ピアノの寿命を伸ばす為に抑えておきたいポイントは?
- 49A=442Hzで調律しない
- 相対湿度を50パーセントに保つ
- ピアノにカバーをかけない
- 床暖房からピアノを守る
- アルコールはピアノのどこにも使用しない
49A=442Hzで調律しない
ピッチをA=442Hzで調律し続けていると、A=440Hzで調律しているピアノの3倍ほど弦の寿命が短くなります!
「今時は442Hzで調律するらしいので442Hzで調律してください!」「コンサートホールのピアノは442Hzで調律しているみたいだから442Hzで調律お願いします」等々、なんとなく49A=442Hzで調律してもらっているピアノが少なくありません。
必要があっての442Hzでの調律は否定しませんが、意味のない442Hzでの調律は全くオススメしません。
あるいは調律の時に、とくにピッチの指定をしていない場合、調律師さんの意向で49A=442Hzで調律されてしまっているケースもあります。
ピアノを置いているお部屋の環境(主に湿度)が概ね良好で、納品された時からずっとA=440Hzで調律され続けているピアノは60年、中には70年くらい弦が生きているピアノに出会うことがあります。
一方で納品時からA=442Hzで調律され続けているピアノは25年、30年ほどで弦が寿命を迎えているピアノが少なくないです。
具体的な弊害としてはある時期から断線が頻発するケース。
次高音から高音にかけて弦が次々と切れるピアノがあります。
これらのピアノの調律カードを見ると、その多くが長期に渡ってA=442Hz、A=443Hzで調律されてるんですね...
ある時期から高音の弦が切れやすくなるピアノがあります。その多くに共通しているのは、A=440Hzよりも高いピッチで調律され続けてるということ(例えばA=442Hzとか)。弦を長持ちさせたいならA=440Hzで調律することをオススメします。 pic.twitter.com/uNHnbT4sYa
— 渡辺ピアノ調律事務所 (@pianotokyo1) May 5, 2023
「弦が寿命を迎える」というのがどういう状態なのかと言うと、弦に求められる条件の中の「柔軟性を持ち、弾力性がある(応力、ねばりがある)」という特性を失ってしまった状態を言います。
A=441Hz、A=442Hz、A=443Hz、もしくはそれ以上高いピッチで調律され続けたピアノの弦は、高いテンションで張り続けたことで早い段階で柔軟性を失ってしまいます。
最期は茹でる前のパスタのようにポキポキと折れるほど柔軟性がなくなります...
柔軟性の無い弦からは膨らみのないペシャンコの音が出るようになります。
ピアノの弦(ミュージックワイヤー)ではなく、ホームセンターで売ってる針金がピアノに張ってあるようなイメージです。
ピッチを高くする(張力を高くする)という事は、弦だけではなくフレーム(鉄骨)への負担も相当かかってしまうであろう事は想像に難くないです。
「弦に寿命が来たら張り替えるから良いわ」という人は一度「全弦張り替え」の費用を調べてみるといいです。
多くの一般家庭のピアノは、可能ならば消耗品の交換頻度を長くしてコストを抑えたいと考える筈です。
バットフレンジコードの交換などの小修理ならば費用もさほど掛かりませんが、全弦張り替えやハンマー交換といった消耗品の交換費用は決して安いものではありません。
あなたがもし「弦に寿命が来たらピアノごと買い替えるからいいわ」というセレブなら高いピッチで調律することを否定しません。
しかしそうでなければ、弦やフレームへの負担を少なくするために、ピアノに長く良い音色を奏でてもらうために標準ピッチ49A=440Hzでの調律をオススメします。
高いピッチで調律されたピアノと標準音高で調律されたピアノを聴き比べた時、個人的な印象ですが、A=442Hzはテンションの高い緊張感のある音がする一方で、パンパンに弦を張っているので音に膨らみが無いように聴こえます。
A=440Hzで調律されたピアノは音に膨よかさを感じます。
相対湿度を50パーセントに保つ
梅雨入り前くらいから夏の終わりまでは除湿機の24時間運転をするのが一般的です。
ピアノに使われている木材は身の回りにある家具などとは違って、とくにスプルースが使われる響板などは含水率10パーセント以下という乾いた木が使用されています。
言ってみればピアノに使われている木材自体が「湿気取り」とも言えます。
湿度が高ければピアノは水分を吸い込み、乾いた季節になるとピアノは吸い込んでいた水分を吐き出します。
これが良くない。
実に良くないんです。
春夏は湿気を吸って秋冬には溜め込んだ水分を吐き出す。
これによりピアノ使用者さんが被る日常的な不便としては「調律が大きく狂う」という症状です。
響板や駒の膨張収縮による中音の割り振りの下あたりを中心として、季節ごとにピッチが大きく上下してしまいます。
中音のオクターブを弾いたときにオクターブがピッタリではなくビロビロビロ、ンワンワンワと波をうつように聴こえる狂い方は大抵湿度変化が大きすぎる環境での狂いかたです。
これは日々影響を受ける不便ですが、長期的な視点でみると「木の割れ、反り、接着の剥がれ」など大きなダメージとなることに。
じゃぁどうしたらいいの?というと、春・梅雨・夏の湿気をコンプレッサー式の除湿機で相対湿度50パーセント程度になるよう除湿して、秋冬の過乾燥は気化式の加湿器で加湿してやって、ピアノのある部屋を1年を通して相対湿度50パーセント程度に保つようににします。
そうするとピアノの木材は「湿気を吸い込むことも吐き出すこともない」という状態になりますので、いつも同じ体型・同じ姿勢で居られるのでピッチが季節ごとに極端に変化することがなくなると同時に、木材への負担が大幅に減りピアノの寿命を伸ばすことにもつながります。
ピアノにカバーをかけない
とくにピアノ全体を覆い隠すオールカバーはピアノへの影響が大きいです。
「エーッ!じゃぁなんで売ってるの?」と思う人がいるかもしれません。
なんで売ってるんでしょうね、買う人がいるからじゃないでしょうか。
いえ、ピアノが超貴重品だった昔の名残で今も売られていると考えるのが現実的ですね。
オールカバーの中でも、音楽室のピアノにかけてあるような表地が黒で裏が赤いタイプは特に最悪です。
意味が分からない人はあのオールカバーを梅雨時に頭からかぶって一日過ごしてみてください。
無理なんですよね、カバーの内側はムレムレです。
それと同じことをピアノにするのがオールカバーをかけるという行為です。
実は調律師さん達が受ける国家検定試験の学科問題にも毎年のようにサービス問題としてカバーの扱いに関する問題が出題されるくらいです。
どうしてもカバーをかけないと気が済まない人は、オールカバーよりはハーフカバー。
ハーフカバーよりはトップカバー。
トップカバーよりはハイトップカバーの方がマシです。
可能ならば何もかけないのが理想的。
そもそもピアノカバーの多くはデザインが昭和。
オールカバーをかけた瞬間昭和のピアノになってしまうし、フリンジのついたトップカバーをピアノにかけた瞬間、あら不思議!そのピアノは「場末のスナックのピアノ」に早変わり...
ピアノが呼吸出来るようにカバーをかけないでご使用いただくとピアノの寿命が伸びます。
床暖房からピアノを守る
床暖房とピアノの相性は悪いです。
お部屋にアップライトピアノを置いている人の中には「いやいや壁際まで床暖房が敷設されている訳じゃないから平気でしょ」と仰るのですが、それでも影響ありまくりなのが実情です。
過乾燥により木の割れ、反り、接着の剥がれなどのトラブルの原因となってしまいます。
「じゃぁせっかく床暖房あるのに使っちゃダメなの?」というとそんな事はありません。
床暖房は便利なので使ってください。
「ピアノに影響がないように対策をしましょう!」って事です。
例えば東京防音株式会社さんから出ているような断熱パネルをピアノの下に敷くことで床暖房対策が可能です。
アルプスさんのビッグパネルをピアノの下に敷くのも良いでしょう。
専用品じゃなくてもなんらかの遮熱シートを敷いて、そのままでは見た目が良くないので、遮熱シートの上にラグやカーペットを敷いてしまうのも一つの方法です。
アップライトピアノもグランドピアノも、理想はピアノの設置面積よりも少し広めに断熱パネルや断熱シートを敷くとモアベターです。
アルコールはピアノのどこにも使用しない
これは大分世の中に浸透してきました。
何故かと言うと2020年に入って間もなく COVID-19 が蔓延し始め、人々は手指はもちろんあらゆる物を除菌・消毒するようになったのです。
その時ピアノに携わる人達はピアノの鍵盤にはアルコールは厳禁であることをあらためて認識しました。
鍵盤はもちろんなんですが、外装などピアノのあらゆるところにアルコールは使用しないでください。
鍵盤にアルコールを使用すると、程なくして割れが生じます。
なんの気無しに鍵盤を拭くために使ったウェットティッシュにアルコールが入っていたという事も少なくないです。
鍵盤は専用のクリーナー(キークリンなど)で拭くようにしましょう。
キークリンで拭いたあと、もう一度乾拭きするところまででワンセットです。
大切なピアノ、少しでも長く現役でいてもらいたいものです。
定期的に調律師さんに調律に来てもらっていれば良いという事でもなくて、ピアノのオーナーさんに委ねられている部分も思いのほか大きいのです。
関連リンク : 調律を安定させる為に
by Masami Watanabe (www.piano-tokyo.jp)