ヤマハ グランドピアノG2A(No.G2)の重たい鍵盤を軽くする
埼玉県でピアノの先生をしている方のグランドピアノの鍵盤が非常に重く、生徒さんは家では上手く弾けるのにこの教室のピアノを弾くとタッチが重くて弾きにくい事があるようです。
ピアノはヤマハのG2A(No.G2)、製造番号61万番台で、昭和44年納品のグランドです。
私が弾いてみた感じでも鍵盤は押し込むようにかたく反応ももっさりとしています。分銅で鍵盤の重さを計ってみたところ60g の鍵盤が数鍵あってほとんどの鍵盤は 65g から 70g 超えといった重量級の鍵盤です。分銅で重さを計る際、挙動が悪く計りにくかったのでフレンジのスティックや前後キーピンのトルク過多、各部潤滑不足などが疑われます。試しに任意のキーのフレンジのセンターピンを全て交換し適正トルクにして当該鍵盤の稼動部トルクを見直して再度計り直すと 55g になりました。読み通りです。
そのため弾きにくい状態を解消するため
- アクションのセンターピンの全交換
- ローラーナックル全交換
- 鍵盤鉛の追加
を行う事となり、いったんアクションをピックアップして調整しなおして再度ピアノに戻して再調整をすることになりました。
ピアノの鍵盤が重たい場合原因はケースバイケースですがこのピアノの場合、主にスティックが原因です。スティックを解消してやると鍵盤は今より全体に軽くなりますがそのままでは鍵盤ごとの重さのバラツキが残るので最後に鍵盤鉛でバランスをとる事にします。
お預かりして来たアクションです。窓辺の自然光の下が作業しやすいです。
夜は細かい部分が見ずらくなってきた、年だな...
ハンマーフレンジのセンターピンから交換していきます。
現状ではシャンクローラーは潰れて変形しセンターピンには緑青が出ています。ブッシングクロスも膨張しトルクが有り過ぎの状態です。
デフォルトセンターピンは #21 です。
上がもともと付いていた古いセンターピン。下が新たに使用するセンターピンです。
リーマーで適正トルクになるようフレンジのブッシングクロスを慎重に削っていきます。
ブッシングクロスの削りかすを残さないようブロアで吹き飛ばします。
シャンクやフレンジにバリやささくれがある場合はこの段階で取り除いておき雑音のリスクを回避します。
適正トルクになったら新しいセンターピンをセットし
センターピンカッターで余分な部分をカットします。
仕上げにシャンクフレンジに最適な少し粘度のある潤滑剤を僅かに塗布します。
交換された状態です。緑青が無くなり綺麗に輝いています。スムースに回転してくれそうです。
ハンマーのフレンジから取り外された古いセンターピン達。
全てのハンマーのセンターピンを交換しました。全部で88本です。
ウィペンアッセンブリーの3箇所あるフレンジのセンターピンも全て交換します。
こちらもセンターピンの断面には緑青が出ていてフレンジは酷くスティックぎみです。スティックによる抵抗感が、鍵盤を重くしています。
交換後のセンターピン断面です。綺麗ですね。
ウィペンから取り外された古いセンターピン達。
全てのウィペンのセンターピンを交換しました。全部で264本です。地味で時間の掛かる作業ですが小さい事の積み重ねが良いタッチへと繋がります。ハンマーのセンターピンとあわせて352本のセンターピン全てが交換されました。
ハンマーアッセンブリーで他にも気になる部分が。ハンマーのローラーが潰れて変形、消耗しています。本来ならハンマーヘッドを含むハンマーアッセンブリーごと交換したいところですがお客様のご予算の都合で今回はセンターピンとローラーナックルの交換で対処してハンマーヘッドはまだ使えそうなので整形(ファイリング)して延命することにします。
交換に使用する新しいローラーナックルです。
新旧ローラーを比較してみると古いシャンクローラーが変形していることが分かります。
さっそくローラーナックル交換していきます。古いローラーを取り外します。シャンク側に古い接着剤が残らないように綺麗に処理しておきます。
新しいローラーを取付けます。綺麗な丸い形状はタッチが良くなりそうな感じです。アクションとハンマーの唯一の接点がこの部分になりますので、ローラーの形状や表面の状態は重要です。
全てのローラーを交換していきます。
取り外された古いローラー達です。
全て交換しました。美しいですね、ピアノ本体に戻すのが楽しみです。
ハンマーヘッドは現状では変形して輪郭のはっきりしない先端の潰れた形状になってしまっています。
マイクロフィニッシングフィルムを使ってハンマーをファイリングします。
右が作業前の形状で左がファイリング後の形です。弦との接点を最小限にして綺麗な音が出るような狙いです。
ハンマーをアクションに取付けて走りを調整する為フレンジの裏に紙を貼ります。
黒鍵の脇の塗装がだいぶ剥げてしまっていたので
黒鍵用の塗料で再塗装しておきました。
譜面台のクロスも長年の使用で破れています。
新しい譜面台クロスに交換しました。
ようやくお客様宅でアクションをピアノに戻しますが、アクションをピアノに戻す前に再度、鍵盤調整を見直します。緩すぎてもキツすぎてもダメです。 この行程を正確に行うだけでも大分弾きやすくなります。
鍵盤にバリやささくれが見つかった場合は
雑音の原因となることがあるので、この時点で取り除いておきます。
あらためて整調を見直します。特にハンマーのローラーを交換しているので以前と設定がかなり変わってしまう為一から見直していきます。
ここまでの作業で全体に10gくらい軽くなりましたが全体に重さのバラツキがあるのを揃えたいのともう少し軽くなるようにしたいので、貼付け式のタッチ調整鉛をベストな位置に追加していきます。
鉛はこんな感じでバラバラの位置に配置されますがこれで鍵盤手前側の重さが揃うようになります。
鍵盤の裏側(底面)に鉛が追加されました。
あらためて鍵盤の重さをチェックします。もともと 70g 近くあった鍵盤は 50g まで軽くなりました。細かいところでは、鍵盤が下がる重量より上がるほうを優先して調整してあります。鍵盤は軽くしつつ、追従性はしっかり確保しました。
長年鍵盤が重たいまま使われていたヤマハG2A(No.G2)が軽く弾きやすい鍵盤のピアノに変わりました。お客様に試弾してもらって OK をもらい作業完了です。しばらくは今までの重たい鍵盤のつもりで勢い良く鍵盤を叩いてしまうかもしれませんがすぐに慣れることでしょう。これで生徒さんが自宅のピアノとの重さのギャップで戸惑うこともなくなりますね。
作業中の湿度です。48パーセントくらいでしょうか。常にこのくらいを保てていれば調律や時間を掛けてやった調整が崩れにくくなります。
鍵盤が重たいピアノを使っていてお困りの方鍵盤の重さは物理的に軽く出来ますのでまずはメールにてご相談くださいませ。
【ヤマハ グランドピアノG2A(No.G2)の調整@埼玉県所沢市 】