ヤマハA1AEの鍵盤を軽くする

yamaha A1AE-SN

 

小型のグランドピアノの重たい鍵盤キータッチを
軽くして欲しいというご依頼が
またまたありましたので作業しました。

 

A1

100周年モデル

ピアノはヤマハのA1AE-SN(サイレント付)
100周年記念モデルです。

お客様「10年くらい前に買って
毎年調律に来てもらってるんですが
良くならないんです...」

私「毎回の作業時間はどのくらいですか?」

お客様「1時間くらいです」
なるほど...
それではピアノはちっとも調子良くならない訳です。
1時間だと飛ばして「調律(チューニング))だけして
あとはいっさい手付かずなんだろうな...

現状の鍵盤ウェイトを計ってみると
60g から 65g といったところで
全体的に重ためのようです。
実はこちらのお宅にはもう1台
ご主人専用のC1があって
ご依頼主である奥様の体感では
ご主人のC1のほうが
「若干鍵盤が軽く感じる」との事。
そちら(C1)の鍵盤ウェイトを確認してみると
さほど今回のA1と重さは変わりませんでした。
鍵盤の物理的な重さは変わらないのに
C1は軽く感じ、A1は重く感じる。
実はこれ、音色のマジックで
C1のほうは比較的元気で明るい音色に調整されていて
A1はかなり落ち着いた音色に調整されているのです。
人間の感覚によるところですが
明るめの音色にすると反応が良く感じるので
鍵盤も軽く感じる、
逆に落ち着いた音色だと鍵盤は重たく感じるということなんです。
その事をご説明差しあげたうえで
鍵盤の物理的な重量を標準的な重さにしたうえで
且つ音色も少し明るめに変更することにしました。

整調関係は未調整と判断して
丸二日かけて作業する事にします。
1日目に手付かずだった調整を
出来る限り見直し再調整して
2日目は鍵盤に鉛を追加して重さのバランスをとります。
サイレント

サイレントを外す

 

アコースティックの状態

サイレントの部材が作業の邪魔になるので
いったん取外します。
キーピンの清掃

約10年分のキーピンの汚れを
薬品を使ってクリーニングし
余計な摩擦抵抗を減らします。
筬、棚板も10年分のゴミが溜まっていたので
掃除も済ませます。
キーピンの汚れ

汚れているもんですね。
キーピンの潤滑

キーピンの潤滑2

 

クリーニングしたあとのキーピンには
最適な潤滑剤を施工しておき
鍵盤の不要な抵抗を少なくしておきます。
このトルク感は絶妙で、少なすぎてもいけません。
鍵盤調整1

鍵盤調整2

 

鍵盤調整を見直します。
これまで調整されていないようで
かなりトルク過多になっていました。
鍵盤のささくれ

鍵盤のささくれ除去

 

量産品のピアノでは加工が大雑把で
ささくれがある事が多いので
同時に綺麗に処理しておきます。
その他、稼動部の潤滑を見直し
整調の見直しをして1日目は終了。
この時点で鍵盤ウェイトは
全体に 5g から 7g ほど軽くなりました。
作業前が 60g から 65g でしたので
現時点で 53g から 58g になってます。
このくらいが調整済の
ヤマハのウェイトと言えますが
もう少し軽くしたいのと
鍵盤ごとに重さのバラツキがあるので
鉛を追加してきっちり揃えます。
鉛の位置決め

鍵盤に鉛を配置

 

2日目は鍵盤に鉛を追加していく作業です。
1鍵ずつ分銅を使って鉛を追加する位置を決めていきます。
今回使用した鉛は
12ファイ、10ファイ、8ファイの3種類です。
鍵盤サイドにマーク

あらかじめ鉛を追加する位置にマークしておきます。
チョークでマークしてあるので
この印は消えます。
鍵盤に穴開け

穴開け

 

穴開け2

 

 

綺麗に穴が開きました。
柔らかい鍵盤を痛めないよう
慎重にあけていきます。
鉛をセット

ポンチ

 

鉛をセット完了

 

鉛をセットして専用のポンチで
かしめて完了です。
必要な残りの鍵盤も同様にして追加していきます。
低音

中音

 

高音

 

全ての鍵盤に鉛を追加し終えたら
全てをチェックしておきましょう。
最終的に
最低音部 52g からスタートして
中音を経過し、最高音部で 47g
となるようにしました。
隣同士の鍵盤での重さの誤差は 1g 以内です。
リフト値は25g以上は確保しておきました。

作業完了

お客様の試弾

さっそくお客様に試弾してもらいました。
「軽くなりました!」とまずは喜んで頂いたのと
「今まで鍵盤を押し込むように弾いていたので
まだ少し慣れないです」とも。
これは数日弾いていればすぐに慣れてくるかと思います。

ただ私個人の感想は
たしかに鍵盤の重さが標準的な重さになり
調整前より格段に弾きやすくなったのですが
まだ鍵盤タッチに微妙な違和感を感じます。
これはヤマハの平たいキャプスタンを
丸みを帯びたスタインウェイのキャプスタンに交換するか
アールビットを施工することで解決しそうな感じです。
極端に小さいグランドピアノの鍵盤は
絶妙なアールを帯びたキャプスタンに変えることで
テコの原理的にもコントロール性の向上が期待出来ます。
その事をお客様にお伝えして
ひとまず作業は完了です。

 

渡辺ピアノ調律事務所 渡辺雅美
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