ピアノ調律に関する用語集
Pedal(ペダル)
古いピアノなどは2本だったりします。最近のものは3本が主流です。ペダル装置は1783年ブロードウッドが発明。
右のペダルはダンパーペダル(ラウドペダル)と言い、その名の通りダンパーを開放するので、鍵盤から手を離しても音は鳴り続けますし、すべての弦が開放されているので華やかな音にもなります。みなさんがもっとも頻繁に使うペダルですね。
真ん中のペダルは、アップライトピアノとグランドピアノでは機能が異なります。アップライトのソフトペダルはマフラーペダル(弱音ペダル)と言い、このペダルを下げることでハンマーと弦の間にフェルトが1枚入ります。つまりハンマーはフェルト越しに弦を叩くので音が弱く(小さく)なるわけです。Y社のサイレントピアノの場合このペダルが消音ペダルとなっています。グランドピアノの中央のペダルはソステヌートペダル(サスタニングペダル)と言い、ダンパーペダルが全ての弦を開放するのに対し、任意の音だけを開放出来るペダルです。1862年にモンタルが考案。現代音楽などで使われる事がありますが、一般的にはあまり使用頻度の高くないペダルでしょうか。ピアノの先生でもこのペダルの使い方をご存じない方がいるくらいですので...。ごく一部のアップライトピアノでソステヌートやベースダンパーが付いている機種もあります。
左のペダルはソフトペダルと言い、ごく小さい音(ピアニッシモetc)を出したい場合や、若干音色の表情を変えたい時などに使用します。グランドの場合「シフトペダル」「ウナコルダペダル」ともいいます。アップライトではハンマーが弦側に少し前進するという構造上、音量は小さくなるものの音色の変化が無いのであまり効果が得られませんが、グランドではその効果はかなりあります。グランドのウナ・コルダ(una corda)(u.c.)は鍵盤からアクションまでの全体が右へシフトする構造になっていて、中音から高音ならばハンマーは普段3本の弦を叩いているところ、シフトすることで1本少ない2本で叩く事になるので、効果が明確になります。完全に2本にするのではなく、少しハンマーが横にずれることで、普段ハンマーが叩いていない部分(弦溝ではない部分)で弦を叩くことで音色がソフトになる効果も得られます。ウナ・コルダを踏んだ状態から戻すことをトレ・コルダ(tre corda)(t.c.)と言います。ウナ・コルダを直訳したならば、ウナ(1本)、コルダ(弦)となります。「1本の弦」。しかしウナ・コルダを踏んだ時、中音から高音は2本の弦をハンマーは叩いています。あれ?おかしい?実は昔のピアノは中音、高音の弦が2本だった時代があって、これならば1本の弦になります。シフト装置そのものは、1722年にクリストフォリが製作したピアノにハンド・ストップの形で既に存在していて、実際にはダンパーよりも歴史が古いです。
Piano(ピアノ)
1709年にイタリアのチェンバロ職人バルトロメオ・クリストフォリ(1655-1732)が発明(したと言われている)。後継者はジルバーマン。チェンバロは爪で弦を引っ掻くスタイルで発音するため強弱が付けられなかったが、ピアノの発明により強弱をつけることが可能となったのは大変画期的なことです。中間レバーやバックチェックも存在しました。グランドピアノのような平型のスタイルがそもそものピアノの形で、グランドピアノの登場からおよそ100年後に縦型の所謂アップライトピアノが完成しました。クラヴィ・チェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテが正式名称ですが、ピアノ・フォルテと省略され、今日では通例ピアノと呼ばれています。クラヴィ・チェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテは弱い音も強い音も出せるチェンバロという意味です。
Piano Technician (調律師)
Piano Tuner・ピアノチューナー参照→
Piano Tuner(ピアノチューナー)
ピアノ調律師。ギターのチューニングのようにチューニングメーター(注1)等は使わず音叉で49Aに基音をとり(最近は温度に左右されないチューナーで基音をとることが多い)、中音の33Fから45Fで平均律に割り振り、それを88鍵に展開します。基音以外は耳のみで調律します。但し季節によっては、温度により音叉が正確ではなくなる場合もあり、また最近では、きわめて精度の高いチューニングメーター(注2)もあるため、必要に応じてチューニングメーターで基音取りすることも多いです。大きくピッチが低下している場合は下調律(粗調律)が必要になりますが、下調律の時間短縮の為にチューニングメーターを使用するケースもあります。俗にいう絶対音感は調律の時には使いませんし必要ありません。
人間が行う作業ですから、各々の調律師により当然音色や鳴り、音の伸びといった仕上がり微妙に違ってきます。(音楽的に問題があるほどは違いません)音律においても違いは表れますし、作業への取り組み方も人それぞれです。調律師さんによって「こだわり所」というのが当然違ってくる為でしょう。技術屋としてのプライドが仕事に大きくあらわれます。調律士ではなく通例「調律師」と書きます。もちろん調理師ではありません...
(注1)「チューニングメーター」はチューナーとも言い、調律師のこともチューナーと呼ぶことがあり紛らわしいですね。
(注2)「精度の高いチューニングメーター」とは、従来からのストロボチューナーや最近ではレイバーンサイバーチューナー(RCT)やTuneLab等。
関連リンク : 調律師ブログ
Pitch(ピッチ)
時々、調律師がお客様に聞く「Aの高さは440それとも442ですか?」とお伺いするアレです。音高、音の絶対的な高さのことです。特に何Hzじゃなければいけないという事はありません。クラシックだから何Hz、ジャズだから何Hzといった決まりも無いので念のため。ただ他の楽器(弦や管)との兼ね合い上、442もしくはそれ以上高くするというケースはあります。現在、コンサートホールでは A=442Hz 、レコーディングスタジオでは A=441Hz が多いです。昨今少し高くなり過ぎてしまった感のあるピッチですが、もう少し下げようという動きもあるようです。ピッチの御指定がある場合は、調律を初める前に一言お申し付けください。
個人的には特にピッチを高くする必要性が無い場合は49A=440Hzを推奨しています。理由はA=442Hzで調律し続けると、A=440Hzで調律しているピアノに比べ、弦の寿命がおよそ3倍もが短くなるからです。ずっとA=440Hzで調律されていたピアノの弦は、湿度管理ができていれば60年、70年、弦が生きているのですが、A=442Hzで調律され続けたピアノは、実体験として25年から30年くらいで弦の賞味期限が来てしまっている印象を受けます。賞味期限が来てしまった弦でも演奏は出来るのですが、弦の柔軟性が失われているので膨よかな伸びのある音が出なくなってしまいます。全弦張り替えはそれなりの費用が掛かります。家庭のピアノは消耗品の交換スパンを出来るだけ長くしたいところ。そんな理由からA=440Hzで調律することをオススメしております。
- 1834年のシュツットガルト会議でA=440Hzと決められる
- 1859年のパリ会議でA=435Hzと定められた
- 1885年のウイーン会議においてもA=435Hzと決議され
- 1939年のロンドン会議で再びA=440Hzと決められる
A=442Hzやそれ以上高いピッチというのは、まさにルール無視で行われているある種のトレンドと言えます。
標準音高以外では、バロックピッチはA=415Hz。クラシカル(古典)ピッチはA=430Hz。
Pressure bar(プレッシャー・バー)
アップライトピアノで、チューニングピンとアッパーブリッジの間に配置されている金属製のバー。このバーの押圧で弦を屈折させ、ベアリングを得ている。弦の屈折角度は14度から17度くらい。こじ角が大きいと断線を招くことがあり、こじ角が小さいと音量に影響が出ます。「針金押さえ」とも呼ばれます。
ピアノや調律に関するご質問は、
お気軽に渡辺宛 info@piano-tokyo.jp までお問い合せください。