S.Kriebel(S.クリーベル)ピアノの修理・調整
S.Kriebelピアノの調律にお伺いしました。異常に鍵盤の重いピアノでダウンウェイト(DW) が 70g 程度あります。任意のキーの全てのアッセンブリーを外してフレンジの動作をチェックするとトルク過多というか、完全なスティック状態で回転軸が動けない状態になっていました。このピアノのタッチが重い原因の一つはこの「フレンジのスティック」です。
※「スティック」とは鍵盤やアクションのフレンジなどの 稼動部が動きの悪い状態になっている 或は動かない状態になってしまっている症状をいいます。 湿度の高い環境や結露等で症状が起こりやすいです。
試しに特定のキーの4箇所あるフレンジのセンターピンを交換し、トルクを適正にして部品をアクションに戻して DW を計り直すと現在の一般的な重さ 50g になりました。アクションのほぼ全域でスティック傾向のようなので一旦アクションをお預かりしてスティック修理(全てのセンターピンの交換)をする事になりました。
もう一点、現在このピアノのご使用者さんがお困りなのは鍵盤を降ろしたあとしばらくの間鍵盤が下がったままになってしまう症状。これの原因はダンパーレバークロスに深い窪みが出来てしまいそこにダンパースプーンの頭が引っかかってウィペンが元に戻れなくなる為に起きていました。スティック修理と併せてダンパーレバークロスの交換も必須です。
ピアノの鍵盤が重い場合、その原因は多様ですが今回のS.Kriebelピアノの場合は
- フレンジが酷いスティック状態である
- ダンパーレバークロスが消耗し穴があいている
ではお預かりしてきたアクションをあらためて診ておきます。この状態がバットフレンジが完全に戻っている位置。(スタンバイ位置、スタート位置)
バットフレンジを起こして手を離すとそのままの位置で止まってしまい二度と元の位置に戻ることがありません。通常はバットスプリングの力で元の位置に戻ります。バットスプリングの力では戻しきれないほどにフレンジがスティックを起こしている状態です。フレンジのスティックが鍵盤の重さとしてタッチに影響してくる訳ですね。
さっそくハンマーのバットフレンジからセンターピンを新しいものに交換していきます。
バットから外されたバットフレンジです。下にあるピンがこれから交換に使う新しいセンターピンです。尚、このS.Kriebelのデフォルトセンターピンの番手は#21でした。
上が取り外した古いセンターピン。下が新しいものです。古いセンターピンの表面は錆などで荒れていてスムーズな動作の妨げとなっていそうです。
湿気で膨張してしまったブッシングクロスを専用のリーマーで丁度良いトルクになるようブッシングクロスを削って調整します。
削りカスを残さないようにブロアで飛ばします。
新しいセンターピンは長いので余分な部分をセンターピンカッターでカットします。
センターピンをカットしたあと潤滑剤を僅かに塗布します。バットフレンジには少し粘度のある潤滑剤を使います。
順調にバットフレンジのセンターピンを交換していたらグニャリとまがったセンターピンが何ヶ所もありました...
上が曲がったセンターピン。
これも僅かに曲がってますね。
おそらく以前の調律師さんがかなりの馬鹿力でバットプレートスクリューを締めたために曲がったのではないでしょうか。国産のセンターピンが柔らかめと言ってもこれはかなりの力でしめていますね。回転軸が直線でなく曲がっていてはフレンジがスムーズな回転が出来ません。
またまたおかしなものが出てきました。
バットフレンジコードが色違いで混在しています。よく診て行くとどうやら中音域はオリジナルのフレンジのままで低音域と高音域だけフレンジごと新しいものに交換されているようです。
中音のフレンジコードは一部のみ交換されていて他より白くなっているのが分かります。中音域のようなフレンジコードはヤマハのそれと同様劣化して切れてしまうもののようなので低音、高音にあわせてグリーンのフレンジコードに交換しておきました。
古いフレンジコードは薬品で綺麗に処理できます。これでフレンジコードの劣化・切断の心配が無くなり全域が同じ色で揃いました。
全てのバットフレンジのセンターピンを交換しました。
ジャックとウィペンのセンターピンも同様に全て交換します。
出先でのスティックの応急処置で以前の調律師さんが何か塗布したのかブッシングクロスの周りに染みが出来ていました。
ジャックとウィペンのセンターピンを全て交換しました。
ダンパースプーンは現状このようにザラザラの状態となっていて弾くたびにダンパーレバークロスを削ってしまうことに。
ダンパースプーンの付け根に白く溜まっているのが削られたダンパーレバークロスです。
ダンパースプーンはツルツルに磨き直してこの部分に最適な潤滑処理をしておきます。
綺麗に磨かれたダンパースプーン達。スムーズに動きそうです。
ダンパーフレンジのセンターピンも全て交換します。
ダンパーの古いセンターピン達...
ダンパーレバースプリングも潤滑処理しておきました。雑音の防止とペダルを使わないときのタッチを軽くします。
ダンパーレバークロスにあいてしまった落とし穴。
穴よりも上の位置にはダンパーロッドとの接点がやはりへたっています。
新しいダンパーレバークロスを必要な分カットします。
必要な数、用意できました。
古いレバークロスを取り除きます。古い接着剤などを残さないように処理しておくのがポイントです。
全て綺麗に取り除きます。
新しいレバークロスに交換されました。
全て交換しました。
取り除かれた古いダンパーレバークロス達。
ダンパーロッドも表面がザラザラになっています。ダンパーレバークロスを痛めるのと雑音の原因になってしまいます。
ツルツルに磨き直しました。ペダル使用時の雑音が無くなりダンパーレバークロスを痛める事も無くなります。
アクションに戻します。綺麗ですね。
ハンマーは先端が潰れ変形しています。
弦溝も大分ついてしまっています。
ハンマーをマイクロフィニッシングフィルムでファイリング処理します。弦溝を取り除きたいのと、ハンマーの形状を整える目的です。
このような形に整形しました。
アクションのほうはひとまずこれでスムーズに動けそうです。
ピアノにセットする前に前後キーピンを薬品を使って清掃します。結構汚れています。キーピンは掃除したあとに潤滑処理しておきました。
整調をさらい直して今一度鍵盤の重さを計測します。概ね50から55gの間におさまりました。作業前は70g近くありましたからタッチは相当軽く弾きやすいと感じる筈ですし長い時間弾いていても、これくらいの重さであれば辛くない筈です。
あとはお客様がご希望であれば鍵盤の重さのばらつきを修正してやるとさらに弾きやすいピアノになると思います。
また一定期間経過したピアノは今回のようにアクションの総点検を行うことで通常の出張で行う定期調律では見逃されがちな不具合を全て見直し出来ますのでなんとなくピアノの調子が優れないなとお感じの方は一度アクションの再調整に出されることをオススメします。
実はこのピアノには面白い仕掛けがあって
こんなところにこんなものや
こんなものがあります。
これは上前パネルの上部、つまり譜面台の上部に蛍光灯がセットされていて譜読みの際に明るく照らせるようになっているのです。ちょうどアンティークピアノの蝋燭台の現代版といった感じです。なかなか面白いアイディアだなと思います。
ゲイリー・バートンを聴いてきました。「バートングリップ」なる彼のマレットさばきはやはり実際に見てもどうなっているのか分かりませんでした。
【S.Kriebelピアノの修理・調整@東京都文京区 】