カワイUS-5Xの修理・調整
カワイのアップライトピアノ、US-5Xの修理と調整をしました。
カワイのいわゆるプラスチックアクションで
遠目で見ると木のように見えますが
ベージュのプラスチック(ABS樹脂)がアクションパーツに使われてます。
長年の湿気を吸わせたことにより酷いスティックをおこして
ハンマーは写真のようにハンマーレールまで戻ってきません。
ハンマーウッドにはカビもみられます。
当然、鍵盤はずっしりと重く
思う様にコントロール出来ない状態です。
カワイのプラスチック製のフレンジのスティックは
ブッシングクロスに湿気を溜め込んでしまうのが
主な原因と言われていますが
リーマーを通した時の感触では
ブッシングクロスそのものの質もどうもイマイチに感じます。
また、カワイのセンターピンが真鍮そのままで
表面処理されていないピンであることも
センターピンの劣化を早めていると思います。
肌色のようなベージュのような
プラスチックアクションが採用されたカワイでは
バットスキンとキャッチャースキンに
品質の悪い合皮が使われていて(本来は鹿革バックスキン)
合皮のスキンがボロボロに削れ
写真のようにキャッチャー周りや
バックチェッククロスにゴミのように堆積します。
当然バットスキンとキャッチャースキンの表面は
滑らかでは無い状態となってしまいます。
バットスキンもキャッチャースキンもボロボロに...
肌色プラスチックアクション時代のカワイのアップライトでは
写真の丸で囲ったところ
バットまわりに問題が多いと思います。
カワイのタッチがどうもスッキリしない事の原因の一端は
この部分にありそうです。(ここだけではありませんが)
- バットスキンの品質の悪さ
- バット形状の悪さ
- ジャック奥側角の面取り不足
まずは前述の合皮スキンの品質の悪さ。
バットスキンはその下にあるジャックの頭で
鍵盤を下ろしていくとともに突き上げられ
鍵盤を戻していく際は、ジャックの頭のが
バットスキンと常に接しながら元の位置へと戻ります。
バットスキンはジャックの通り道で
脱進時以外はジャックの頭とバットスキンは常に触れています。
一定以上の品質の本革のスキンが使われているバットでは
ジャックは滑らかにバットスキン上を移動出来ます。
このタイプのカワイのバットスキンの場合
例えるならば、ゴルフ場で草ボーボーのラフで
ゴルフボールを転がすような状態で
転がり抵抗が大きく効率が悪いです。
ゴルフボールをスムーズに転がすには
グリーン上のように綺麗に整えられた芝でなければなりません。
今回は合皮のスキンから本革のスキンに交換します。
バットスキンの品質の悪さとともに好ましくないのが
バットの形状です。
写真のようにバットの形が悪く
ジャックの動作に影響が出てしまいます。
今回はバットスキン交換と同時に
グランフィールの「ハンマーバット加工」を応用して
バットの形(アール)を変更します。
これによりジャックの抜けと戻りがよくなる筈。
一つ前の写真の丸で囲んだところで
もう一つ問題があります。
ジャック先端の奥側に面取りが足りません。
ほんの少し面取りしてやると
ジャックの戻りは良くなり
バットスキンの寿命も伸びるようになるかと。
この部分はジャックのセンターピン交換と同時に
面取り加工する事にします。
新しいバットスキンとキャッチャースキンを用意します。
バットにはレンナーのスキンを使い
キャッチャーにはシャフのスキンを使います。
スティック修理という事で
全てのセンターピンを交換しますが
ウィペンフレンジはこの機会に
木製のフレンジに交換します。
これでプラスチックフレンジの時よりは
スティックを起こし難くなると思います。
バットフレンジも木製フレンジに交換します。
バットフレンジは他のフレンジと比べ
特にタッチ感に影響してくるので
木製フレンジに交換し、トルクゲージで
適正トルクに調整してやると
プラスチックフレンジの時よりタッチは良くなるのと
スティック防止にもなります。
このアクションの場合の作業内容は
- バットスキン交換(合皮から本革に)
- キャッチャースキン交換(合皮から本革に)
- バット形状の加工
- ジャック先端奥側の面取り
- バットフレンジ交換(プラスチックから木製に)
- ウィペンフレンジ交換(プラスチックから木製に)
- バットセンターピン全交換(トルクゲージでトルク調整、潤滑)
- ジャックセンターピン全交換(トルクゲージでトルク調整、潤滑)
- ウィペンセンターピン全交換(トルクゲージでトルク調整、潤滑)
- ダンパーセンターピン全交換(トルクゲージでトルク調整、潤滑)
- バットスプリング圧、再調整
- ダンパーレバースプリング圧、再調整と潤滑
- ダンパースプーン磨き直しと潤滑
- ダンパーロッドの磨き直し
- ハンマーへの針の下入れ(主に中音セクション)とファイリング
- 84key(G#)から88key(C)までのハンマーにクリアトーン施工
- 全体クリーニング
のような内容になりました。
ダンパーレバースプリングの圧は少し弱めてあります。
カワイのアップライトではよくみられますが
スプリング圧が強く、ダンパーペダルを踏まずに弾いている時と
ペダルを踏んで弾いた時とで、鍵盤の重さの差が大きい事があり
それを解消する目的です。
仕上がったアクションは納品して調整します。
バットスキンの交換とバットの加工をしている場合、
整調が大分変化するので、もう一度全体整調を行います。
スティック対策でダンプチェイサーも取付けました。
梅雨の走りの時期ですので、今すぐ運用したいところですが
今回は取付けのみで、導入は冬にします。
理由はリンク先の通りです↓
ダンプチェイサーを初めて導入する際の注意点
調整作業を終えたピアノを弾いてみたところ
概ね想像通りのスムーズなタッチのピアノになりました。
具体的には、アップライトでありながら
段階的に音量の変化が付けやすくなっています。
状態の良いスキンになった事やバットの加工等
じわじわと効いているようです。
お客様の反応は、
「音がハッキリしました。嬉しいです!」との事。
弾き手の立場では、耳に届く音とタッチは独立したものでなく
双方トータルの感触がタッチ感や響きとして捉えられる事も多いので
スッキリしたタッチは、音の良さと捉える事も納得です。
実際には音色も確かに変化していますが。
あと、これは顧客から特に不満も要望も出ていないので
今のところはそのままですが
私がこのカワイを弾いた感覚では
バランスウェイト40gで確かに弾きやすいのですが
もう少し手応えが欲しい欲求にかられます。
お客様にもう少し弾きこんで頂いて
もし、そのような要望が出て来たら
鍵盤のバランスピンから等間隔に
前後に鍵盤鉛を追加してやり、慣性モーメントを増やしてやると
もう少し高級感のあるタッチになりそうです。
今回の作業で感じたのは
フリクションって重要だなぁ...です。
カワイUS-5Xの修理・調整@東京都西多摩郡
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