ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメント(作業編)
ディアパソン183-Gのタッチウエイトマネジメントの続きです。
前回、データの採集、分析、試行をした結果をもとに
実際の作業に取り掛かります。
HSWを全鍵測定します。
その他にWWやFW , KRも測定しておきます。
念のためアクションスプレッドと
二つのマジックラインも確認しておきました。
重過ぎるハンマーはテーパーをもう少し削るか
テールもしくはアーク部を削り0.1g単位で減量します。
軽過ぎるハンマーは
専用の鉛を入れて増量します。
こちらも0.1g単位で調整します。
黒がオリジナル、赤が調整後です。
全体を見ると、低音が極端に軽く、
中音と高音はそこそこ重いという状態です。
低音は平均指標7といったところですが
最も軽いところで指標5ですので
どう頑張っても理想的な並びにはなりませんので
隣合うハンマーでのバラツキを揃える方向で調整しました。
中音と高音は指標9から10で出来る限り揃うように調整しました。
ハンマーは針の下入れとファイリングをしておきます。
(中央から左がファイリング後、右がファイリング前)
今回は攻めのファイリングではなく
ピアノに優しいファイリングを行っています。
一般家庭のピアノが長くお使い頂けるよう配慮してあります。
ハンマー周りでは
71Gと77C#で膠切れの雑音が出ていたので直してあります。
ほとんどのシャンクフレンジがスティック直前の状態でしたが
61Keyだけガタが出ていたので修正してあります。
その他のシャンクフレンジはトルクが大きいので
標準値にトルク調整しておきました。
ヒールにスペーサーを入れSRを下げます。
同時にARとギアレシオも変わるので
確認しながら進めていきます。
この作業は本来ウィペンを外さずに出来るのですが
今回はフレンジのトルクが大きく
トルク調整も同時に行う必要があり、一つずつ外して作業を行いました。
平行してヒールクロスの汚れべたつきをベンジンで拭き取り
クロスのへこみをフェルトトリートメントで修復しています。
ヒールクロスは仕上げにPTFEを刷り込みなめしてあります。
サポートの上面と裏のスプリングの接点(黒鉛の塗ってある部分)と
ジャックの頭はスムーズな動作をするようなめしておきます。
新たな黒鉛は追加していません。
バランスパンチンングの半カットを以前行っていますので
SRはオリジナルより2段階下がることになります。
鍵盤には後付けの板鉛が全鍵に追加されています。
この鍵盤(中音)では、元々メーカーが
DW基準で入れた鍵盤鉛が4つも入っているところに
さらに板鉛が外側に追加されている為
FWは大きく、慣性モーメントも大きくなってしまっています。
せっかく綺麗に貼ってくれた後付けの板鉛ですが
不要と判断されますので、全て取り外します。
新たな鍵盤鉛を追加していきます。
専用のポンチでかしめて固定します。
外側の大鉛を抜き、内側に新たに鉛を追加しました。
目標FWを満たしつつ、慣性モーメントが小さくなります。
ローラーナックルには黒鉛がべっとりと付いていました。
この黒鉛はFを大きくしますので出来る限り落とします。
中央から右が黒鉛を除去しローラーを整形した状態、
左は元の状態です。
黒鉛を落としたあと、ローラースキンを軽くシェービングし
仕上げにPTFEを塗布してあります。
サポートとジャックの黒鉛の塗られた部分、
そして下側のレペティションスプリングの当たる部分を
よくなめしておきます。
前後キーピンもFに影響しますので綺麗に磨きます。
今回のピアノは手磨きではイマイチな仕上がりだったので
バフ掛けしてあります。
結果濡れたような艶が出て、ツルツルに仕上りました。
仕上げにPTFEをモールクリーナーで刷り込んで
キッチンペーパーでProLubeを刷り込んであります。
このピンの相手となる前後ブッシングクロスは
フェルトトリートメントでガタを修復した後
PTFEを刷り込んでからなめしておきました。
キャプスタンもFに影響してきますので
バフ掛けしツルツルに仕上げます。
こちらもPTFEとProLubeを施工してあります。
ピアノのオーナーさんがたくさん弾いている事を証明するかのように
黒鍵のサイドの塗装剥がれが目立ちます。
黒鍵脇の塗装の剥がれを
黒鍵専用塗料で塗っておきました。
また抜いた外側の大鉛の穴も塗装しておきました。
鍵盤鉛を抜いたあとの穴は
これまで埋め木をするのが一般的でしたが
せっかく外側の鉛を抜いて、慣性モーメントを小さくしたのに
また埋め木をして慣性モーメントが大きくなる事はしたくないので
そのままにしてあるのです。
Nさんによると強度は問題ないそうです。
白鍵はそのままでいいですが
黒鍵は木肌がちらっと見えてしまうと演奏中に気が散る可能性があるので
黒鍵にあいた穴は黒鍵塗料で塗装し目立たなくしてあります。
今一度、オリジナルの測定値がどうだったか確認しましょう。
C1 : DW62g , UW14g , BW38g , F24g
C#1 : DW61g , UW21g , BW41g , F20g
C2 : DW61g , UW17g , BW39g , F22g
C#2 : DW63g , UW16g , BW39.5g , F23.5g
C4 : DW55g , UW21g , BW38g , F17g
C#4 : DW57g , UW22g , BW39.5g , F17.5g
C6 : DW52g , UW21g , BW36.5g , F15.5g
C#6 : DW50g , UW21g , BW35.5g , F14.5g
A7 : DW45g , UW17g , BW31g , F14g
という数値でした。
そして以下がタッチウエイトマネジメント作業後の実測値です。
C1 : DW53g , UW29g , BW41g , F12g
C#1 : DW52g , UW30g , BW41g , F11g
C2 : DW50g , UW30g , BW40g , F10g
C#2 : DW51g , UW27g , BW39g , F12g
C4 : DW48g , UW32g , BW40g , F8g
C#4 : DW49g , UW32g , BW40.5g , F8.5g
C6 : DW48g , UW32g , BW40g , F8g
C#6 : DW47g , UW32g , BW39.5g , F7.5g
A7 : DW48g , UW31g , BW39.5g , F8.5g
SR = 6
このような結果に仕上がりました。
作業はBW基準で進めてあるのですが
Fをコントロール出来れば
自然とDW , UWは理想的な数値になる事が分かります。
これにくわえ、慣性モーメントも
アクション全体で15.7パーセント小さくなっていますので
かなり軽快なタッチに感じられる筈です。
DWは小さくなり、UWが増してますので
指に吸い付くようなタッチ感が期待できます。
あとは納品して微調整を済ませたら完了です。
【追記】
本日お客様のもとへアクションを納品、調整してきました。
さっそく仕上がりを確認頂いたところ
「凄い!全然違いますね。変わるものなんですね」
「たくさん弾きます!」と
大変喜んで頂けました。
今回のピアノと同じようなケースが該当する方も居られると思います。
後付けの鉛を追加してもらって
計ると確かにDWは小さくなっているが、弾いた感じはあまり軽くない。
その場合、調整しなければならないのは
慣性モーメントであったり、ギアレシオ
あるいはFである可能性があります。
ピアノの鍵盤が重い、あるいは軽過ぎてお困りであれば
タッチウエイトマネジメントで解決出来るかもしれません。
まずはメールでご相談くださいませ。
タッチウエイトマネジメント(Nakamura Touchweight Management)
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