rosenkönig ローゼンケーニッヒピアノの修理・調整
常連さんのローゼンケーニッヒ、アップライトピアノです。ローゼンケーニッヒというピアノ、詳細はあまり良く分かりませんが納品時の調律カード及び保証書が残っていて、これには「株式会社 イノセ楽器」とあります。
このピアノは、きっちり半年ごとに調律なさっていてピッチのほうは大分安定してきております。ですが、納品からちょうど30年ほど経っているのと使用頻度が高いため、消耗部品達がひどく劣化・消耗しています。騙し騙し現状のパーツで使ってきましたがついに演奏に支障が出る用になってきた為修理する運びとなりました。
今回、鍵盤からアクションまでの消耗品を交換することになりましたが修理するきっかけとなったのは少し変わった現象の「スティック」でした。
※「スティック」とは、ピアノアクションや鍵盤等の 稼動部が動きが悪い状態もしくは動かない状態をいいます。このピアノの「スティック」は、 f か ff で打鍵すると2回目以降の音がしばらく出なくなるという症状でした。p や pp では再現されません。原因を調べます。鍵盤は問題無し、アクションのフレンジも問題無し。はて、どこが原因だろうかと思いましたがありました。スティックの原因は、ダンパーレバークロスに空いたクレーターです。f か ff の強さで弾いたときにダンパースプーンがクレーターにすっぽりと納まりウイペンが元の位置に戻れない為に2度目以降の打鍵が出来なかったようです。この部分を含め、他の消耗部品も同時に交換しストレスのない軽いタッチのピアノになるように修理をします。
ピアノの現状は硬くなったキャッチャースキンがバックチェッククロスを削りキャッチャーやキャッチャーシャンクの上が緑色になっています。
鍵盤下にもバックチェッククロスやウィペンヒールクロスが大量に落ちています。毎回掃除してもたくさんお弾きになるので、次にこのピアノを調律に来るとこうなっています。
レギュレチングレールも緑色のクロスが大量に確認できます。
ピアノのアクションや鍵盤等を修理する為に一度それらをお預かりしました。
ピックアップしてきたピアノのアクションと鍵盤です。
まずバットフレンジのセンターピンの交換から始めましょう。センターピンを交換する目的はセンターピンそのものを新しいものにすることで錆や汚れの無い状態にしたいのとブッシングクロスを再調整しトルクを適切にすることです。現状では使用頻度の高い中音付近のトルクがスカスカで最低音部と最高音部ではトルク過多が散見されます。
今回使用するセンターピンはドイツの RENNER のものです。
古いセンターピンを抜いたら専用のリーマーでバットフレンジにとって丁度良いトルクになるように調整します。
リーマーが削ったブッシングクロスのカスをブロワーで吹き飛ばします。削りカスを残したままだと良くありません。細かいところまで、きちんと作業しておくことで質の良いタッチの弾きやすいピアノに仕上がります。
バットのフレンジとの接点にバリがありました。
動作の妨げや雑音の原因となる事がありますので研磨しておきます。
トルクがちょうど良い状態になったら新しいセンターピンを挿入し、
余分な部分をセンターピンカッターで一思いにカットします。
カットするとこのようになります。防錆・潤滑として、バットフレンジに推奨されている潤滑剤を僅かに塗布しています。
ジャックとウィペンのセンターピンも最適なトルクになるよう全て交換します。
このピアノのフレンジの来る部分は加工が悪くバリやささくれが目立ちます。
研磨しておきます。
ジャックとウィペン、88本×2の176本全てののセンターピンを交換しました。ジャックとウィペンのセンターピンにも専用の潤滑剤を僅かに塗布してあります。
ダンパーのセンターピンも全て交換します。
ダンパーもバリやささくれが多いです。
研磨しておきます。
フレンジの内側にもバリやささくれがあります。
綺麗にしておきます。ダンパーは最高音部は付いていませんので70本近くを全て交換しました。ダンパーのセンターピンにも専用の潤滑剤を僅かに塗布してあります。
キャッチャースキンとバットスキンは動作に支障が出るほどに軽石のようにガサガサになっていました。センターピンもそうですが革、フェルト、クロスも消耗品ですので一定の期間経過し劣化したり消耗が酷い場合は交換が必要です。劣化・消耗した部品のままではいくら調整しても良いピアノになりません。
古いキャッチャースキンとバットスキンを全て取り除いていきます。
スキンが取り除かれたキャッチャーとバットになります。大変手間が掛かりますが古い接着剤を残さないように綺麗に取り除いておく事が大切です。
新しいスキンは長物になっているので裁断していきます。今回使用するスキンはバットには質の良いドイツ製の Renner のスキンを。キャッチャーには 同じくドイツ製の Abel を使用します。
新しいバットスキンを貼ります。
キャッチャースキンも新しいものに。
新しいスキンは綺麗ですね。
Abel のキャッチャースキンは発色が良いので見た目もこれまでより美しくなると思います。ドイツ製の良質なスキンは手触りが良くしっとりしています。タッチ感の向上が期待出来ます。
全てのキャッチャースキンとバットスキンを交換します。
ウィペンヒールクロスの現状はキャプスタンと何度も擦れくぼみが出来且つ硬化しています。ヒールクロスの表面に凹凸が出来てしまうとキャプスタンのスムースな動きを妨げタッチに影響します。バックチェッククロスも硬くなったキャッチャースキンによって大分削られていましたのでバックチェッククロスと併せて新しい物に交換します。
現在付いている古いウィペンヒールクロスとバックチェッククロスを取り除きます。バックチェッククロスは電動工具でサンディングしました。
取り除かれたクロス達です。
クロスが取り除かれたウィペンです。
全てのウィペンヒールクロスとバックチェッククロスを取り除きます。なかなか手間が掛かりますがタッチの良いピアノにする為に必要な作業です。
新しいウィペンヒールクロスとバックチェッククロスにはRenner(ドイツ製)のクロスを使用します。
裁断していきます。
新しいウィペンヒールクロスになります。
こちらも新しいバックチェッククロスです。
88本×2で176全てのウィペンヒールクロスとバックチェッククロスを交換しました。
ウィペン部分を修理しているついでにヤスリと化したダンパースプーンを磨きます。このガサガサのダンパースプーンが弾けば弾く程、ダンパーレバークロスを削っていく悪循環となっていました。
ほぼ全てのスプーンが荒れた状態でした。
右の2つが磨く前のダンパースプーン、左の2つが磨いたダンパースプーンです。磨いた後に潤滑剤を塗布しておきます。非ペダル使用時のタッチが軽くなります。
今回このピアノの修理をするきっかけとなったダンパーレバークロスを全て交換します。見事なまでに消耗しています。
下の楕円形の窪みがダンパースプーンとの接点。上部の横に走る窪みがダンパーロッドとの接点です。
消耗したダンパーレバークロスを取り除いていきます。古いクロス、接着剤を残さないように丁寧に下処理しておきます。
キーによっては、このように穴があく程に消耗していました。
新しいダンパーレバークロスを必要なサイズに裁断していきます。使用するクロスは JAHN(ドイツ製)のものにしました。
カットしたダンパーレバークロスが用意出来ました。
全てのダンパーレバークロスを新しいものに交換していきます。
ダンパーのクロスを交換したついでにダンパーレバースプリングに潤滑剤を塗布しておきます。非ペダル使用時のタッチを軽くするのとハンマーの失速を減らし音色を明るくし雑音の防止にもなります。
ダンパーレバークロスを削っていたもう一つの原因、ダンパーロッドの状態です。
なかなかに表面が荒れています。
ダンパーロッドを磨き直しました。磨いた後で潤滑剤を塗布しておきました。雑音の防止とペダリングを軽くするのが狙いです。
磨いた後にピアノにセットした状態です。綺麗に光ったダンパーロッドはスムーズなペダリングの助けとなってくれる筈です。
事務所のテラスで休憩していたら大量の鳥達が飛んでいきました。大分日が落ちるのが早くなりました。
ハンマーの現状です。大分弦溝が入ってます。
横からみると先端が押しつぶされているのが分かります。
先端がつぶれたハンマーは、弦に対して面で当たるようになりますので良い音が出ません。
ハンマーは新しいものと交換したいところですがお客様のご予算の関係で今回は現状のものを修正して利用します。
ハンマーの弦溝を取り除き形を整える為にファイリングをします。
弦溝が無くなりスッキリしました。
先端の出た形状にしました。大分使ったハンマーなので大胆に削っていくとハンマーの重量が軽くなり過ぎてしまいますので兼ね合いで、この程度で折り合いをつけました。
鍵盤の修理に移ります。
バランスブッシングクロスがすり減っています。弾いていると鍵盤の横ぶれが気になるレベルです。雑音も出ています。
フロントブッシングクロスも同様に消耗しています。
消耗したキーブッシングクロス、88鍵全てをアイロンで剥がしていきます。
新しいキーブッシングクロスにはJAHN(ドイツ製)のクロスを使います。
キーブッシングクロスの接着には液体「膠(にかわ)」を使います。美味しそうですが、間違って飲んではいけません。
バランスブッシングクロスを貼り駒を使い接着します。
フロントブッシングクロスも同様に全て交換します。
キーブッシングクロスが接着出来たら余分なクロスをカットします。
綺麗に仕上がりました。古いブッシングクロスを剥がす際にアイロンのスチームを使っているのでバランス・フロントホールがキツくなってしまいます。私は手持ちのバランス・フロントピンを使って事前にある程度キーホールのトルク調整を行っています。後は、ピアノにセットして微調整だけで済みます。
鍵盤後端のキャプスタンボタンですが黒鉛が取れ、表面がガサガサになっていました。
キャプスタンは一度研磨してツルツルにして
液体黒鉛を塗り直しました。鍵盤とアクションの橋渡しとなる場所ですのできちんとしておきたいところです。
鍵盤の後端底面にも問題がありました。処理が悪くささくれていてバックレールクロスが引っかかって付着していました。ピアノによってはこの位置より手前にバックレールクロスが来るので影響はありませんがこのピアノのバックレールクロスは鍵盤の後ろに掛かってくる位置となっているので念のため研磨しておきます。
全てサンディングしました。
鍵盤後端底面がツルツルになりました。
鍵盤材の合わせ目が剥がれて浮いていたので接着剤を圧入し接着しました。
黒鍵のサイドに塗装の剥がれが目立ちます。
黒鍵専用塗料を使って塗り直します。
綺麗に仕上がりました。
全て塗り直しました。
ペダル突き上げ棒のガイド部分のクロスがすり減っていて雑音が出ていました。
消耗したクロスを剥がし
新しいクロスを貼りました。
突き上げ棒の先端のスキンも硬化していました。
新しいスキンに交換しました。
ペダル突き上げ棒のクロスとの接点には木部にも使用出来る潤滑剤を塗布しておきます。
アクションや鍵盤等が仕上がりましたのでピアノにセットして再調整をします。
その前に屋根のロングヒンジが共鳴していたので雑音防止措置を施しておきます。
フロントキーピンには鍵盤のブッシングクロスがこびりついています。
落とすのが大変でしたが何とか綺麗になりました。錆が酷い場合は交換しますが今回は磨き直しで再利用出来そうです。
磨いたあとはキーピン用の潤滑剤を塗布しておきます。鍵盤の動きにロスが無い状態になるとタッチはもちろんですが、鳴りも変わります。
バランスピンも薬品を使って汚れを除去してから潤滑剤を塗布しておきます。
棚板も掃除して綺麗になりました。このピアノには消音ユニットも付けてあるので棚板にはセンサーがあります。光センサーはゴミが障害となって誤動作することがあるので毎回の調律の際に掃除しておきたいところです。猫のいるお宅等では僅か半年で、棚に結構な毛が入り込んでいます。
フロントパンチングクロスは柔らかい国産のものからドイツ製の硬くしまったものに交換します。
左が国産、右がドイツ製のものです。触ってみると違いが分かります。
全て交換します。
この日は調律は行わず整調と整音を一日掛けて行いました。これまで消耗したフェルト、クロス、スキンで調整していたものが、新しい部品になったので整調は全て一から見直さなければなりません。全ての調整を終え、試弾してみるとなんとなく重かったタッチは、全てのロスが無くなった事で想像通り非常にスムーズで軽いタッチになり鍵盤に指を置くとスーっと自然に降りる感覚です。連打性も向上しました。また、音の鳴りが大分良くなりました。硬くなり過ぎていたハンマーは整音でお腹から歌うように調整しました。この音色とタッチでしたら長時間弾いていても疲れないと思います。お客様にも試弾して頂いて OK をもらいこの日の作業は終了です。少ししたら半年後の調律のタイミングが来るのでその時に調律とその他調整を見直したいと思います。あとハンマーが小さく軽くなっているので次回、鍵盤後部に鉛を追加して少しバランスを取ってあげるとより弾きやすくなると思います。
猫にベッドを新調してあげましたが少々小さかったようです。ベッドが小さいのではなく猫が大きいのかもしれません。
【ローゼンケーニッヒの修理・調整@東京都練馬区 】