ディアパソンDR-300のタッチウエイトマネジメント
DIAPASON DR-300の
『タッチウエイトマネジメント』作業を行いました。
Eメールでお問い合わせ頂きました。
6年ほど前に新品でお求めになったピアノの
タッチが重い(鍵盤が重い)ので
タッチウエイトを軽くして欲しいとのご依頼です。
これまで年配の調律師さんが来てくれていて
タッチが重い旨を伝え、調整してもらっていたそうですが
対処療法といった処置はしてもらえるのですが
物理的に軽くはしてもらえないので
タッチウエイトマネジメントを施工して欲しいとのことです。
アクションを引取にお伺いした際に
ざっと弾いた感じでは
カワイ系特有の重さを感じるのと
フリクションが大きい時に感じる重さと
弾き難さを指先に感じます。
しばらくの間アクションをお預かりして
中村式タッチウエイトマネジメントで
標準的なタッチウエイトに調整します。
アクションを外し、鍵盤を外すと
筬には6年分の埃が溜まっていました。
多くの場合こういった状態のピアノは
アクションを外した事が無い場合が多く
このピアノも鍵盤調整がされておらず
鍵盤のバランスホールはかなりキツイ状態となっていて
キャプスタンも磨かれていません。
整調は、ジャックが手前に寄せてあり
ジャック高さは低くしてあります。
レットオフはo.5mmから1.5mmとかなり狭くしてあって
ドロップはゼロになっています。
レペティションスプリングは
まったく効いてないところもあってバラバラ。
どうにか軽く感じるようにしようと
頑張った跡が見受けられます...
オリジナル状態の平衡等式を作成します。
BWは40gから最大48gと重め。
FWは全鍵でシーリング値を超えています。
HSWは低音は指標8から指標9でまずまずですが
中音と高音は指標9.5から指標10.5と重め。
SRは6.1から最大6.8で高めです。
オリジナルのHSWを作成します。
低音はそこそこですが
中音から高音では指標10、指標11と重めの傾向です。
全体を指標9に寄せていき、なめらかに揃える方向性で検討します。
c4(40key)での平衡等式を利用したシミュレーションです。
事前に調べたHSWスマートチャートから
HSWは指標9で揃えることを検討していますので
HSWを11.1gから10.5gに減量したとして、
BWは43.5gから39.5gになります。
バランスパンチングクロスの半カットで
SRが0.4下がると仮定し、
BWは39.5gから35.5gに下がります。
さらにもう一段階SRを下げる為に
ウイペンヒールにシムを挿入して
BWは35.5gから31.5まで下がりました。
最後にBW基準の鍵盤鉛調整を行いBWは38gに、
FWはシーリング値0.5gとなって
なんとか弾きやすいタッチのピアノに出来そうです。
平衡等式に慣性モーメントを連動させてシミュレーションするために
『鍵盤テンプレート』を作成します。
『鍵盤テンプレート』の数値を表計算ファイルに落とし込んで
FWが目標FWとなり、慣性モーメントが小さくなる
鍵盤鉛の配置をシミュレーションします。
メーカーが事務的に外側に入れた大鉛を抜いて
新たにバランスから96mmの位置に14mmの鉛を入れると
慣性モーメントをかなり下げる事が出来そうです。
CoGは0.452になりました。
ギアレシオの項目を入力して
最終的にBWが13パーセント減、
慣性モーメントは10.7パーセント下げることが出来ました。
HSW調整後のスマートチャートです。
黒がオリジナルで赤が調整後になります。
概ね指標9でなめらかに揃える事が出来ました。
中音から高音にかけては、0,5gから0.7gくらい
減量していますので、慣性モーメントが
小さくなることが出来ます。
同時にタッチが揃って感じるようになります。
ウイペンヒールにシムを挿入しSRを下げます。
最近のトレンドはロックタイのようで、
私も今回は2.5mm幅のロックタイを使いました。
カワイ系のウイペンフレンジはプラ製なので
この部分のスティックを必ずチェックして
トルクが大きいフレンジはセンターピン交換をしておきます。
今回はいくつかのレバーフレンジもスティックを起こしていたので
こちらもセンターピン交換をしておきます。
サポートのトップは良く磨き
スプリングとの接点は黒鉛が多すぎて
ドロドロになっていたので拭き取り
スプリングの頭を軽く磨いておきました。
ヒールクロスには汚れが付着していたので
ベンジンで清掃しておきます。
ローラーのスキンには黒鉛がたっぷり付いています。
スキンに付いた黒鉛はフリクションを大きくしてしまい
この黒鉛を落とすだけでフリクションが小さくなり
数グラムBWが軽くなる場合があるので
しっかり黒鉛を落としておきたい部分です。
ローラースキンの黒鉛を落としました。
この後PTFEパウダーをフデを使って塗布します。
納品から6年ほどのピアノなので
ローラーの変形はさほどありませんでした。
鍵盤周りにもタッチに影響する部分がたくさんあります。
バランスホールをブラシで掃除したあと
ベンジンを付けた細綿棒で清掃すると
黒い汚れが取れホール内が綺麗になり
バランスホールの動きがかなり良くなります。
前後キーピンも同様にベンジンで清掃すると
ウエスが真っ黒になるくらい汚れていました。
鍵盤の前後ブッシングクロスも汚れていますから同様に清掃し
私の場合はPTFEパウダーをクロスに擦り込んでいます。
清掃や潤滑は各人の考えや、やり方があると思いますので
各々が良いと思う方法でフリクション処理をすると宜しいかと思います。
特にこちらからお客様にご案内はしておりませんでしたが
勉強熱心なお客様で、フロントパンチングクロスを
ホワイトパンチングフェルトに交換して欲しいとの要望がありましたので
フロントパンチングクロスを
Wurzen ホワイトパンチングフェルト・コニカルに交換しました。
これに交換すると音の立ち上がりが早くなるようで
隠れた人気パーツです。
BW基準の鍵盤鉛調整の前に
事前にメーカーが一律に外側に入れた
鍵盤鉛を抜いておきます。
中音44keyのBW基準の鍵盤鉛調整後の配置です。
支点から遠くに配置されていた鍵盤鉛が無くなる事で
慣性モーメントが小さくなり、鍵盤が動きやすい状態となり
タッチは軽快に感じられるようになります。
新たに支点側に14mmと12mmの鉛を入れました。
総1本張りで澄んだ音色を奏でるピアノです。
タッチウエイトも標準的な重さになって
とても弾きやすいピアノになりました。
鍵盤の重たいグランドピアノ、標準的なタッチに調整します。
作業のご依頼、お問い合わせは
Eメール info@piano-tokyo.jp までお気軽にどうぞ。
渡辺ピアノ調律事務所
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