DW55g , UW21g , BW38g , F17g
C#4 : DW57g , UW22g , BW39.5g , F17.5g
C6 : DW52g , UW21g , BW36.5g , F15.5g
C#6 : DW50g , UW21g , BW35.5g , F14.5g
A7 : DW45g , UW17g , BW31g , F14g

という結果です。

 

計算SRは6.2、
2g重りによるSRは、低音6、中音6、高音6.5でした。

6mm治具によるARは6です。

アクションスプレッドは113.5mm。

 

BWはさほど重くないようです。
Fが大きくその為DWが大きくなりUWが小さくなってしまい
タッチが重くなっています。

また以前このピアノを定期調律しておられた調律師さんが
顧客からタッチを軽くして欲しいと言われ
鍵盤底面のフロントブッシングクロス周辺に
6.6gと1gの板鉛が貼ってあります。
Fの処置をしないまま、外側に板鉛を追加したため
DWに変化がないばかりか
慣性モーメントはより大きくなって
ただただ重く弾き難いタッチになってしまっています。
後付けされたこの板鉛は取り外す事にして
さらに元々メーカーが入れた一番外側の大鉛を抜いて
BW基準で鍵盤鉛調整をやり直し
新たに追加する鉛を内側に寄せて
慣性モーメントを小さくする方向での調整を行います。

BWは特別重くはないので
現状維持もしくは近い値とし
Fが大きいのでこれを出来るだけ下げるよう調整するのが良さそうです。

 

smart chart

HSWを全鍵測定。黒が現状です。
メーカーオリジナルのハンマーは
重さのバラツキがかなり大きい事が分かります。

 

 

鍵盤テンプレート
鍵盤の慣性モーメントの算出に必要な
鍵盤テンプレートを作成します。
以前追加された板鉛も記載してあります。

 

オリジナルの平衡等式
オリジナルのサンプルキーでの平衡等式を作成。

BWは標準に近い値で思った程大きくはありません。
Fは非常に大きいです。
FWはシーリング値を超えているものが多く
特に中音と高音で大きいようです。
板鉛が追加されているのでFWはその分余計に大きくなっています。
HSWは低音は小さく、
中音と高音ではピアノのサイズの割には大きめのようです。
SRは標準少し高めといったところです。

C4(40key)を3要素関連表でみると
HSW指標10で、SRが6の場合
FWシーリング値マイナス3gとするには
BWは48gになるとあります。
しかし実際のBWは38gですので
鍵盤の鉛量を増やしてBW38gを実現している事になります。

作業の方向性としては
BWは現状維持に近い値とする。
HSWは低音は大きくする方向で揃え
中音と高音は下げる方向で揃える事となります。
SRは既にパンチングの半カットを行っているが
6以上あるのでヒールへのスペーサー挿入で
もう一段階下げる、
最終的にFWはシーリング値を超えないよう調整。
Fは出来る限り軽減。
といった感じを想定します。

 

平衡等式を利用してシミュレーション
C4(40Key)で平衡等式を利用してシミュレーションしてみます。

 

数値は左から
DW , UW , BW , F , KR , WW , WBW , HSW , SR , FWシーリング値 , HSW指標 , AR となります。

HSWの指標を一段階下げBWを3g小さくします。
ヒールへのスペーサー挿入によりSRを0.4下げてBWをさらに4g小さくします。
(因に前回こちらで伺った際に、出先でパンチンングの半カットを行っていますので
SRは実際にはこの時点でオリジナルより2段階下がる事になります)
最後に下がりすぎたBWを鍵盤鉛調整により戻し
FWはシーリング値マイナス0.7gとなりそうです。
結果としてBWはオリジナルより若干増えますが
FWがシーリング値以下となり
Fを下げることで、今より弾きやすくなると思います。
この時点で C4(40Key)はDW57g , UW23gとなっており
伝統的な鍵盤鉛調整の考え方に固執していると
なんだちっとも軽くないじゃないかと思われるかもしれませんが
この時点ではまだDW , UWは気にする必要はありません。
現段階ではBW , FW , HSW , SRに注意しながら試行していけば問題ありません。
最終的にこのC4(40Key)がどういう値になったかは
次回の「作業編」で後述します。

 

FW比較計算表
FW比較計算表と慣性モーメント(鍵盤)計算表での試行。

一番外側の後付けされた板鉛を取外し
メーカーがDW基準で入れた外側の大鉛も抜いて
内側に鉛を追加することで目標FWを達成する
効率的作業を選択します。

 

BWと慣性モーメント値の比較
最終的にBWはオリジナルの38gから40gとなり5パーセント大きくなりました。
その分慣性モーメントは、アクション全体で15.7パーセント小さくなっています。
あとはFの処置を徹底的に行えばDWは小さく、UWは大きくなり
軽快で指に吸い付くようなタッチを得られるようになる筈です。

 

作業編に続きます。

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ヤマハC7のタッチウエイトマネジメント

ヤマハ C7
ヤマハのグランドピアノ C7 のお客様から
鍵盤が重いので軽くして欲しいとのご依頼があり
アクションをお預かりしてきて
タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
を実施しました。

 

製番3670XXX、昭和58年納品で年数なりに
そこそこの頻度で弾いていた様子が
弦溝やローラー、ブッシングの状態から見受けられます。
弾き過ぎてもいないし、弾かなすぎてもいない、そんな状態です。

 

お父様と息子さん(といっても大人)、お二人とも弾くピアノで
とくに息子さんのほうが、ある程度の時間弾いていると
手が疲れてくるという事です。
私が少し弾かせて頂いた感じでは、丁度良い重さに感じるのですが
長時間弾いた訳ではないのと
タッチの感覚は人それぞれ感じ方が違って当たり前なので
出来るだけ依頼者の希望に沿う形で仕上げたいと思います。

 

オリジナルのサンプル音

オリジナルのサンプルキーでの平衡等式。
2g重りによるSRは6.0。
6mm治具によるARは5.8。
BWは気持ち大きい鍵盤もありますが、ひどく重い訳ではないです。
Fはとくに低音で大きいです。
HSWは指標9から指標11の間でバラツキありで概ね指標10。
C7サイズであれば問題のない範囲。
FWは大きくシーリング値を超えています。
アクションスプレッドは112.5mmで問題なし。
シャンクフレンジ及びウィペンフレンジのトルクは
ともに概ね3g程度で許容範囲です。
気になる点としては、鍵盤調整がされておらず
鍵盤フリクションは中音では3gから5gとまずまずですが
低音と高音は6gから7.5gと大きいので
鍵盤調整はしっかり行う必要があります。
前後キーピンやキャプスタンといった
金属部品は触るとベタつきがあり
過去に磨かれた形跡もありません。
ローラーは特によく弾かれる中音域を中心に
黒鉛がかなり付いています。
これらの状態から、フリクションはそれなりに下げられると予想します。

 

 

3要素関連表で調べてみると
HSWが#10で、SRが6.0の場合
FWがシーリング値マイナス3gを達成するには
BWは48gになるとあります。
しかし実際のBWは36gから42gですので
鍵盤手前側の鉛が多過ぎたり配置の問題が考えられます。
ピアノのサイズからもデータからも
弾き手が重いと感じる要素に
慣性モーメントの影響が大きい感じなので
BWは37g程度にして、慣性モーメントも
出来るだけ下げる方向での調整を考えます。

 

サンプル音での試行
C1(4key)を平衡等式を使って試行。
HSWは最大で0.7g減とし、#10.5から#9.5に。
SRはヒールへのスペーサー挿入と
パンチングの半カットで2段階下げ、
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行い
BWは37g、FWはシーリング値マイナス1gになりそうです。

 

試行結果の最後でC1(4key)のDWが58g、UW16g、BW37g、F21gです。
Fが大きく、これを下げればDWは小さく(軽く)、
UWは大きくなる筈です。
(実際に作業後のC1(4key)実測値は
DW53g、UW21g、BW37g、F16g となり
最低音C1(4key)として問題のない数値を得ました)

 

HSW
HSWを全鍵測定。
黒がオリジナルで赤が調整後です。
基本的に減量して慣性モーメントを小さくする方向で
同時にバラツキがなくなるように揃えました。
最低音部は指標11だったのを指標10から指標9.5と下げ、
中音、高音は指標9で揃えました。

 

鍵盤テンプレート
鍵盤の慣性モーメントを算出するために
サンプルキーの鍵盤テンプレートを作成。

 

FW比較計算表
目標FWを満たす鍵盤鉛の配置と
同時に慣性モーメントの値が小さくなるよう試行します。
鍵盤の最も手前側(外側、弾き手側)の鉛は抜いて
奥側に新たな鉛を配置する効率的作業を選択しました。

 

BWとMoI比較
各アッセンブリー単体では
ウイペン以外は全てオリジナルより慣性モーメントが小さくなり
BWはオリジナルから5パーセント減、
アクション全体での慣性モーメントは
11.1パーセント減となりました。

フリクションを下げるための作業として
前後キーピンとキャプスタンのベタツキを取り除いてから磨き直し。
バランスホールの清掃、前後ブッシングクロスの潤滑。
ローラーの黒鉛を取り除き、少し整形した後テフロンを塗布。
ヒールクロスの汚れ落としと潤滑。
レペティションスプリングのべたつきの除去、
等々を丁寧に行ってあります。

 

アクションを納品後、再度調整を済ませました。
あらかた整調と下整音は済ませてあったので
僅かな修正で済みました。

 

仕上がり確認のため、お客様に弾いて頂いたところ
「おぉー!凄い楽。結構違いますね。」と
とても喜んで頂けました。

 

鍵盤の重さでお困りの方が居られましたら
この手法によるタッチの改良を試してみては如何でしょうか。

 

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グランフィールの取付け(ヤマハUX10Bl)

Granfeel
ヤマハのアップライトピアノ、UX10Blに
「グランフィール」を取付け。

 

小学生のお嬢さんも徐々にピアノが上達してきて
アップライトアクションの性能では
上手く連打やトリルが弾けなくなってきたようで
グランフィールを取付ける事に。

以前よりは世に知られるようになったグランフィールですが
まだご存知ない方の為におさらいを。
「グランフィール」はお手持ちのアップライトピアノで
グランドピアノ同等の連打、トリルの性能を実現し
響きまでグランドピアノに近づく技術です。
細かい事を言うともっと色々あるのですが
ざっくり言えばそんな感じ。
既にアップライトピアノをお使いであれば
グランドピアノに買い換える事なく
アップライトピアノの性能を格段に向上させる事が可能です。

 

グランフィールを取付ける為にアクションをお預かりしてきましたが
若干の問題が...

 

ダンパーストップレール
このUX10Bl、ダンパーストップレールが
次高音の途中(ダンパーの切れ目)までしかありません。
一般的なアップライトピアノの場合は
最低音から最高音までをカバーするような
長いダンパーストップレールが取り付いています。
(要するに両端のブラケット間で取り付いています)
昨今はコストダウンのためかダンパーストップレールが
途中までしか伸びていないピアノも珍しくないですが
この時代(製番4581XXX)のヤマハでも
こういう事があるようで、注意が必要です。

 

グランフィールパーツの一部は
このダンパーストップレールを利用して取付けますので
高音部分まで伸びていないと上手くありません。

 

ダンパーストップレール2
もっともこのピアノの場合は心配ありません。
ヤマハから標準長のダンパーストップレールを取り寄せ。
上(猫側)が一般的な長さのダンパーストップレール。
下がこのピアノに元々付いていた短いダンパーストップレール。
高音ブラケットには、ストップレールをとめる為の穴こそあいていますが
ネジが切ってないので、M5でタップを切り
無事、最高音までカバーするストップレールが取付け出来ました。

 

グランフィールの取付けを希望される方の中で
最近ご要望の多いオプション作業が
「バックストップ方式」を「グランド仕様」にするというもの。

アップライトのバックチェック
上の写真で緑色のクロスが付いた部品が
一般的なアップライトピアノのバックチェック。
ハンマーアッセンブリーのキャッチャーという
スキンの貼ってある部品を
この緑色の部分でキャッチする訳です。
(弦を叩いたあと戻ってきたハンマーアッセンブリーを緑色の部分で受け止める)

 

グランド仕様のバックチェック
グランドピアノ仕様のバックチェックに交換していきます。
グランドピアノでは緑色のクロスではなく
上のようにバックチェックはスキンとなっています。

 

アップライトのバックチェック
そしてこちらはアップライトのキャッチャー。
この鹿革の貼られた部分を、先ほどの緑色のバックチェックが受け止めるのが
一般的なアップライトのバックストップ。

 

それを

 

キャッチャーへのスカッチ入れ
鹿革を剥がし、ベルトサンダーでキャッチャーを
GPハンマーテールのアールに成形し
横溝(スカッチ)を入れます。
グランドピアノのバックチェックが咥えるのは
スカッチの入ったハンマーテール部分です。
アップライトでは、キャッチャーがGPハンマーテールに相当しますので
このようにキャッチャーをGPハンマーテールと同じ様に加工し
バックチェックもグランド仕様に交換する事で
グランドピアノと同じバックストップ方式を実現します。
実際の効果ですが、アップライトのもっさりしたタッチ感が減り
スッキリしたタッチ感を得られます。

 

その他、ダンパーレバーとスプリングの接点での雑音対策や
下針を入れてハンマーファイリング、
金属パーツの磨き直しや各部潤滑、清掃をしています。
もちろんハンマーバット加工も行っています。
(グランドピアノのタッチを実現するのにとても重要な加工です)

 

アクションを納品して、調整を済ませたら
見た目はアップライトなのに
タッチと響きはグランドピアノという
グランフィールピアノの完成です。

 

お客様に試弾して頂いたり、音を聴いてもらい
響きとタッチがグランドピアノになっている事を
確認してもらって作業完了です。
とても満足頂けたようでした。
「低音セクションの響きが良くなった」と仰ってて
確か以前もそんな感想を、
別のピアノにグランフィールを取付けた時にももらったような。
これはグランフィールのパーツの働きにより
(ショット&ドロップスプリングといいます)
普通のアップライトピアノでは出す事の出来ない高次倍音が
豊富に出るようになった事によるもので
グランドピアノの音を聴いたときに
アップライトピアノにはない華やかさを感じる理由の一つはここにあります。

 

アップライトピアノの性能に限界を感じてきた方々、
グランフィールの取付けを検討してみては如何でしょうか。

 

「グランフィール」については
以下のページに詳細を掲載しております↓
http://www.piano-tokyo.jp/granfeel.html

 

 

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消音ユニットの取外し(ザウター114)

sauter 114 premiere
SAUTER(ザウター) UP114 Premiere の調律と消音ユニットの取外し。

暖かい木の音色と欧州ピアノならではの「鳴り」が魅力のザウターピアノですが
このザウターは腰の抜けたような響きとタッチでイマイチな状態です。

 

コルグ消音ユニット(ハイブリッドピアノ)
変なタッチと響きの原因は、後付けで取付けてある消音ユニット。
このメーカーの消音バー(ストッパー)は
ポン付けした場合、まず直線性は確保出来ません。
多くが低音と高音の消音バーは手前側に寄ってしまうので
やむを得ず低音と高音のレットオフを
異常に広くとって対処してるのをよく見かけます。
このユニットで消音バーの直線を確保するためには
ブラケットを削る等の加工が必要になりますが
ほとんどの場合、必要な加工をせずに
そのまま取付けてしまっているケースが多いです。
このザウターも同様な後付けがされていて
中音のレットオフは概ね8mmから10mm前後、
高音・低音セクションのレットオフは12mmほどと
ピアノの一般的なレットオフ寸法とは
大きくかけ離れてしまっていました。

 

このピアノは前オーナーから
現在のオーナーのもとに来たのですが
今のオーナーさんには消音ユニットは必要ないのに
消音ユニットが付いた状態で納入され
そのまま弾いていたとの事。
まったく消音ユニットは使わないそうなので
今回取り外し、調整を元に戻す事に。

 

取り外した消音ユニット
消音ユニットを取外しました。
取付けにはそこそこの時間が掛かりますが
取り外すのはあっという間です。
アコースティックピアノにはまったく必要の無い部品達が取り外され
ピアノ内はスッキリし、調整作業も効率良く出来るようになり
音とタッチは本来の性能を取り戻します。

 

ダンパーストップレール
消音ユニットは、ただ取り外せばOKという訳ではありません。
ユニットを取付ける時に、外した部品達があります。
「ダンパーストップレール」という長い棒状の部品と
それをアクションに取付けるネジ類達。
今回のお客様の場合は、ストップレールアッセンブリーを
全て保管していてくれましたので
アクションは元の状態に戻せます。

私がこれまで消音ユニットを付けた全てのピアノは
外した「ダンパーストップレール」をお客様にお渡しするか
失くしてしまいそうなお客様の場合には
底板の影響の無さそうなところに
取り外したストップレールを忍ばせてありますので
いつでも元のアコースティックピアノに戻せます。

消音ユニットを取付ける方(もしくはショップ)によっては
ダンパーストップレールを処分してしまうケースが少なくないようですが
ストップレールとネジ類は必ずお客様に渡して頂きたいものです。

 

ザウターピアノ
アクションを元の状態に戻し整調作業を。
鍵盤周りの調整からはじめてアクション側もじっくりと。
問題の広過ぎるレットオフを
高音2mm、中音2.5mm、低音3mmに。

無事にザウターらしく繊細な音から
迫力のフォルテまで出せるようになりました。
お客様の懸念事項だった鍵盤の戻りの悪さも
ご確認頂き問題なしとのことで作業完了。

アクションに一部修理が必要なところが見つかり
この部分は後日アクションをお預かりして修理する事になりそうです。

切りのいいところまでやって6時間ほどの作業でした。
今回手を入れられなかったところは
また次回以降の定期調律で調整していきます。
ピアノは定期的なメンテナンスを継続する事で状態を維持出来ます。

 

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