ピアノに乾燥剤を入れる必要はありますか?そもそも効果はある?
結論から言うと
ピアノに乾燥剤を入れる必要はないです。
効果もありません。
実はみんな経験しています
ピアノに乾燥剤を入れても効果がないのと似たような体験を、多くの皆さんは既にしています。
お煎餅や食品と一緒に袋の中に入っている小さな乾燥剤。
最近はパッケージングが良くなったので入ってないものも多いですが、ちょっと前まではピアノに入れるシリカゲルのミニミニ版が入ってましたね。
食品の場合、シリカゲルではなく生石灰が入っていることもあります。
例えば未開封の煎餅の袋を開けて食べるとしましょう。
袋の中には小さなシリカゲルが入っているのが見えます。
季節は仮に梅雨真っ只中とします。
新品を開封した時、煎餅はパリッとしています。
全部食べずに残りは後日食べようと思い、袋止めクリップで止めておきます。
10日ほど経って、「そうだ食べかけの煎餅があったので食べよう」と思いだし食べてみると、新品を開封した直後と比べてなんだか湿気ってる。
あれ、変ですね?
だって袋の開封口は袋止めクリップで止めたし、なにより袋の中には乾燥剤(シリカゲル)が入っているじゃないですか。
乾燥剤入ってるのに効いてないじゃん!
煎餅が湿気ってしまった原因は
- 袋どめクリップは、新品未開封のパッケージほどには完全密閉出来ないので湿気が入り込む
- 湿気とともに袋を閉じたので袋の中は湿気が入っていて、小さなシリカゲルでは全ての湿気を吸収する能力がない
ということです。
完全に閉じられていない袋は、部屋が湿っていれば否応なしに湿気が入り込みます。
あんな小さなシリカゲルの粒々が吸える水分などたかが知れているということですね。
もし仮に袋を閉じる時に袋の中を真空にして、袋を新品未開封のパッケージと同程度に閉じることができたのなら、煎餅はかなり湿気らずに済んだ筈。
真冬の過乾燥が続く日だとどうでしょう?
連日乾燥注意報が出ていて湿度20パーセント台の日が続いてるとしましょう。
同じように袋止めクリップで止めた煎餅を、10日後に食べてもほとんど湿気っていません。
何故なら冬は部屋が乾燥しているから。
決して袋止めクリップやシリカゲルに効果があったのではなく、ただ部屋が乾燥していたからです。
なんだったら袋の口を開けたままでも、さほど湿気ったりしません。
ピアノは隙間だらけ
さて前置きが長くなりましたが、ピアノの場合で考えてみましょう。
ピアノに入れるシリカゲルはお菓子のそれと比べると大きいですが、ピアノの容積を考えると「お菓子とミニシリカゲル」の比とそれほど違わないかもしれません。
ピアノは屋根を閉じても隙間が出来るように造られています。
完全に隙間なく閉じてしまうと音の出口がなくなってしまいます。
仮に隙間のないように造った場合、屋根と親板は接する面が多くなり共鳴雑音を招く可能性が高くなってしまいます。
また木は時間の経過で反りが出たりするので、それを吸収する意味でも少しの隙間は必要でしょう。
そのため屋根を閉じたとき、屋根と親板・屋根と上前パネルは点で接するように、たいていゴムボタンが付けられています。
鍵盤蓋を閉めていても口棒や腕木との間に隙間が設けられています。
下前パネルの上部とサイドにも隙間があります。
下前パネルの下部とペダル窓にも隙間があります。
こうして観察すると、ピアノは「煎餅を開封したあと、閉じずに開けっ放しの状態」に近いです。
そのためピアノの中にどれだけ乾燥剤を入れても効果はありません。
部屋が湿っていればピアノの中も湿ってしまう。
部屋が乾いていてばピアノの中も乾いてしまうということです。
百歩譲ってピアノの外装のどこにも隙間がなかったとしましょう。
それでもだめなんですね。
弦の向こうに見える響板。
ピアノを箱と考える人にとってはピアノの後ろ側のパネルです。
ところが響板は表裏一体です。
内側から見える響板は後ろから見える響板でもある。
なので響板があって、響板の後ろにさらに響板を隠す外装があるのなら、響板が湿気を吸うのを防げますが、それでは音が小さくなってしまい楽器として成立しません。
響板は背中側はむき出しの状態です。
つまり響板の手前側にシリカゲルを入れても、響板の背中側は丸出しなので背面からどんどん湿気を吸ってしまうのです。
頭隠して尻隠さずみたいな。(なんか違うか)
コンプレッサー式の除湿機で除湿をしてる人はご存知のことでしょうが、梅雨時に除湿機を運転すると半日でタンクいっぱいに水が取れます。
毎日毎日タンクに水が溜まります。
一方でシリカゲルの粒々が吸える水分量なんてたかが知れてますよね。
誤解のないように付け加えると、乾燥剤(シリカゲル)に効果がないのではありません。
隙間だらけのピアノの中に乾燥剤を入れるという行為に意味がないという話です。
加えて、前述のように響板の後ろ側はむき出しです。
ピアノ乾燥剤を機密性の高いカメラケースのようなものに入れるのであれば多少なりとも効果があると思います。
でもピアノは隙間だらけだし、そもそも響板は剥き出しなので部屋が湿っていれば吸いたい放題に湿気を吸ってしまうのです。
乾燥剤は効かないし弊害も!?
ピアノの中に乾燥剤を入れても効果がないのを、日々調律にお伺いする中で何台も目にしてきています。
購入当初から乾燥剤を入れ続けているのに、カビや錆が発生しているピアノが少なくないです。
乾燥剤は効果がないので、とくに湿気の多い家のピアノはカビや錆が発生しています。
白く点々とあるのがカビです。
効果がないのでピアノはどんどん湿気によるダメージを受けていきます。(怖いですねー)
また入れっぱなしの乾燥剤が液漏れを起こし、ピアノの中がベタベタになっている場合もあります。
乾燥剤を詰め込みすぎて、ペダル天秤の動きに影響が出ている状況。
挙げ句の果てに袋が破れてシリカゲルが散乱しています...
響板の上に乾燥剤を置いてしまう人も見かけますが、ニスと乾燥剤がベタベタに張り付いてしまいます...
そして絶対に入れてはいけないのは、水取りぞうさん系の湿気とり。
ここに溜まる水はただの水ではなくて、塩化カルシウム溶液です。
これをピアノの中に入れていることをすっかり忘れてピアノの移動をする人がいます。
移動の際にピアノの中で塩化カルシウム溶液がぶちまけられて、ピアノの弦にかかった部分は全て断線。
その他のピアノの金属部品もかかった箇所は軒並み錆びてダメになります。
水が溜まる湿気とりをピアノの中に入れている人は、今すぐ取り出してください!
乾燥剤を10年買うと...
例えばこの乾燥剤は一つ¥2,100です。
だいたい2個入れることが多いので¥4,200ですね。
で、1年に1回調律するとして、その度に入れると10年で¥42,000。
ピアノの除湿機として定番化している三菱電気の180系が4万円ちょいなので、10年効果のない乾燥剤を入れ続ける費用で効果ありまくりの除湿機が買えてしまうんです。
という訳で、ピアノの湿気対策は除湿機とエアコンで部屋ごと行うことを推奨します。
まとめ
- ピアノに乾燥剤を入れても効果はない
- 乾燥剤を入れることでトラブルが起きることもある
- 効果がないので入れないほうが無難
- 湿気対策は除湿機で行う
↓正しい湿気対策は以下のページでご案内しています↓
関連リンク : ピアノの調律を安定させる為に ~湿度管理~
The author is Masami Watanabe