
グランフィールについて
まずはじめにお伝えしておきたいのは、
この技術を研究・開発し、製品化まで実現された開発者の方には深く敬意を表します。
そのうえで、決して少なくない弾き手の意見や、
私自身が数年にわたり実際に使用してきた経験をもとに、
率直な感想を述べたいと思います。

まずはじめにお伝えしておきたいのは、
この技術を研究・開発し、製品化まで実現された開発者の方には深く敬意を表します。
そのうえで、決して少なくない弾き手の意見や、
私自身が数年にわたり実際に使用してきた経験をもとに、
率直な感想を述べたいと思います。

カタログには
「グランドピアノの“あの”響きを、タッチを、アップライトピアノに」
と記載されています。
ただ、この「“あの”」という表現はやや曖昧でよく分かりません。
“あの”って“どの”やねん。
多くの方は
「詳しくは分からないけれど、アップライトピアノがグランドピアノっぽくなるのだろう」
とイメージされるのではないでしょうか。
アップライトピアノとグランドピアノには、構造上いくつもの違いがあります。
その一つが、連打の仕組みです。

・グランドピアノ:鍵盤を1/3程度戻すと次の打鍵ができる
・アップライトピアノ:鍵盤を完全に戻さないと次の打鍵ができない

グランフィールは、この差を埋めるために
ジャックを押し戻すスプリングを追加します。
これにより
「鍵盤を1/3程度戻すと次の打鍵ができる」
状態を実現しています。
簡単にいうと
グランフィール=スプリングの追加
です。
しかし、ジャックの手前にスプリングを追加する方法、
多くのピアノ技術者は禁じ手と考える筈です。

ピアノの整調(アクション調整)には、
ジャックストップレールの前後位置を調整する工程があります。

鍵盤を底まで押し下げると、ジャックは役目を終えて手前に逃げます(脱進)。

このとき、ジャックとジャックストップレールの間には
必ず隙間ができるようにレールの前後調整をします。
もしこの2つが接触してしまうと、
ハンマーが2度打ちしてしまい、正常な打鍵ができなくなるためです。
つまり
ジャックの動きを邪魔しないことが基本原則です。

グランフィールではジャックストップレールを取り外し、
その代わりにスプリングを取り付けます。
そして、本来は手前に抜けるジャックを
(手前に倒れるジャックを)
スプリングの力で強引に押し戻すことで、連打性を確保しています。
ただしこの構造では、
ジャックとスプリングが互いに押し合う状態となり、
整調の観点では好ましくない状態になります。
ジャックの動きを妨げる要素があると、 ハンマーの2度打ちが発生するリスクが増します。
実際にグランフィール付きのピアノを
ピアニッシモ〜ピアノ程度の弱いタッチで弾くと、
ハンマーがリバウンドし、
「ビョヨヨン」とした感触が指先に伝わります。
ある程度の強さ(mp以上)で弾くと回避できますが、
常に一定の強さ以上で弾かなければならないのでは
演奏表現として不自然です。

そのためグランフィールでは、さらにもう一つスプリングを追加しています。
この2つ目のスプリングはハンマーシャンク付近に取り付けられ、
物理的に2度打ちを抑える役割を持ちます。
結果として
・2度打ちは軽減される
・打弦後のハンマーの戻りが速くなる(わずかに倍音が増える)
といった変化が生じます。
ただし、スプリング追加による影響はこれだけではありません。
通常のアップライトピアノでは、
ごく弱いタッチでも音を出すことができます。
しかしグランフィールでは、
追加されたスプリングが抵抗となり、
弱い打鍵では音が出にくくなります。
(弦方向に向かうシャンクをスプリングが邪魔する)
つまり
「この強さで弾けばこの音が出る」という
全てのピアノに共通する感覚が通用しなくなってしまうのです。
これは演奏上、無視できない問題です。
一定程度ピアノを弾く人が
それなりの期間試用したなら
このような不具合は気づくものだと思われますが
この技術に関わった人は誰も気づかなかったのでしょうかね?
不思議でなりません。
※他にもある奏法で弾くと高確率で発生する不具合もあります。
ここで、スプリングの本数を整理してみます。
・グランドピアノ:1鍵あたり1〜2本
・アップライトピアノ:1鍵あたり3本(最高音部のみ2本)
・グランフィール:1鍵あたり5本(+2本追加)(最高音部のみ4本)
この時点で、ある程度想像がつくかもしれません。
タッチは明確に重くなります。
実際に同業の技術者に感想を聞いたところ、
「タッチがもちもちする」
という表現をしていました。
言い得て妙です。
ピアノ本来のスムーズなタッチではなく、
バネ感が強調された感触になるのです。
短時間であればそれなりに弾けますが、
1時間、2時間と弾き続けると、
手指への負担はかなり大きくなります。

分かりやすく言えば、
整備不良で常にブレーキを引きずっている自転車を、
「ペダルが重たいなぁ」と思いながら必死に漕ぐ感じ。
これがグランフォールです。
3本で成立している機構に、さらに2本追加。

どこか既視感があると思ったら、
子供の頃に見た某野球漫画の「養成ギプス」のような感覚です。
現実には、こうした負荷は逆効果とされており、
現代のピアノでは、より軽快なタッチが好まれます。
過度な重さは弾きにくいだけでなく、
手指や手首の故障につながる恐れもあります。
ピアノらしい爽快なタッチとは、
鍵盤が底までスッと落ち、
その過程でジャックのスナップを感じられるものです。
※ピアノ以外の鍵盤楽器にはないピアノ特有のタッチ感。
しかしグランフィールでは、
その感覚がバネによって損なわれてしまいます。
実際、グランフィールをご使用の方から
「タッチが重いので軽くしてほしい」
という相談を受けることがあります。
ただしこれは整調の問題ではなく、 追加されたスプリングそのものが原因です。
そのため私は、
希望される方にはスプリングの取り外しを提案しています。
取り外すと
・タッチが軽くなる(元に戻る)
・ハンマーのリバウンドが解消される
など、明確な改善が見られ、
多くの場合とても喜ばれます。
(普通のピアノに戻るだけなんですが)
グランドが2本、アップライトが3本という構成が
長年変わっていないのは、
それだけ完成された仕組みだということです。
安易に部品を増減する余地がない、
限りなく完成形の構造。
グランフィールに限らず、
ピアノに後付けで何かを加えて性能を変えようとする製品は、
総じてうまくいっていないと感じます。

では、スプリングを追加しなければ
アップライトピアノは弾きにくいのでしょうか?
答えは No です。
日々さまざまなピアノに触れていますが、
実は大半のピアノが
本来の整調ルールから外れた状態にあります。
逆に言えば、
正しく整調すれば
十分に弾きやすくなるということです。
実際その通りになります。
一部の超絶技巧のピアニストを除けば、
アップライトピアノでも何ら問題なく
連打・トリルを含め、十分に対応可能です。
確かにグランドピアノには優れた機能がありますが、
それだけでアップライトが劣るとするのは乱暴です。
正しく調整されたアップライトピアノは、
弾き手の要求にしっかり応えてくれます。

アップライトピアノには
グランドピアノには付いていない
ブライドルテープという部品があり
この部品がハンマーの戻りをサポートしてくれています。
また構造上ジャックはグランドピアノより
バットの下に戻りやすいと考えられます。
アップライトピアノは
縦型という制約の中で
上手く機能するよう進化し今日に至っているのです。
知れば知るほどよく考えられた素晴らしい楽器だと思います。
それでもどうしてもスプリングを追加したい場合は、
ジャックの動きを妨げない新しい仕組みが開発されるのを、
気長に待つのが良いのかもしれません。
グランフィールに関してのご質問は、
お気軽に渡辺宛 info@piano-tokyo.jp までお問い合せください。